第九話 【時間稼ぎ】
「そういえばスライムの巣ってなんなんだ?」
創作だとそんなこと大抵書かれてないからな。 基本的な生態がわからなきゃ探しようがない。
「スライムは体の構造上動きが遅い。 それ故に狩られやすいがそれを避けるためにスライムは自然の洞窟や自力で穴を掘り巣を作る」
身を守るために巣を作るのか。 あの身体だ、入口は大きくなくても良さそうだ。 今回は違うといいんだが。
「群れによっては巣を作らず移動し続けるのもいるが、インペラトルは巨大。 動き続けているなら既に発見されているはずだ。 そしてインペラトルの大きさを考えると出入口はかなり大きい」
通常の何十倍も大きいって話だよな。 となると高さは十何メートルにもなるはずだ。 自重で潰れてなければ、だが。
どちらにせよ入口は小さくない。 それほどの巨体がスムーズに出入りできるようなのは大きいはずだ。 いくら不定形でも入る時に削られて大きくなる。
「大きいとは言っても見つけるのは難しそうですが……」
「多くのスライムが行き来している場所は既に特定してある。 その周辺を探せば見つけられるだろう」
さっさと見つけないとな。 もしインペラトルがいるなら公爵、いやそれ以上、帝国の皇帝も討伐する金を出すかもしれない。
数百年前に国を滅ぼしかけた存在、それが正しければ帝国は全力でインペラトルを潰しにかかる。 ん? そういえば皇帝もインペラトルだな……
『語源は同じですけど…… よく考えたらなんでラテン語そのままなんでしょう?』
この世界の歴史がわからんからなんとも言えん。 しかし元の世界が関係してるのは確かだな。
いや今考えるべきことじゃないな。
「そういえばヘルムートさん、同行者は?」
「危険なのがわかると逃げていった。 君たちがいるからそこは問題ないと思うが」
学者一人、猫の手ならぬ冒険者の手も借りたいって感じか。
まあ俺も一昨日までならやらなかっただろうな。 時間操作は停止を使えば死ぬことはない。 他のチート能力と違って爆発力はないがいい能力ではある。 こっちが死ぬ前に敵を瞬殺できれば大した危険を冒さずに済むからそっちの方が楽なんだけどな。
「見ろ、スライムの集団だ。 あれを追跡すれば巣穴を見つけられるかもしれない」
遠くに20体程のスライムが見える。 どうやら食料を手に入れた直後らしい、透けている身体の中に植物が入っている。 全部同じもの……畑を荒らしてきたな。
スライム達に気付かれないように追跡する。 気付かれないようにと言ってもあいつら何で周りを認識してるのかよくわからんが。
「おそらくこの集団は巣に餌を運んでいる」
「ということはこのまま進めば巣が…… このスライム達以外にも沢山畑を荒らしている。 そんなに食料が必要なんでしょうか?」
インペラトルが必要としている、という可能性はかなり高い。 だがいくら数十倍の大きさがあってもここまでは必要ないはずだ。 群体だから当てはまるかわからんが生物は大きいほどその大きさに対して使うエネルギーは少なくなるらしい。 それを考えるとたかが数十倍程度で何百のスライムを動員してまで食料を集めるのは過剰だ。
これからに備えて、という可能性もあるがそれでも数百もそれに使うのは不自然だ。 百体だけで問題はないはず。 全体で消費する分、と考えたが個々のスライムはその辺で自分の食料ぐらい調達できるはずだ。 何か他の理由があるのか?
「……あれのようだ。 予想していた通り、大きい」
巣の入口らしき穴が見える。 都合良く人が横に並んで三人は入れそうな大きさだ。
「そういえば灯りは?」
全く考えてなかったがどうやって探索するんだ?
「灯りはこれがある」
……ライター? いや、昨日城の守衛が持っていた銃に付いていたのと同じ石が付いている。 ということはあれも着火するための魔法石みたいなものか。
「だがどうやら必要ないようだ」
奥から光が…… 何故巣穴に光が?
「スライムの巣穴が本来光ることはない……そもそも魔物は魔物でも魔法は使えない、光を作ることはできないはずだ」
「理由はわかりませんがこれで時間が動いている間も目立つことなくスライムを観察できます」
好都合だな。 本当はパッと見て終わりにしたいんだが、インペラトルがいなかった時無駄足になる。 動きも観察しないとならないってのはなかなか厳しいな。 前回のこともあるし、長居はしたくないな。
「さ、エイジ様。 能力を使って潜入の準備です」
「了解」
頼まれたことだし時間を止めよう。
三人で良かった、四人なら腕が足りなくなるところだった。 それでも両手が塞がるんだが。
『停止中は危険がないから問題ないじゃないですか。 転ばなければ、ですけど』
二人の時間を進めよう。 転んでもレナがいれば何とかなるだろう。 いや、そもそも解除してしまえば転んでも大ダメージは受けないじゃないか。
「これが時間が止まった世界、ですか……」
「世界全体が止まってるわけじゃない。 詳しい範囲はわからないが俺の周り、少なくとも俺の見える範囲内は止まってる」
「噂には聞いていたが外側の人の魔法は特別だな。 これなら安全に奥まで行ける」
女神から貰った特別な能力だからな。 不便なことが多すぎるのが難点だが。
『時間を止める代償ってやつですよ。 それにこれだけじゃなくて便利機能詰め合わせみたいな加護もあるんですからこれ以上贅沢はできませんよ』
そういやそんなのあったな……今のところ影響を感じてないが。
スライムの巣穴はどこも広いな。 人が余裕で住めるぞ。 明かりもあるし、物の置き場に困らない。 問題は陽の光が来ないことと生活空間として整えられてないことだな。
スライムにとっては楽園なんだろう。 結構な数がいる。
……なんだあいつ、木の枝二つ使って手みたいにしてやがる。 多分動かして感情表現するんだろう。 どっかであんなの見たぞ。 個性があるのは知ってたがあんなのもいるのか。 性格も違いそうだ。 これはペットとして人気があるのもわかる。
「スライムは夜に巣穴に戻って朝まで過ごすんですよね?」
「ああ、だが今は昼だ。 数が多すぎる」
よほど大きいのか、誰かにそう命じられてるのか。 インペラトルがいなくてもこれだけ大きい巣なら駆除する必要がありそうだ。
しかし、見た目だと生物かわからないな。 特に今は時間を止めているから着色された水のように見える。 動いたら動いたで得体の知れない何かみたいな感じだ。 個性がなかったら本当によくわからない存在としか見れなかったな。
「……行き止まりか」
浅い。 小さな道もない。
「ここが最深部なはずはない。 だが……」
「これ以上は時間を進めないとわからなさそうだ。 ヘルムートさん、いいか?」
「他の道はなかった。 幸いここにはスライムがいない。 そうしてくれ」
向こうにいる奴らを観察しよう。
ちょうどこの場所は広場のようになってる。 あの通路からは死角になっている場所がある。 通路から出てすぐの壁沿い、ここなら見つかりにくいはずだ。
「……ちょっと待てよ、スライムが運んだ食料がここにはない」
ならどこに……? それにこの空間はただ広いだけ、ものも何もないぞ。
そんなはずはない。 ここは奴らが運んできた食料があるはずだ。 運んでいたスライムはいた。 周りに他の穴はなかった……運ばれる前だった? しかし運ばれる前ならあの数のスライムは一体……
考えられるのは……
『罠、しかないですね』
クソ、誘い込まれたって訳かよ!
「スライムが壁の隙間から!?」
時間を止めて逃げよう。 ここで戦っても袋叩きだ。
「逃げるぞ! 誘い込まれたんだ!」
外に向かって走る。 随分平坦にしてくれたおかげで両手を使えなくても走りやすい。 時間を止められなかったら危なかった。
走らなくても問題はないができるだけ急いで離脱しないと他のスライムがここに集まってくる可能性もある。 どれほどの距離の時間が止まっているかにもよるが念には念をだ!
何とか転けずに出れた。 罠を使うとは、随分と賢い奴らだ。
「スライムは通常あのような隙間には入れん」
「内臓があるから、ですね」
「そうだ。 だが、内臓を持たない、完全な不定形なスライムがいれば……」
「そんなの有り得るんですか?」
生物に必要な器官がないのは普通は無理だ。 ……ただの管でしかない生物も元の世界にはいたが、スライムの構造は他の動物と変わりないらしい。 なら無理なはずだ。
「スライムを構成する群体……それにエネルギーの供給を行う心臓がなければスライムは生きてはいけない。 だがそれ以外の器官は短時間なら必要ない」
心臓が弱点ってのは聞いた。 それ以外の箇所が致命傷にならないことも前回の戦闘で確認済みだ。
だが肝心の心臓がなければ……
「……スライムの身体を構成している個体はほぼ全てが筋肉のようなものだ。 普通はできない。 だが知能を持った存在がそのことを知れば──」
「内臓を持たないスライムを作れる、ということですか」
なんて無茶なことを…… だが現にそのスライムがいた。壁の隙間からゆっくりと出てきていた。
「そんなバカげたことをできる存在は限られる。 できても成功させるのは難しい。 成功させる存在がいるのならば……」
……生物は自分たちのことをよく知っている。 何がどれだけ必要か、自分の身体のどこがおかしいか。 それを生物は知っているものだ。
スライムという群体が、自分のどの個体が、どのように機能しているかを高い知能によって知れば……
「……スライム自身だ」
──無茶ではないのかもしれない。
インペラトル、存在確定。
スライムは心臓以外どこを潰れても再生(というよりは新たに誕生)するまでエネルギーが切れなければ生きることができます。 なので別の群体と同化して新しい臓器ができるまで生存できます。 面白い生物ですね。




