第7話:名前も知らない相棒(イケボ)と、異界初めての夜
「疲れたよぉ……あー、無理。もう一歩も動けないんですけどぉ……」
魔導工房からトボトボと歩き出し、凛愛は中央広場の端で座り込みそうになっていた。
昨日、夜更かししてソシャゲ中に寝落ちして、気づけば異世界。
勇者ギルドでゴミステを笑われ、石像に自分を重ねてビビり、頼みの綱のスマホは沈黙して、変人エルフに「三日の解析」を言い渡されて没収……。
「あたしの転生ハードモードすぎない……? ログボも切れたし、もう全ロスした気分……」
『おい、しっかりしろバカ人間。道端で寝る気か……ついてこい、寝床を確保するぞ』
「……いたっ! 髪引っ張らないでよぉ……でも、その声だけはマジで最高……あー、癒やされるわぁ……」
チュンペーに導かれ、たどり着いたのは商業区の端にある宿屋『銀の星』だった。
凛愛は道端で拾った幸運の金貨で支払いを済ませ、夕食も取らずにベッドにダイブした。
「ふぁあぁ……ふかふか……天国……あぁ〜!お風呂入りたい……」
『……早く寝ろ、貴様に野垂れ死なれては我が困る』
「ふぁぁ〜……あ、ねえ。ずっと気になってたんだけどさぁ、あんたのコト何も知らないし?あたしの名前も、まだ言ってなかったよねー?」
凛愛は枕に顔を埋めながら、横目で窓際に止まる雀を見つめた。
「あたしは、星凛愛。リアって呼んでいいよ……で、あんたは? 雀のチュンペーじゃない、本当の名前、あるんでしょ?」
雀の姿をした彼は、静かに羽を整え、あの極上のイケボで応えた。
『既に名は言って……まあ、いい。我はクロウヴァルド・シルフェリウス。魔界を統べる黒翼家の当主であり、かつての魔王だ。今は……見ての通り、弟アザエルの呪いでこの無能な小鳥の姿にされているがな』
「あぁ〜…そだった!クロウだ。じゃあクロウ、あんた何で、あたしに付き纏うワケ? 理由によってはガチで訴えるよ?」
『……フン……いいだろう、契約の真実を教えてやる』
クロウは夜の街を見下ろしながら、五百年前の因縁を語り始めた。
『我は残された魔力の全てを注ぎ込み、「最も運命の強い勇者の魂」を召喚した……それが、貴様だ。
正直、召喚の術式が間違っていたのか、こんな
「スカスカのバカ人間」が来るとは思わなかったがな……安心しろ契約が成れば、貴様を元の時間軸に戻してやろう』
「むっ!スッカスカとか言うな〜! こう見えてあたし、ゲームなら最強なんだかんねっ! ……でも、そっか。あんたも大変だったんだ……裏切られて雀とか、あたしならソッコーで引退するレベルだわ………え?今、召喚って言った!?」
凛愛は少しだけクロウへの親近感(と、イケボへの独占欲)を感じながらも、転生では無く召喚された事実に困惑、ベッドの上で寝返りを打った。
「ん〜、わかった。とりあえず協力してあげる……でも、忘れないでよ? 契約終わったら、あたしを元の時間軸?に帰すこと! いい? 来週、修学旅行なんだから! ネイルの予約も入ってんだからね!」
『……ふん、寝言は寝て言え、バカ人間』
「あ、また言った! ……でも、今のトーン、ガチでゾクゾクしたわ……最高……❤︎」
枕に顔を埋めたまま、独り言の様に続ける。
「……ねえクロウ、元の姿ってどんな感じなの〜……」
『寝ろ』
「え〜……」
返事を待たずに、凛愛の寝息が聞こえてきた。
あっという間だった。
窓際のクロウは、静かな寝顔をちらりと見て、また夜の街へ視線を戻した。
『……まったく。バカ人間め』
スマホのない、静かすぎる異世界の夜。
一人の少女と、一羽の元魔王。
名前を交わした二人の「無理ゲー」な冒険は、どんな展開になって行くのでしょうか。




