いよいよお別れだ
俺とまもるさんが居間に入ると、テーブルの上にはずいぶん豪華な食事が並んでいた。
「今日はお別れパーティーだからね。店を早く閉じて準備していたんだよ」
エリンさんとタスさんは二人とも笑顔全開だ。でもエニスはちょっと硬い表情だ。
とりあえず俺達は席に着いた。
「さあヨウイチさん達の帰還を祝して、乾杯!」
エリンさんが音頭をとって俺たちは乾杯した。食事はにぎやかに始まったが、やっぱりエニスは少し表情が硬い。
俺はエニスの隣まで移動した。
「どうしたんだ?」
「いえ、ちょっとさみしくて」
一年以上一緒に暮らしたんだし、俺だってそういう気持ちがないとはいえないな。
「わかるよ。エニスはよくできた妹って感じだったしな。あっちの妹とは大違いだ」
「え? ヨーイチさんには妹さんがいるんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ。というか俺の家族のことなんて話したことなかったよな」
「そうでしたよね。聞かせてくださいよ」
「ああ、妹は大体エニスと同じくらいで、名前は世菜っていうんだ。これが困った奴でさ」
「どんな人なんですか?」
「俺をからかうことしか考えてないな。勉強なんかは俺よりできるけど」
「仲がいいんですね」
「そうかなあ」
「そうですよ。あたしにはわかります」
「だといいけど」
「少なくとも、あたしにとってはヨーイチさんはいいお兄さんでしたよ」
「そっか。ありがとうな」
「なんか、暗い顔しててごめんなさい。せっかくうれしい報せがあったのに」
「いや、俺だって戸惑ってるし、仕方がないだろ」
俺がそう言うとエニスはうつむいてから、うなずいた。
「わかりました! さあ、せっかくお母さんとお父さんがご馳走を作ってくれたんですから、今は食べましょう」
「だな」
それからは楽しく食事が進んだ。
パーティーが終わってから、俺達はギルドの前に向かった。すでにそこには町中の色々な人達が集まっていた。
その中からオーラさんが俺のほうに向かって歩いてきた。
「ヨウイチさん。今までありがとうございました」
そう言って俺に向かって手を差し出した。俺はそれを軽く握り返した。
「こちらこそ、ありがとうございました」
オーラさんは手を放してから、その手を懐に入れて、小さな袋を取り出した。
「餞別です。帰ったら開けてみてください」
受け取ってみると軽くて硬い感じのものが入っているのはわかった。まあ危険なものじゃないだろうから、おとなしく言われた通りにするか。
その後も色んな人に次々に話しかけられた。
「そろそろだぞ」
しばらくしてからじいさんの声が聞こえてきた。
「ああ、わかったよ」
それから俺はまもるさんとポクーラに声をかけた。
「二人とも、そろそろらしいよ」
そういうわけで俺たち三人は他の人達とは離れた場所に立った。
「まずはここに迷い込んだ彼からだ」
「ポクーラ、まずはお前からだって」
「わかりました」
ポクーラは本がたっぷり入った袋を大事そうに抱えた。すごい量だな。気になっていたけど今まで聞いてなかったことをじいさんに聞いてみることにする。
「なあ、違う世界からああいうのを持っていってもいいのか?」
「危険なものはないし、彼の世界は平和だから問題はないだろう」
いいかげんだ。
「では、いくぞ」
その声と同時に、ポクーラの足元が光りだした。そして、その光はゆっくりとポクーラの全身を包んで、消えた。
ああ、簡単なもんだ。
「次は私達ね」
まもるさんがそう言って、一枚の紙を俺に差し出してきた。
「私の連絡先。要一君のも教えておいて」
「はい、いいですよ」
俺は紙を受け取ってから、近くの人に紙と書くものを借りて、自分の携帯番号をまもるさんに渡した。
「要一君は才能がありそうだし、また会うのを楽しみにしてるから」
「俺も楽しみにしてます」
そこでじいさんの声が聞こえた。
「さて、いくぞ」
俺とまもるさんの足元が光った。
「ヨーイチさーん! 元気でー!」
エニスがそう叫んで俺に向かって手を振っていたので、俺もエニスに向かって大きく手を振った。
「エニスも元気でな!」
そして、光に全身を包まれると、一瞬体が浮くような感触のあと、気がついたら俺は自分の部屋に立っていた。今は、夜か。
部屋の様子は何も変わりがないな。まあ一応あのじいさんが色々とうやっておいたようだから、俺が消えて大騒ぎってこともなかったんだろう。
とりあえずは着替えて寝ることにしよう。色々確認するのは明日だ。と思ったらいきなりドアが開いた。
「おにーちゃん、電気もつけないで何やってんの?」
ああ、うるさいのがきた。でもこの反応は、俺が消えたっていうことがまるでなかったような感じだな。
「疲れたからもう寝るんだよ」
「お風呂にも入らないで?」
世菜は部屋の明かりをつけるとずかずか部屋に入ってきた。
「携帯の充電もしないと駄目じゃん」
そう言って携帯を充電ケーブルに繋げると、タイミングよく電話が鳴り出した。
「もしもし」
世菜は勝手に電話に出てから、にやりと笑って俺の顔を見た。
「女の人、要一君はいないかだって」




