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イビーにはあたしのエプロンを貸してあげてあたしはシスのエプロンを借りた。
ブカブカだけどないよりはいいからね。
「まず、手を洗って」
「何作るの?」
ソファーの方からカノンの声。
カノンは参加しないそうだ。
「ミモザサラダ」
野菜切るだけのなら簡単だし。
「あたしトマト食べたい!」
「じゃあ、それも入れる」
トマトはまだあったはずだし。
イビーも文句はないみたいで包丁を見て目をキラキラさせている。
イビーが手を洗ったのを確認してきゅうりを渡す。
「これを斜めに薄く切るんだけど先にヘタを切ってアクを取るの」
「きゅうりってアクあるの?」
気になったみたいでカノンもやって来た。
「うん。ライアに教えてもらったんだけどヘタのとこを切ってこうやって擦ってると泡が出てくるでしょ。これがアク」
「へぇ。あたしもやりたい」
「イビーいいかな?」
「あ、うん。じゃあ、先にトマト切っていい?」
「うん。気をつけてね」
カノンがきゅうり奪っちゃったからイビーがすることなくなっちゃうんじゃないかって心配したけど先にイビーから言い出してくれてホッとする。
包丁の使い方は教えたし、あたしはレタスでもちぎっていよう。
「ねえ、これっていつまですればいいの?」
「適当でいいよ。そのアクは洗い流してね」
「はーい。ねえ、火は使わないの?」
「今日は別にいいよ」
卵は朝茹でたのがあるしと言えばつまらなさそうな顔。
カノンも料理に興味を持ったみたいだけど、あたしも初心者なので2人も見れないよ。
カノンは家に帰ってからいくらでもすればいい。トレイトにいつも手伝うように言われてるのだからと言うと「母さんにやれって言われるとやりたくなくなる」と意味の分からないことを言っていた。
「そういうもんなの。イビーナだってしようと思ってた時にあれしろこれしろって言われたら嫌でしょ?」
「それは、うん」
イビーまで。
あたしはそんな風に言われたことないな。
シスだってあたしが忘れてると教えてくれる時あるけど、あれは大概あたしが忘れてる時だし。
「まあ、いいや。あ、じゃあ、シス先生のアトリエに行っていい? 実はシス先生の絵って見たことないんだ」
「あ、あたしも見たい!」
「えー」
好きに入っていいとは言われているけど、何人も連れ立って入っていいものか迷う。
「あ、そうだ! あたしの部屋にシスが描いた絵があるよ!」
「アリシアのお母さん?」
「うん。アトリエはシスが帰って来てからでもいいんじゃないかな?」
「うーん」
「アリシアの部屋ってどこ?」
「2階だよ」
答えると2人共異論はないのかどこだどこだと2階に上がってく。
2人の後から2階に上がってあたしの部屋を指差す。というか、あたしの部屋だからあたしが開けた方がいいのか。
部屋のドアを開けると2人は興味津々に部屋の中を覗いてる。
2人に案内した部屋と比べたら狭いからそんなに見ることはないと思うのだけど。
「あ、この絵?」
「うん」
もう1枚家族の絵を描いてもらう約束をしているけど、どれくらい進んだのかそういえば聞いてない。今度聞いておかないと。
「アリシアってお母さん似なのね」
「そう?」
「うん、目とか鼻とかそっくり」
自分じゃあんまりよく分からないんだけど、母さんに似ているって言われるのは嬉しい。
「ありがと」
「あたしもシス先生にこんな風に描いてもらいたいなぁ。アリシアはもう描いてもらったの?」
「まだだけど描いてもらう約束はしたよ」
「えー! いいなぁ」
「シスに描いてってお願いしてみたら?」
「そうする……あ、そうだ! サラダ忘れてた!」
「あ……」
外を見ればまだ日は高い。シスが帰って来るまでにはたっぷり時間がある。
まだ作ってないと焦るイビーを宥めすかして下に降りる。
「ほら、まだシス帰って来てないからちゃっちゃとやっちゃお」




