罰ゲームじゃないんだから
ワッフルはあたしにとっては凸凹がついただけのホットケーキだ。棒状になろうが、リング状になろうが、属性に変更はない。
三十分も行列に並ばなければならない様な、必須栄養素ではないのだ。
でも、あたしの顔を見上げる真樹ちゃんの笑顔を見ると、ま、いいかと、あきらめの気分になる。
オフィス街の真ん中にあるお店だ。ビルディングの一階テナントに、小さな看板が誇らしげにかかげてある。雑誌に載るような話題の店なのだ。
あまり車通りのない道の両脇には、ゆったりとした歩道がとられていて、大きな街路樹が植えてあった。
行列は日差しをさけて、街路樹がつくる陰の中に長くのびている。
真樹ちゃんはちっちゃいので、話す時は、男子平均並みの身長を持つあたしを見上げる感じになる。
「それ、いいよ。とっても可愛い」
真樹ちゃんは、たぶん、あたしの髪型のことを言っている。一緒にいる真樹ちゃんに恥をかかせたらマズイと思って、昨日、一年ぶりに髪を切ったのだ。
「そ、そうかな、てれちゃうよ」
真樹ちゃんは、ちゃんとあたしを見てくれている。
真樹ちゃんはちっちゃいけれど、ちゃんと釣りあいのとれた体で、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。もしあたしが男だったら、ぐへへ、じゅるじゅる、て感じだ。
でも、ふわふわするような物言いのせいで、あまり、生々しく女って感じはしない。そういうところが二次元っぽい。
行列は少しずつ進んでいる。風があって、以前に比べたら過ごしやすくなっている。二週間前なら、あたしはもう倒れていたかもしれない。今でさえ、あまり屋外環境に耐性のないあたしは、ねとねとする汗をかいていた。
そう言えば、街路樹の葉の色も、少しくすんでいた。たぶん、この樹は紅葉するのだ。
真樹ちゃんは、あたしの腕に触れて、体を引っ張った。
あたしは、後ろから自転車が来ていたことに、気づいていなかったのだ。
「千夏ちゃん、あぶないよ」
真樹ちゃんとあたしは、一瞬、体をぴったりと密着させる感じになった。柔らかい感触に、あたしはどきっとした。香水かシャンプーか分からないけど、真樹ちゃんは、甘い匂いがした。
「おお、ありがと。真樹ちゃんて、見かけよりしっかりしてるよね。必要なことをちゃんと出来るというか……」
「いつも、天然だと思ってる?」
ごめん、思ってた。
「わたし、これでも勉強もスポーツも出来るのよ。がんばってるの。ああ、やっぱりって言われたくないから」
「やっぱりって?」
真樹ちゃんは、ちょっと暗い感じで横をむいた。
「なんでもないよ。むかし、ちょっと、いろいろあったの」
行列は思ったよりはけたので。あたし達は、すぐに目的の名状しがたい食物を手に入れた。少し歩いて、街路樹の下に空いているベンチを見つけ、二人で座った。
目の前を、同じ食べ物を持った女子学生が、五人、笑いながら通り過ぎて行った。
真樹ちゃんは、自分の学校にも友達がいて、今の女の子達みたいに、みんなで楽しそうにしていても変じゃない。罰ゲームじゃないんだから、わざわざ、隣の学校の陰気な女子生徒と、つまらない会話をしないといけない理由なんて、どこにもないのだ。




