赤羽郎作
美香が目を覚ますと、そこは無機質な病室だった。その傍らで寝台を眺めているのは、ヒーロー・インテリジェンスの社長だ。
「社長……」
「私の忠告が無意味にならなかったことを祈ろう。言っただろう……油断大敵だと」
「はい、アタシの落ち度です……」
強敵相手に二度も惨敗し、彼女は少し落ち込んでいた。あれほどまでに満ち溢れた自尊心も、今では木っ端微塵の有様だ。このままでは、美香の今後の沽券に関わるだろう。そこで社長は、一つばかり提案をする。
「この私……赤羽郎作が、直々にお前を鍛え上げてやろう」
「しゃ、社長が……自ら……?」
「そうだ。さぁ、屋上に来たまえ」
ヒーロー・インテリジェンスの社長その人とあれば、その強さは未知数だ。美香は息を呑み、それから提案を呑む。
「わかりました。自信はないですけど、ベストを尽くします」
二度も惨敗した身の上では、やはり自信が失われるらしい。彼女は郎作に連れられ、屋上へと赴いた。
屋上にて、郎作は不敵な笑みを浮かべる。
「先ずはお前から攻撃するんだ。私が後手に回ろう」
何か大いなる力を秘めているのか、彼は余裕綽々としている。そんな彼に苛立つこともなく、美香は全力でワイヤーを放つ。しかし、その一本一本は一斉に切断された。唖然とする彼女のすぐ目の前に、郎作の拳が迫りくる。
「グハッ……!」
重い一撃を受けた美香は、そのまま屋上を転がった。郎作は次の動きを見せず、悠々とした佇まいで相手の動きを待つ。
「立て。お前の力はそんなものか?」
「違う! アタシはまだやれる!」
「……その意気だ。弱気な者にヒーローは務まらないからな」
そう語った彼の目は、眼前の少女に対する期待で満ち溢れていた。美香はおもむろに立ち上がり、再びワイヤーを放つ。無論、その全てが切断されていったことは言うまでもない。そこで郎作は助言する。
「異能が通用しない相手に勝つ方法も身に着けろ。そういう時のために体術というものがある」
「は、はい!」
「全身の力を抜き、丹田に重心を置け。そして呼吸を整え、勢いよく吐き出しながら拳を突き立てろ」
彼に言われるまま、美香は拳を突き出した。されどその挙動はぎこちなく、眼前の大物の身にはまるで通用しない。それでもなお諦めのつかない彼女は、強烈なラッシュをお見舞いする。一方で、強敵は微動だにしていない。
その時である。
「えらく苦戦しているようだな」
突如としてその場は強風に包まれ、その場にシュヴァルツが乱入した。彼は何本もの大剣を一本に圧縮し、それを勢いよく振り上げる。直後、その刀身は容赦なく切り落とされた。
「剣術が通用しないのなら、体術だな」
美香とは違い、彼は洗練された体術を習得している。稲妻のごとき回転脚を繰り出し、彼は郎作を退けていく。当然ながら、郎作も防戦一方ではない。
「足癖が悪いな」
そう呟いた彼は、何の迷いもなくシュヴァルツの脚を切断した。
「ちっ……厄介な異能だな」
そんな不満を零したシュヴァルツは、即座に脚を再生させる。怪人ともあらば、頂上的な再生能力を持つこともまた必然である。
郎作は言う。
「シュヴァルツ……お前は強い。だが、まだ私の力には達していない。強くなってから出直してくるが良い」
そう告げた彼は、凄まじい威力の回し蹴りを繰り出した。この一撃により、美香とシュヴァルツは勢いよく後方の壁に叩きつけられた。
――この勝負は、郎作の圧勝だった。
シュヴァルツは地面を殴り、眼前の強敵を睨みつける。
「チッ……今日のところは引き下がるか。またやりあうぞ、郎作!」
続いて、美香も口を挟む。
「次は負けませんよ、社長!」
彼女たちに課せられた使命は、圧倒的な成長だ。郎作は満足気な笑みを浮かべ、屋上を去っていった。




