もちろん鏡なんか見ない
「どうして、死なせないといけないのかな? 犯罪が明るみに出るという意味なら、回数を重ねた時点で、もう十分危険だよね? ばれたくなければ一回こっきりで殺さなきゃ」
『それも、趣味の一部なのかもね』
黒猫は、あどけない顔で、どきっとするような事を言った。
「それ、自殺に追い込んでいるんじゃなくて、自殺を装ってるっていう意味? 快楽殺人ってこと?」
『ぼくじゃないよ。それはきみが言ったんだ』
情報はもう、かなりいい線まで絞れていた。
決定的に足をつかめないのは、この男達は口コミで会員を募集しているからだ。
会員とは、掲示板や、メールでのやり取りもしない。
わりと用心深い連中だった。
痕跡が見え隠れするコミュニティの傾向からすると大学生、ここから半径三十キロ以内の人間、たぶん、なにかのスポーツサークルに属している。普通の家庭に良い息子として潜んでいるケダモノだ。
快楽殺人は、あたしも思っても見なかった要素だ。
検索条件にすれば、もっと劇的に絞れるかもしれない。
でも、今日はここまでだ。あしたも学校がある。この手の捜査は、たいていの場合長い闘いになるのを、あたしは知っていた。
『ねぇ千夏。きみ、この頃、鏡で自分の顔見たことある?』
ケットシーが言った。もちろん鏡なんか見ない。見るのが怖いからだ。誰かが言っていたように、あたしは暗闇をのぞき過ぎたのだ。