真琴
ちゅんちゅんと鳴くスズメの声で目が覚めた。
そういえばスズメの鳴き声なんて聞くのは久しぶりの気がする。東京にはいたっけ?
ちょっと薄っぺらい布団から出ると、窓をガラリと開ける。まぶしい朝日が飛び込んでくる。
お父さん、お母さん。私は今、江戸時代に来ています。
朝からやることは山積みだった。
何しろ着替え一つ取っても着物なんてろくに着たことがないし、普通に歩いてもこけそうだ。わらじの作り方も習わなきゃならない。
それでも二人ともなんとか目立たない格好になって、旅の準備が着々と整う。
心配なのは陽介の体力だ。私は田舎育ちだったし、山道も子供のころから歩きなれているけど、陽介は昨日少し歩いただけでヘロヘロになっていた。
ご飯も食べ慣れたものではないし、食中毒にも気を付けなければ。
まったく、これでは本因坊さんと戦う以前に、江戸までたどり着けるかも怪しいじゃないか。
とは言ったものの、実際にこの時代で長く暮らしていけるのは彼のほうだろう。
やっぱり一芸に秀でているというのは強いんだなあ。
……ということをぐちっていたら、
「真琴も何か得意なことをやればいいんじゃない? ほら、ギターとか好きだったし」
と言われてしまった。
ギター? うーん、外国ならともかく、この時代の日本にあるのかなあ。
探していたら見つけてしまった。そう、三味線だ。しかしこれ、弦が三本しかないんだよなあ。
改造して調律をしたいが、自分一人ではとても無理だ。落ち着いたら小五郎さんに相談してみようか。
まあ、そんなこんなで私たちの旅は――遅れはしたものの――順調だった。
昼間は歩き、夜は打つ。
私は飲み、歌う。
ヘロヘロの陽介が碁盤を前にするとしゃっきりする様は、時代が変わっても面白い。
さて、タイムスリップから5日後。私たちは目的の江戸へとたどり着いたのだった。