第八話 【生態調査】
依頼を終えて二人から報酬を貰った俺たちは一度ギルドに戻って完了報告をしてから大聖堂に戻った。
大聖堂にはフランツさんがいたのでスライムのことを話した。
「まるで種違うかのようだ…… 駆除が追いつかなくなるかもしれませんね」
弓だけでどうにかなるもんでもなさそうだからな…… どうにかならんものか。
「一際大きいスライムはおそらくスライムの支配者です。 これはそれ程珍しいものではないのですが、キングだけでできるような動きではない……」
あいつはキングか。 そう珍しいものでもないようだがやはり捕らえるべきだろう。
「可能性は3つ、何者かがスライム達を人為的に動かしている」
そんなこともできるのかこの世界は。
「もう一つは何らかの理由でスライムにとっての環境が変化した」
これもありえそうだ。 異常繁殖は基本、環境の変化が原因だ。
「そして最後は ──考えたくないですがスライムの絶対的存在……」
インペラトルスライム、もしいるなら早めに仕留めなければ。
だが見つけたところで今はどうにもならない。 戦力が足らない。
「いずれにせよ調査を進めないことにはわかりません。 ですが反撃が来るとなればそう簡単にはいかないでしょう。 大司教がいれば……」
「いないものは仕方ないです。 できることをしないと、もしインペラトルがいた場合、大変なことになりますよ!」
そうだ。 俺も始まったばっかの異世界生活を早々に終えるわけにはいかん。
『あんまり危険なのはやらないでくださいよ』
時間を止めていれば死ぬことはないだろ。 その場合俺だけになるんだがな……
「レナとエイジ様はそのまま行動してください。 騎士団はスライムの本格的な駆除を始めます」
「わかった」
もう一仕事ぐらいはできそうだな。
「その前に、お昼にしましょう! 腹が減ってはなんとやら、ですよ!」
「テンション高いな」
「スライムの可食部を貰ってきたんです! 私も初めて食べるので楽しみなんですよ!」
ああ、そういえばスライム食えるって言ってたな。 どんな味がするんだか。
「それにプラスしてスライムの血も持ってきました!」
「血なんてどうするんだ?」
「スライムは魔物の一種です。 魔物というのは何らかの形で魔力を使っている生物のことを言うんですが、スライムは血に流れているんですよ。 魔力が!」
魔力補給に最適ってわけか。 まるでエナジードリンクだな。
「ちょっと待っててくださいね!」
──────────────
調理してもなお青いスライムを食った後にギルドに行った。
……あの青いソーセージは見た目がヤバかったな…… 俺は大丈夫だが食えない人間もいるだろあれ。
『私はそもそもスライムを食べるなんて言う発想が不思議です』
この世界はスライムがいて当たり前だからな、食える部分は食うんだろう。
人の食欲を舐めたらいかんぞ。 猛毒でも食うんだからな。
「あら、また来たんですか?」
「まだ時間があるからな」
「変なスライムと戦ったんですよね? ちょうどそれに関係した依頼が入ってきまして」
何か嫌な予感がする。 とはいえこの程度で弱音を吐いてたらこの先何もできんだろうしな。
「これです」
スライムの生態調査?
「お二人が駆除したスライムを学者の方が見たようで、急いで依頼を出してきましたよ」
動くのが早すぎるだろ。 もうちょっと準備というかだな……
「あっ! ヘルムートさん!! 探してた二人が今ここにいますよ!!」
俺たちを探しているなんて、誰だ?
「おお、君たちがあのスライムを駆除した外側の人とその付き人か」
眼鏡をかけている。 そうかもう眼鏡もあるのか。
「私はヘルムート・エーゲル、この依頼を出した学者だ」
依頼人ここにいたのかよ。
「俺はエイジでこっちはレナだ」
「よろしくお願いします」
「君達にしかこの依頼はできない。 頼む、受けてくれ」
元々受けるつもりだが……
「受付の人、手続きしてくれるか?」
「受けてくれるのか! 感謝する!」
前と同じようにハンコを押して……このインターフェース毎回出るのか。 ちょっと面倒だな。
「では早速移動しよう。 早く調査を進めなければ」
ギルドを出てヘルムートについて行く。
スライムを調べる学者なら生物学者か? でも生物学者って出てくるのは17世紀ぐらいからだよな。
「君たちならわかってると思うが、異常繁殖したスライム達の行動は明らかに通常のものではない」
「ああ、聞いてたスライムとは全く違う動きをしていた」
温厚で、大規模な群れを作らない。 そして何より、あの殿を使った撤退はどう考えても知的な動きだ。
「攻撃するスライム、集団で畑を襲う。 これらの特徴はインペラトルが現れる前に出現した百体単位のスライム、ケントリアの記述と一致している」
「だからといって焦って調査に行くのは危険じゃないのか?」
「危険なのは承知だ。 だが異常繁殖した時点で調査を行おうと思っていたんだ。 そもそもスライムは生態系の最下級に位置する存在、捕食者が異様に減らなければ異常繁殖するようなものではない」
そうだ。 生態系はバランスが取れている。 そのバランスが崩れるのは何らかの変化が起きた時、自然災害や人が過剰に狩猟をした等の理由だ。
だがスライムはそうじゃない。 数日前に雨が降ったとは聞いたが何か災害が起きたとは聞いていない。
狩猟のしすぎも考えられない。 もしそれほど狩られているならもっと多くスライム由来のものが売られていておかしくはない。 だがそれらしいのは剣を買いに行った時に市場を少し通ったがなかった。
「ある程度の準備はできている。 本当にインペラトルが出現したのかどうか、確かめるには調査をするしかない。 もしインペラトルを発見できなくともスライムたちの動き、そして各スライムの形などを見れば過去の記録と照らし合わせればいるかどうかの判断をすることはできる」
しかし、やっぱり危険だろ。 スライム達が攻撃してくる以上は目立った時点で襲われてもおかしくない。
『あなたの能力は何のためのですか? こういう時にこそ輝くんじゃないんですか』
……そういえばそうだな。 周りの時間を止めて、ヘルムートとレナの時間だけを動かせば危険も少ない。 動きの観察は危険を冒さないといけないが。
「ヘルムートさん、スライムの動きを見るのは難しいがどんなスライムがいるかは俺の能力を使えば簡単に見つかるはずだ」
「……本当かね? 確かに歴代の外側の人は常軌を逸した能力を持っていたが」
「スライムを殲滅することは難しい。 だがスライムの観察ぐらいならできるはずた」
ヘルムートは考えている。 俺のことを信頼するかどうかを、だろうか。
戦闘では力不足かもしれない、だが時間を止めれば気付かれることはない。 信頼してくれれば、スライムの調査をより簡単に終わらせることができるだろう。 だが俺は違う世界の人間、おそらくヘルムートも俺以外のは文献でしか知らない。 本当にそんな能力があるのか、彼にはわからないはずだ。
「……なら頼むとしよう」
よし! こうなれば互いにとっていい結果になるだろう。
……できればインペラトルにはいて欲しくないが、いるならいるでやるしかない。 インペラトルがいれば最初のボスが大昔に国を滅ぼしかけた存在になる。 いなくても運が悪ければ同じようなのと遭遇する。 結局は運なんだが、俺は悪い方向に良いからな。
『祈るしかないですね』
そういうことだな。 昨日散々不運なことに遭遇したからいい方向に進めばいいんだが。 いや、朝のアレで運を使った可能性がある。 ちょっとまずいかもしれない。
『朝起きて早々抱きつかれてましたからね。 あれで運を使い果たしてたら笑えないですね。 私が危険な目にあいます』
エリナル、少しは俺の事心配してくれてもいいんじゃないか? ずっと自分の心配しかしてないぞ。
『私の身体ができればあなたのことを心配する余裕もできるんじゃないですかね』
神なのに人間くさいな本当に。 多神教の神ならこんなものなのかね……
「そろそろ荷物を置いている場所に着く。 それを取ったらスライムの巣を探しに行こう」
超絶強いスライムことインペラトルさんがいるかを確かめるためにスライムの調査を行うことになったエイジとレナ。 もしいるなら最初に戦うボスとしてはあまりにも強い気がしますがどうでしょうね。
スライムの味ってどうなってるんでしょうね。青い食材を私は食べれるので食べてみたいです。
次回はスライムの巣の調査です。 さて何がいるのか、お楽しみに。