魔王は倒すために存在する
大変遅れて申し訳ありません!
就活が思ってた以上に忙しく、三日後からはゼミ合宿とインターン合宿が連日であるという頭おかしいスケジュールになっているのです…(涙)。
「もうマジ無理っ! PIO民って何なの!? なんで召喚しただけで私の部下達が爆散するのっ! どうして魔王城が乗っ取られた上にグレードアップしてるのぉぉぉ!?」
パッと見で女子高校生くらいに見えるその魔王は、威厳の一つもない声を上げながら地団駄を踏んでいた。
「そりゃ、PIO民だからでしょ」
「ここまでの一大事をそんな簡潔な言葉で現さないで!? 私が半年かけて育てた軍なのにぃ!」
「半生じゃないんだ」
意外と日の浅い魔王だったようだ。まぁ半年であれだけの軍勢を従えられるだけの才覚があったなら、その成果がPIO民に邪魔されたのを許せない気持ちも分かる。
「分かったよ。俺の目的もPIO民を元の世界に帰すことだ、協力してあげよう」
「私の軍を最初にめちゃくちゃにしたのはあんただけどね……? いえなんでもないです、助けて下さい」
魔王は釈然としない様子だったが、助けてもらいたいのは本当らしい。完全に弱った様子で、今の状況を教えてくれた。
「PIO民とやらの魂は私の親衛隊に与えたけど、中でも四天王に与えた魂が化け物だったんだ。さっきの《超距離狙撃》とかいうのも、四天王の内の一人だよ」
「それはどっちかというと、四天王だからPIO民への制限が弱まってるって事じゃないか?」
「制限? どういうこと?」
俺の推測を聞いて、魔王が首を傾げる。
なんだ、気が付いてなかったのか。
「今ここにいるPIO民は、魔物の体に縛られてるせいで本来の100分の1程度しか力を発揮出来てないんだよ」
「……は?」
「もし従来通りのパワーでこっち来てたら、三回くらいは世界が転生してるって。もちろん、世界再生機構や世界保護結界が張ってあるならそうとも限らないけど」
「ごめん1から10まで私の知らない概念を持ちだしてこないで!? 世界の話されても困るっ!」
俺は魔王の勘違いを正そうとしたら、全力で拒否されてしまった。まぁ要するにPIO民はオリジナルより弱まってるから、そんなに心配はしなくて良いという話だ。
「でも簡単に言うと、四天王の体に移ったPIO民に関しては、四天王がそこまで弱くないからあまり制限されてない……って事?」
「そういう事だね。いやぁ、PIO民が乗り移る前にフェニックス倒しといて良かったなぁ」
「魔王の前で四天王倒したこと喜ばないでくれる?」
魔王が眉をひそめたが、PIO民の脅威を知っている彼女も一概に俺を責めることはしなかった。PIO民の力を手に入れた、残り二人の四天王……それを倒さなければ、PIO民はすぐに元の力を取り戻して世界を滅ぼしてしまう筈だ。
こう言うと、ほんとPIO民って何なんだよって俺でも思っちゃうね。
「いた……! レイン君、ここで何してるの!?」
「この女の人、誰?」
俺が魔王と話し込んでいると、スフィとニアが山の方までやってきた。
彼女達は何やら警戒しているようだが、もしかしてこの一瞬で目の前の女性が魔王だと見破ったのだろうか? なかなかの観察眼だな。
「かなりの美人だね……。ここに来て新しいライバルとは予想してなかったよ……」
「誤魔化されちゃ駄目よスフィ。一回胸から視線を外しなさい」
「はっ……! 胸さえなければ、私達でも勝機が……!?」
いやなんか違うっぽい。魔王要素については全く言及されてなかった。
「この人は魔王だよ。PIO民討伐に協力してくれるらしいから、今話を聞いてたところなんだ」
「ええっ、魔王!? こんな山奥にいるものなんだねっ!?」
「良かった。魔王ならレインが取られちゃう危険性はそこまで考えなくて良さそうね」
「ちょっと待って!? 私が期待してた反応と違うんだけど!?」
スフィとニアがいまいち怖がらないのを見て魔王は焦っていたが、俺達としてはPIO民がいる状況で魔王なんか怖がってられないというのが正直なところだ。
「なんというか、コース料理でメインディッシュの後にサラダが運ばれてきたようながっかり感があるな」
「何言ってるかよく分からないけど、酷いこと言われてるのだけは分かる!」
俺が魔王の登場タイミングを評すると、彼女は泣きそうになりながら叫んだ。ノリが良い魔王だな。
「ともかく、俺達に残された時間は少ない。協力してくれるっていうなら、今すぐ協力してもらわなきゃな」
「今すぐ手伝えることがあるの? 分かった、私に出来ることがあるなら勿論やるとも」
「ありがとう。それじゃあ、俺達の経験値になってくれ」
「は?」
俺が言うと、彼女は硬直した。
「い、嫌だぞ!? 協力するって言っても、別に殺して良いなんて一言も言ってないからっ!」
「分かってるよ、流石に命までは取らないって。君を八回くらい倒すことで、俺達は強くなれるし君は第九形態になれるって事だよ」
「魔王の形態変化を脱皮みたいに言うのやめてくれない!? というか八回も倒されたら普通に死……」
「君の魔力量なら大丈夫だよ。なるべく痛くないように攻撃するから、安心してね。……ほい」
俺は彼女がちょうど形態変化できる位のダメージ量に調節して、2秒で魔王を倒した。
「うおおおおっ、やられたああああああ! だがこの程度で私は死なないっ! 私には隠された姿が……」
「ほい」
「うがあああっ、やられたああああっ! だが残念だったな小僧、私はまだまだ死なんぞ? ふふふ、力が漲ってくるようだ……っ!」
「ほい」
魔王の生態なのか形態変化する度に煽ってくるのがうるさかったが、俺はスフィ達と一緒に問答無用で魔王を倒しまくってレベルを上げていった。
「よし、これで八回倒せたな。どうだ魔王? 第九形態になってかなり力が漲って来ただろ?」
「ううう……。お前いくらなんでも鬼畜すぎるだろ……」
俺達が攻撃をやめると、度重なる攻撃の末に大きな翼が生えたりオーラが濃くなったり宙にやたらとごつい飾りを浮かべたりした魔王が、掠れた声で答えた。
「第九形態くらいにはならないとPIO民の前に出ても無駄死にするだけだからね。許してくれ」
「ほんと何者なんだPIO民……呼んじゃいけない奴らだった……」
こうして、俺達は魔王(第九形態)を仲間に加えたのであった。
【追記】あと三話で、一旦完結致します!




