第無環6.y「血、飲もうと」
庭に出た時、そう、私は庭に出て憩いの時間を過ごしていた半面デスゲーム構築に役立ちそうなダークな思考を巡らす事も欠かす事無くしていたのだった。それもまた戦いへの下準備と言うつもりでやって居たのだがまさかこうして自身が打ち立てた壁と対峙する羽目になるとは。最終局面と言う言葉をスゥは使っていたがつくづくそう願いたい。これ以上の脅威など待ち構えて居られても平々凡々な毎日を営んでいた私に出来る事などもはや無いだろう。
スゥはつかつかとフラニシュ氏の遺体としてのホログラムに歩み寄って行く。フラニシュ氏のホログラムは特徴が有った、両手が胸の前で組まれている。パルムと手を繋いでいる様を一人で演じるとこうなる、と言ったポーズではある。しゃがみ込み、その両手の部位に触る。また風に埃が舞うが如く綺麗さっぱりとホログラムは溶けて見えなくなってしまった。
「どうか安らかに同胞。シロー、頑張るんだよ。また今度読み聞かせの続きィしてあげるからね」
そう言い放つと彼女は空を見上げる。つられて見てみるが何やら黒い点が段々と大きくなっている。点は形が識別出来る所まで大きくなった。蛾か? いや只の蛾があの高度で形が識別出来る筈も無い。私はあっと膝を打った、合点が行った、血、飲もうと、だ。庭で連想した何か、”化け物サイズで生き血を吸う蟲”、これが正に今目の前に顕現してしまったのだ。着陸を許す前に電撃で攻めるスゥ、多分撃ち落とす為と言うよりは気を引いてくれたのだろう、私を標的としてロックオンされたらそれこそ敗色濃厚の流れに傾き出す。案の定化け物の蛾はスゥの目の前で低空での仁王立ちをする様な立ち居振る舞いを取った。彼の威風堂々とした、弱肉強食の頂点としての存在感が場を支配している。スゥはこちらを見て投げキッスをよこすと空中へ舞い上がった。走って逃げる事など叶わないので少しでも速度を上げられる方を取ったのだろう。それに応じ再び空に舞い戻り狩りを開始する生き血に飢えた巨大蛾、私は一連の夢の様な出来事を目の当たりにしてただただ立ちすくむ事しか出来ずにいた。
蒼の球、そうだ、コイツさえどうにかしてしまえば…と今も変わらず20mほど先に有る救いの主に対し現実逃避の発想が過るが結局二者による同時タッチが不可欠だ。それに下手に接近し蛾の二匹目でも出たらアウト、私はたちまち食い潰されてしまうだろう。そうこうしている内に足に痛みが走った。見やると百足の様な殺意に満ちた大型の蟲が私の足に嚙みついている。
アクロバティック投げキッス




