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遺忘  作者: 李夫子
1/2

夢



闇。


果てしなく広がる闇。


レインは、自分がここに立ってどれほどの時間が経ったのか、もう覚えていなかった。


ここには空もなければ、大地もない。風さえ吹いていなかった。


ただ、自分の足音だけが静寂の中に響き渡る。


一歩。


また一歩。


まるで、この道には終わりなど存在しないかのようだった。


レインは、これまで何度も自分に問いかけてきた。


――これは、本当に夢なのだろうか。


夢だというのなら、なぜ毎回、こんなにも現実味があるのか。


なぜ目を覚ましたあとも、言葉では言い表せない不安だけが、心の奥に残り続けるのか。


答えはわからない。


彼が唯一覚えているのは、自分の名前だけだった。


レイン。


それより前のことは……。


何も覚えていない。


彼の記憶は、十八年前で途切れていた。


あの日、レインはクロアーゴ山脈の東側にある小さな村で目を覚ました。


彼を拾ったのは、一人の老人だった。


老人はレインを引き取り、我が子のように育ててくれた。


森の中で倒れているところを見つけたのだと、老人は語った。


家族はいない。


身分もない。


過去もない。


そもそも「レイン」という名前さえ、老人が彼につけたものだった。


それ以外には、何も残されていなかった。


そして、この夢だけが、彼の過去につながる唯一の手がかりだった。


そのとき。


闇の中に、小さな光が現れた。


レインは足を止めた。


その光には見覚えがあった。


なぜなら、夢はいつも、同じ場所へと彼を導くからだ。


レインは光に向かって歩き出した。


やがて、その先に一本の剣が姿を現した。


闇の中に突き立てられた、一振りの剣。


刀身は古び、表面には無数のひびが刻まれていた。


華やかな装飾はない。


強大な力を感じさせる気配もない。


それなのに。


レインは、なぜかその剣から目を離せなかった。


彼はゆっくりと手を伸ばした。


なぜ触れたいと思うのか、自分でもわからなかった。


この剣が何を意味するのかも、わからない。


ただ、確信に近い何かが、彼の心の奥で告げていた。


この剣に触れさえすれば。


失われたすべてを知ることができる。


指先が剣の柄に触れようとした、その瞬間だった。


「触れるな」


不意に、声が響いた。


レインの身体が硬直する。


聞き覚えのない声だった。


低く。


静かで。


それでいて、どこか……悲しげな声。


レインは勢いよく振り返った。


「誰だ!」


だが、闇の中には誰の姿もなかった。


足音もない。


気配すらない。


何もない。


「お前は誰なんだ!」


レインは叫んだ。


しかし、返ってきたのは沈黙だけだった。


彼はゆっくりと振り返り、再び剣を見つめた。


その次の瞬間。


世界が崩れ始めた。


闇が、砕け散るガラスのように崩壊していく。


レインは何かをつかもうと手を伸ばした。


だが、何もつかめなかった。


「はっ!」


レインは、勢いよく目を覚ました。


見慣れた天井が目に入る。


木造の窓から差し込む朝日が、部屋を淡く照らしていた。


窓の外からは、村人たちが一日の仕事を始める声が聞こえてくる。


レインは上半身を起こし、荒い息を整えた。


また、あの夢だ。


彼は自分の両手を見下ろした。


剣はない。


闇もない。


何もない。


「……いったい、何なんだ」


レインは小さくつぶやいた。


十八年間。


この夢は、一度たりとも変わらなかった。


いつも、あの剣の前までたどり着く。


そして、必ず誰かに止められる。


かつてレインは、養父に尋ねたことがあった。


自分は昔、何か恐ろしいことに巻き込まれたのではないか、と。


老人は長い間、黙り込んでいた。


そして、最後にこう答えた。


「忘れてしまったほうが、幸せなこともあるんだよ」


当時のレインには、その言葉の意味がわからなかった。


今でも、わからない。


ただ一つ、確かなことがあった。


自分の人生は、最初の数ページが抜け落ちた一冊の本のようだった。


そして、失われた物語の断片は……。


あの夢に現れる剣の向こう側に、隠されているのかもしれない。


その頃。


遠く離れたクロアーゴ山脈の彼方。


数百年もの歴史を誇る、古き帝国の皇宮。


そこに、長い間封印されていた魔法陣があった。


誰にも知られることなく、静かに眠り続けてきた魔法陣。


その紋様が、不意に光を放った。


数百年もの間、眠りについていた力が。


再び、目を覚ました。

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