虹ノ七環「それは大きな二人の歌声」
決定的形勢不利、の場面があった。私は赤子の様に守られて居るだけではいけなかったのだ、彼女用に特化した罠がある事への想像力が欠けていた。槍の矛先から噴射されるガス、それが彼女の頭の位置で炸裂した。
「…ニノ、映画楽しかったよ」
そう言って崩れ落ちるスゥ。私は愕然としつつも触る事の出来ない彼女の介抱に回った。酷く顔色が悪い、もう立ち上がり私の盾として活躍してくれる事は無さそうな雰囲気だ。
「悪かった、お前にばかり無理をさせて」
「だからと言って…ゲホ、ニノが無理をすればいいと言う話じゃないんだ。…ニノが死んでしまっては……全てが台無し…私の恢復に期ィ待するか…とにかく、今は何もしない事をオススメするよ…」
そう言われても、とは二の句が告げなかった。スゥは言っていた、向こうのタイムアップの可能性も十分有り得ると。私は私でいまいち実態の掴めなかった自身の作によるデスゲーム会場の効力に賭けるしか無いのだろうか。あと、5m程だが今までの苛烈さから言って動けば八方からの逃げ場の無い槍攻撃や毒ガス攻撃が待っているかも知れない。知れないと言うか、想像した悪しき事は大体起こってしまうこの参加型舞台では十中八九そうなるだろう。
そうこうしている内に、太陽光が赤色巨星かと言った沈んだ色合いになった。終わりの合図だろうか、だがそれは勝利なのか、敗北なのか。いや敗北なら即時絶命が待っていても可笑しくは無い。とすると…。
「やったね…ニノの発想のエグさで勝利だ」
私の視界の下方で倒れながらも顔色の恢復したスゥがガッツポーズをしている、そうか、と安堵して酔いの晴れた私は両の手を地面に付いてへたり込む。対フラニシュの全ては、今終わったのだ。
「あはは、私がゴーサインを出したニノのデスゲーム会場を舐めて貰っちゃ困るよ!」
そう言って笑いながらもスゥは泣いていた。
「スゥ、お前また泣いているのか?」
「え、また? ああ、エゴの時のバレてたんだ。うんそうだね、今回も詩情の籠った名前だったなあと思って。パルム、だってさ。人類と手を携えてまた歩いて行ける様に、と言う思いも有ったと思うんだけど、何よりパルムは繋ぎたかったんだろうね、相棒とさ」
「あっ…」
私がへたり込んで付いている右手の方を彼女の静電気を発生させる両手が優しく包み込む。
「私が代わりにやってあげよう。感謝してよ、若い子のこんな施しなんてなかなか無いんだからね」
「顔赤くしながら言っても説得力無いけどなぁ」
「えっそう? いまいち恰好付かなかったか。まあいいや」
とそこでスゥは歌い始めた。映画のエンディングテーマか。丁度主人公ヒロインの役柄を表したかの様なデュエット楽曲だったので丁度良かった。覚えている限りで、ではあるが私の入り込む余地も有る。私達はパルム、フラニシュに対する鎮魂歌としてそれを施設に連れ戻されるまでの間何時までも朗々と歌い続けていた。




