『加古川編』
クズの続きは、書けなくもない。
その後おれはその家電量販店でしばらく働いてさ、お金を貯めて、とある狩ゲーからの縁で兵庫の加古川に通うことになるんだ。
あれは新しい出会いだったな。
なにが違うかって、おれと同じような匂いがしたというか、向こうもちょっとした団地の一階の住人でさ、外では澄ました歯科助手のくせに、部屋の中は散らかり放題なんだな。タバコも酒もやるし、下着もその辺に出しっぱ、仕分けはするがビニール袋を直にゴミ箱にするタイプ。
もちろん読者の中には苦手な人もいると思う。けど、それがおれには気を遣わなくて済む親近感だったんだよ。
ただ、子供がいたんだな。
彼女にはもう。
なんでわからなかったかって、彼女、それまでは知人の子を預かってるって言ってたんだ。おれはどうしようもないバカだから、それを鵜呑みにしちゃってたわけ。
おれがそれを本当の意味で知らされたのは、初夜の後だった。彼女はおれの腕の中でさ、震えながら告白したんだよ。
隣の部屋で寝ている子供が、自分の子だということを。
おれ自身が震えてたかは、もう覚えてないな。彼女の頭を抱えながら、どう受け止めていいかわからなかった。ズルいとは思ったよ。ヤった後に言うなよって。でも、それくらい彼女にも言い出せない事情があったんだろうし、やっぱり一人手で育てる寂しさもあったんだと思う。
ただ、それからは少し付き合い方が変わったんだな。おれは自分の子としてその子と接するようにした。
おれも最初は努力してその気になってさ、次来るときにはサッカーボール持ってこようとかそんで公園で一緒に遊ぼうとかいろいろ話しもした。おれはバカだから外郎売をそらんじて聞かせたりもしたな。家電量販店で働くのにさ、滑舌が必要だろうってんで覚えたんだけど、おれが教えられることなんてこれくらいだったんだよ。三人でいろんなところにも出かけた。
おれは地元が横浜だから、新横浜から新幹線で確か新大阪、そこから乗り継いで明石駅まで行くんだ。そこの駅前に彼女が車で迎えにきてくれるってわけ。片道三時間、運賃は往復で三万くらいだったかな。けど、ぜんぜん苦ではなかったよ。家電量販店のおかげでお金はたんまりあったし、その頃はもうそっちが実家って感じがしてさ、行くんじゃない、帰れるんだって安心するくらいだった。
そのうち彼女の実家にも行かせてもらった。ご両親に挨拶もした。その日の夜は鉄板の焼きそばでさ、「これなら◯◯ちゃん(子供)もよく食べるんや」って。おれもよく食べたよ。普通の焼きそばなんだけどな。
惜しかったのは明石焼きを食べなかったこと。ずっとたこ焼きみたいな、違うやつって言われて、食べに行こう食べに行こうってせっついてたんだけど、結局食べることはないままだったな。
一度さ、すげー嬉しかったのは、普通のスーパーで三人でその日の夕飯のお買い物してさ、真ん中にその子、おれと彼女と手を繋いで、並んでスーパーを出てきたところだった。そこで彼女が気を利かせて言ってくれたんだよ。
「なんかこうしてると、ほんまの家族みたいやん」
おれにはほんと、勿体無いくらいの気の配れる彼女でさ、A型で。
その子も最初のうちはお風呂にも入ってくれなかったのが、その頃になると家族みんなで入るようになって、他人の垣根もなくなってたのかな、お湯かけあったり、からかいあったりもするようになってた。
ただし、彼女、絶対マスカラを外したところだけは見せてくれないんだな。お風呂の中でさえも付けてて、いくら大丈夫って言っても「それだけは見せられん、あっち向いてて」って頑なに断られたな。
そんな日々が続いて、お父さんって一度だけ呼んでもらったこともある。
ああ、やっぱやめようかな。これは辛いわ。
けど、最後まできちんと話すと、限界ってのは来るもので、ただその限界が最低だったのは、おれの性欲がなかなか満たされないってこと。
夜は三人で寝るのが普通だし、そもそもが遠距離恋愛で二人とも働いてるってこともあって、久しぶりに再会できてもなかなかその機会がないんだな。
おれはそのうち隙あらば彼女の身体を求めるようになった。その子が居間で遊んでるうちに、キッチンでさせたこともあったよ。二、三往復もしないうちにその子がきて、すぐ断念するハメになったんだけどな。
で、最悪だったのはある夜のこと。
その子はまだ小さかったからしょうがないんだけど、行為の最中にさ、おれたちがいないことに気付いて泣き出すんだ。
終いにゃ衾の向こうにまでくる。子供なりに理解してたのかもな。衾は開けないんだ。ただその向こう側でずっと泣くんだよ。
あれはキツかったな。萎えるなんてもんじゃない。良いことをしているつもりが、一気にひっくり返って、世界中から悪人のそしりを受けている気分になった。
だが、本当にキツいのは、その子のほうだよな。突然現れた野郎がよくわかんないうちに父親ヅラかますようになってさ、お母さんと二人きりでよくわかんないことをこそこそとするようになってんだから。
一緒にいて笑うようになってくれただけ可愛いもんで、本当のところはどう考えてたんだかもわからない。いや、ずっと我慢して合わせてたに違いないんだ。そりゃそうだろ、子供だもの。
わかってたんだ、おれも。
だから、キツかったんだ。
そういうのがあって、おれは次第にその子を疎ましく感じるようになった。本当に今でも怖いし、自分でも最低だと思うけど、新しい彼氏がさ、連れ子に暴力を振るうようになるその気持ちがわかっちゃったんだな。
一番になれないんだよ。
彼女にとって一番はずっとその子だし、愛する人であればこそ、そうであるべきだ。
自分で孕ませた子だったならまだ違ったかもな。二人でその子を一番にできたと思う。
でも、そうじゃないし、例えそのうち自分の子が産まれたとして、おれはそっちばかりを可愛がってしまうんだろうという想像もした。どう転んでも最低な義父になっちまう。
これはあんまりひどいんで書かないつもりだったけど、クズの告白だからな。今更だと思って洗いざらい白状すると、おれはその子や彼女にこそ当たらない代わりに、自分のスマホを地面にほっぽりだして強く踏みつけたり、そうやってストレスを解消するようになってた。
狭い団地の一部屋だった。
彼女からしても「今はスマホだけど、その怒りがいつこっちに向くんだろう」と気が気じゃなかったとしても不思議じゃない。
傍から見ればかなり威圧的で怖い行動だったと思うよ。
そうすると、おれは身を引くのが正解なように思えた。本当に危なかったし、さっきも言ったように、その子にとって突然現れた馬の骨はこっちなんだ。
万年コタツでその出会いのきっかけになった狩ゲーをやってる二人の背中を見ながら、この二人に戻してやろう、戻してやるべきなんだって思うようになったな。




