第1話 奇跡の始まり
―「早く何とかしなさいよっ!!あんた公務員でしょ!?私たちのお金で食べさせてもらってる分際で、何で仕事しないのよっ!!」
またこれだ。相手が公務員と見れば、やれ税金泥棒だの庶民の為に尽くせだのとわめく輩が後を絶たない。
はっきり言う。お前らのようなクソ庶民がどれだけ社会の役に立っているって言うんだ。
世の中じゃ芸能人のスキャンダルだとか有名インフルエンサーの炎上だとかが取りざたされているが、そういうクズの方が金を持ってて経済を回しているって現実を見ろ。
・・・そんな鬱屈とした思いが胃腸を締め付けていく中で、俺は今日もわざとらしいほどに親身に接しているようなフリで仕事をこなしている。
俺の名前は、久澄 仁也。
地元を離れ上京しそこそこいい大学を出たものの、就職浪人をして寂れた地方のしがない役場でなんとか内定をもらい公務員をしている。
「お気持ちはよく分かります。ですがこれは庁内の規則でして、個人的な事情で締切を過ぎての受理は適わない書類になるんです。」
「もう何なのよっ!!アンタみたいな窓口の下っ端じゃ話になんないから、上司呼びなさいよっ!!!」
だから役所のルールでできないって言ってんだから、誰呼んだって同じ回答しか返ってくるわけねーだろ。
いるんだよなぁ、世の中のルールが分かってないくせに自分こそが世論だと思ってる奴。
おかげさまで公務員の仕事のほとんどは、こういう社会の歯車にさえならないゴミの相手ばかりだ。
「どうしたのかね、久澄君。何やら騒がしいが。」
「課長。実はですね・・・。」
俺はことの経緯を簡単に課長に伝えた。
すると課長は、
「この度は書類対応で不安な中、ご足労いただいたにも関わらず不快な思いをさせて申し訳ございませんでした。
書類の方は一度担当者の方で預からせていただいたうえで対応いたします。」
「ふんっ。分かればいいのよ。若い奴の教育くらいちゃんとしておきなさいよね。」
先ほどまで唾を飛ばしながらまくし立てていたババアは、捨て台詞を吐いて去っていった。
まぁでも課長がそうするって判断したんなら俺のような末端が口を挟むことでもないし、何かあっても責任は課長だ。
「課長、ありがとうございました。それじゃこの書類は受理として決済を取ってもよろしいですか?」
しかし課長は眉をひそめて、俺にとんでもないことを言ってきた。
「何を言っているんだ、受理するなんて言ってないだろ。担当者が預かったうえで対応するといったんだ。
君が預かってきたその書類はルール上処理できないから課長判断で決済なんてしない。だからこの後で書類不備で突き返してこい。窓口では余計な騒ぎを起こすな。」
おいおいマジかよ。役場は事なかれ主義だってのは知ってたけど、無責任貫くために下の人間にそこまでクソの処理させんのかよ。
「いやでも、また課長を出せとか言われたらどうします?」
「そうならないようにするために一度帰らせたんじゃないか。この後でお宅訪問して君の仕事としてちゃんと処理してこい。
また窓口で騒ぎを起こすようなら、何らかの対応を人事に相談せねばならんなぁ。」
・・・やってくれたなこのクソ上司が。
あくまでも問題を起こしたのは俺の方ってことかよ。
「・・・分かりました。後で向かいます。」
上下関係が全ての公務員の世界で逆らうわけにもいかず、俺は時間を置いてから預かった書類に書いてあるさっきのババアの住所地まで向かうことにした。
◇◇◇
「クソがっ!何だって俺がこんなことしなきゃならないんだよ!!わざわざ都会の大学出のエリートがこんなド田舎に来てやっただけでもありがたく思えよ!!!」
道すがら、溜まった不満をぶつける相手がいる訳でもなく吐き散らす。
まぁ本当にエリートならこんなしょうもない地方の役場で、いまどき公務員になんてならないだろう。
―バサッ
「ん?今なんか書類かなんか落ちたような音がしたな。」
俺は鞄の中を確かめてみるが、しっかり中身は揃っていた。念のために周囲を見渡してみると、少し離れたところに1冊の本が落ちているのが見える。
「何だこりゃ?誰かのイタズラか?」
見るとその本はどこぞの丸眼鏡をかけた魔法使いが主役の映画に出てきそうな、まさしく魔法の本といった見た目をしていた。
しかし、中身を開いてみると真っ黒なインクで塗りつぶしたような不気味なページがずっと続いている。
「こじらせてんなぁ。どうせ誰かの落としものだとしてもキモい陰キャみたいなやつのだろ。そのままにしとくか。」
言っといてなんだが、俺自身は陽キャって訳じゃない。だからといって陰キャ扱いされたくもなくて、日和見や他人の顔ばかり気にして生きてきた。
―その結果がこのザマだ。
言いたいことも言えず、やりたいことも特になく、ただ誰かの言葉に突き動かされて食って寝るだけみたいな人生。
申し訳ございませんという言葉を何の抵抗もなく言えるようになったのはいつのころだったのか、まだ30という年でもよく覚えていない。
「まぁいいや、とにかくさっさと謝って今日は帰りにラーメンでも食って帰ろう。」
そうこうしているうちに例のババアの家に着くと、そこそこ立派な門構えによく毛並みが手入れされた小型犬が玄関の前でこちらに向かって吠えている。
(・・・課長め。それなりの家が相手だと知ってたから、俺に責任ごと投げやがったんだな。)
恨めしい思いを抱えながらインターホンを鳴らそうとしたとき、吠えていた犬が俺の脛に思いっきり嚙みついた。
「がああぁぁっ!!なんだ、この駄犬っ!!」
するとドアが開き、先ほどのババアが出てくる。
「ちょっとポメちゃん、何を騒いで・・ぎゃあぁあっ!!あんたウチのポメちゃんに何してんの!?」
ふざっけんなっ!!どう見ても被害を被っているのはこっちの方だろうが!!!
すったもんだでババアに犬を引きはがしてもらうと、ババアは鬼の剣幕でまくし立ててきた。
「アンタさっきの使えない公僕でしょ!?
ちょっと窓口で大きな声出したからってこれは無いんじゃないの!?役場に言いつけてやるっ!!」
――終わった。もう書類のことなんて切り出せない。
その瞬間、俺の中でプツンと何かが音を立てて切れた。
無意識のうちにババアの顔面に手が出そうになった時、鞄の中で何か光った気がした。
ふと見ると、先ほど捨ててきたはずのキモい本が光を発しながら鞄に入っているのが見えた。
思わず手に取り開いてみると確かに黒塗りだったページの一部が普通の用紙になっており、そこには不思議な文字が浮かび上がっていた。
「ちょっと、アンタっ!!聞いてんの!?そんな変なもの取り出して、どこまで人をコケにする気!?」
見たこともない書式で何語なのか全く分からなかったが、なぜか俺にはそれを読むことが出来た。
『醜き魂を持つものに正しき導きを―』
それを読み上げた瞬間、ババアは急におとなしくなった。と思いきや、急に態度を変えてこちらに擦り寄ってきた。
「うふんっ♪さっきは大きい声を出してごめんなさいねぇ♡無理を言ってしまったのはこっちだから、書類のことはもういいわぁ。
それより、あなたの仕事ぶりはすんごいご立派だったって課長さんにも言っておくわねぇ♡」
キモイキモイキモイ!!というか口くっせえ!!!
思わず突き飛ばしてしまったが、ババアはこの上なく不快な喘ぎ声を出すだけだった。
とりあえず俺は、状況が飲み込めないまま急いでその場を立ち去った。
「何だったんだ、一体・・・。
この本に書いてあることを読み上げた瞬間あのババアおかしくなったよな?・・・まさか、な。」
そんなことあるわけないと思いつつも俺はその本を鞄にしまい、上司には急な体調不良で早退と告げ今日は家に帰ることにした。――
この度は拝読いただき厚く御礼申し上げます。
本作がなろうでの初投稿になる作品となります。
書きたいように書くというコンセプトにて、AIは一切使っておりませんので表現が拙かったり読みづらい箇所もあるかとは存じますが何卒ご容赦いただければと存じます。




