盗賊をスキルの練習台にしてみた
冒険者ギルドでちょっと喧嘩を受けてしまったものの、翌日は普通にクエストを受けられた。
昨日のように不慮の事態が起こってスフィ達が傷つくのは嫌だったので、今回はなるべく簡単めのクエストを受けている。
内容は野山にいるファイアラビット十体の討伐で、危険度はかなり低い。これならスフィ達も気負わず鍛錬に励めるだろう、という判断だ。
「不慮の事態がないように、深い森よりも安全な場所に来た……んだよね?」
「うん、そうだよ」
「その割にはあれ、完全に不慮の事態じゃない?」
「あはは、そうだね。俺もちょっとビックリしてる」
おそるおそる尋ねてくるスフィとニアに、俺は微笑みながら頷き返した。
笑いごとじゃないんだけど、いつも堂々としているニアが戦々恐々としている様子がちょっと面白かったのだ。
「あの人達、どう考えても山賊じゃんっ! ちょっ、こっち向かってるって!」
「レイン君っ! 私が妨害系スキルで相手を遅くするから、効果時間の間に逃げるよ!?」
アーニャとネネも、目の前の不慮の事態を見て完全に慌てている。
そう。俺達が来た野山では、ちょうど山賊が獲物を探していたのだ。駆け出し冒険者を狙った野盗というのは、かなり多いと聞く。
「ここは険しい山だし、こっちは子供が三人もいるんだ。逃げる方が難しそうだから戦った方が良いんじゃないかな?」
「自分をちゃんと子供とカウントした上で、なんでそんなに落ち着いてんの!? その精神力凄すぎるっ!」
冷静な意見を述べるとネネが驚きの声を上げたが、PIOやってたら自然とこうなってしまうのである。
不慮の事態など日常茶飯事で、街を観光してたら意思を持った隕石が降ってきたり、道を歩いてたら見えない矢に体中を貫かれてたみたいな話はよく聞く。まぁ、後者は俺の流れ矢で死んだ人の話なんだけど。
それに比べれば、山賊なんてスライムくらいの扱いでしかない。あいつらはちょっと珍しいスライムだ。
「おいおい、こんな所にガキが来てんぞぉ? 冒険者ギルドに守られてないガキとか、超レアもんじゃねぇか! 売れば高値がつくよなぁ?」
「へへっ。ガキもいいが、姉ちゃん達も色っぽいぜ……。高値のもん持ってなさそうなのは残念だが、獲物としては十分すぎるな」
スフィ達を見ながら、山賊達が舌なめずりをする。
む。PIOではスライムよりもお馴染みの山賊だが、いざリアルで仲間が狙われると不快だな。
何があっても守る気ではいるが、彼らの視線に晒されるだけでスフィ達は思うところがあるだろう。こうなったら、短期決着をつけるしかないな。
「お? なんかボウズが前に出てきたぞ?」
「うひゃひゃっ、周りが女しかいないから調子こいてんのか? 射手が前に出てきてどうすんだよ」
「確かにっ! ただの馬鹿じゃねぇか! うひゃひゃひゃひゃっ!」
スフィ達を庇うように前へ出ると、二十人程度の山賊達は一斉に笑った。
しかし俺は彼らの言葉に怒る間も惜しみ、無言で弓を構える。
「【音速矢】。【並行処理】・【鷹の目】・【技能装填】・【過剰砥刃】・【弓術】・【散弓術】・【空握】・【投擲】」
まずは【音速矢】で相手の支援役と思しき相手を倒してから、【過剰砥刃】を付与した矢で相手の盾を溶かしつつ攻撃。【空握】による攻撃も【並行作業】によって同時にこなし、四秒で山賊団の大半を倒した。
「んなっ……!」
「怯むなっ! 撃て! 撃てぇ!」
それでも山賊は諦めず、冒険者から奪ったと思われるボウガンや弓をこちらに放ってくる。
でも、射手が防御力のない職業だなんてのは初心者の発想だ。スキルの組み合わせ次第で、射手だって防御を出来る。
「【空握】・【高速振動】」
俺はlvの上がった【空握】で正面の空気を固め、それを【高速振動】させることで相手の矢を逸らしたり破壊したりしていった。
「うええええっ!? あいつ、ただ歩いてるだけなのに矢を弾いてるぞ!?」
「何だあいつやべぇ! 一切の攻撃が通じねぇ!」
山賊には俺が歩くだけで矢を弾くように見えるだろうから、彼らは腰を抜かして怯えていた。まぁ【高速振動】は習得が難しいスキルだから、正体がすぐに分からないのは仕方がない。俺も【愛撫】のレベル上げてなかったらまだ覚えてなかったもんな。
俺は残った山賊達も近接攻撃でなぎ倒して、全員から武器を取り上げた。
「え、なんで山賊団を一人で壊滅させてるのあの子……?」
「分かんない。もう十歳児の割に強いとか、そういう次元超えてるよね……?」
さっきまで怯えてたネネとアーニャは俺が相手を壊滅させたのを見てポカーンと口を開いていたが、これからが本番だ。俺が山賊相手にやろうとしていた事は、今から始まる。
「みんなー、ちょっとこっち来なよー! この人達は【頑丈】持ちだから、スキルの練習台にぴったりだぞ?」
「ひっっっ!?」
山賊達は予定通り無力化して安全になったので、俺はスフィ達を近くに呼び寄せた。
PIOのシステムでは、魔物をいたぶりまくってスキルを上げると悪行値というのが上がってしまい色々と不都合な事が起こるようになっている。だが山賊などの元々悪行値が高い人に対してはいくらいたぶっても悪行値は上がりづらいため、スキルのレベル上げに最適なのだ。
魔物との戦いでスフィ達に活躍の場を与えられてないので、このタイミングで皆のレベルを上げてやりたかったのである。
「え……この人達、攻撃しちゃって大丈夫なの?」
「うん、もちろん殺しちゃ駄目だから加減はしてね?」
「レイン、悪党に対しては容赦ないのね……」
近づいてきたスフィ達は少しの間だけ盗賊への攻撃を遠慮していたが、スキルのレベルを上げたいという思いは強かったようで容赦なく攻撃を始めた。
スキルレベルは強い相手に対して使った方が素振りよりも上がりやすいから、山賊討伐はとても良いレベル上げ方法なのである。
「わ、私もレイン君に追いつきたいし……やろうかな!」
「さっき私達を怖がらせたこと、許さないよーっ!」
途中からネネとアーニャも混ざって、さっきの憂さ晴らしとばかりに攻撃を始めた。山賊達は武器を奪われているので、スキルを使っても彼女達の敵ではない。
彼女達が危なくなったら俺もスキルで援護して、一緒にレベル上げをした。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ! ごめんなさい、もう悪い事しないから許してっ!」
「自首します! 自首しますから攻撃をやめてぇぇぇぇ!」
彼らが反省したところで、俺達はようやく攻撃をやめてあげる。
すると突然、今手に入れるとは予想していなかった新たなスキルを手に入れた。
「嘘っ、【魔王の血脈】!? こんなところで手に入るなんて!」
・【魔王の血脈】:魔王になる可能性を得る。各種魔王の素質が上昇。暗黒系スキルの習得率UP。
このスキルは悪行値が高い相手に恐怖を刻みつけて服従させるというのが習得条件なのだが、まさかこんな簡単に手に入るとは。
俺含めて全員手加減はしているので、衛兵に直接捕らえられるよりはかなり軽症で済ませていたのだが……。よっぽど怖がりな山賊だったのかな?
「たくさんの子供になぶられるのが、こんなに恐怖だなんて……!」
「特にあのボウズが淡々としてて怖えよ……。スライムを見る目してるし、強すぎて勝てるビジョンが見えねぇ……」
山賊達がなんかブツブツ言ってたが、涙声なのでよく聞こえない。まぁ自首するくらい改心させられてよかったわ。
それに今回のスキルで弓系以外のスキルも鍛えられたし、そろそろ「アレ」をやる時が来たかな……。
レイン・エドワーズ
射手lv.5
【弓術】lv.215
【散弓術】lv.39
【高速装填】lv.57
【強制装填】lv.8
【技能装填】lv.33
【背後射撃】lv.22
【音速矢】lv.10
【近接射撃】lv.25
【緊急回避】lv.15
【投擲】lv.81
【空握】lv.37
【投擲許容量増加】lv.15
【索敵】lv.103
【索敵範囲拡大】lv.17
【弱点捕捉】lv.18
【砥ぎ師】v.51
【過剰砥刃】lv.24
【足払い】lv.28
【回し蹴り】lv.31
【風転撃】lv.39
【浮遊】lv.32
【単独撃破】lv.4
【並行作業】lv.43
【鷹の目】lv.26
【消耗品再利用】lv.25
【強制収容】lv.17
【愛撫】lv.61
【高速振動】lv.29
【創造】lv.15
【魔王の血脈】lv.1




