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29.混沌の中の正しい光



「以上が今日見えたものです」

「それについては近日中に手を打つつもりだから問題はないな。下がって良い」



 彼が一礼して部屋から出るのを確認してか隣にいたジェイドが口を開く。




「いやぁ、恐ろしいですね」

「アレが、か?」

「いえ、動揺一つしない貴方がですよ」




 嘘がお上手で、と付け加えられた。ジェイドの言うことはその通りで、先程彼が言ったことに対してはまだ何も取り掛かってはいない。ただ、




「近日中に取り掛かれば嘘ではないだろう」

「それもそうですね」




 成長したこともあってか、先見の頻度が増えてきた。以前は回数も少なく、報告事項も聖女が目覚めるかどうかが分かったり、聖女の身に危険が迫った際の対処法であったりと聖女に関するものばかりであったが、最近は穀物の育ち具合や同盟国の急な訪問など多岐にわたる。



 もちろん全てをこちらに伝えているわけではないだろうし、事前に知った上で対処できるので報告自体はありがたくないわけではないが。



「便利な力ですよね、先見。重用したくなるのも分かります」

「それだけが理由ではないがな」

「ただ、それも理由のひとつですよね」



 揚げ足を取るように返してくる。聖女の精神安定剤であり他にはない先見の力の持ち主。手放したくない理由としては十分ではある。



「一番の理由は物怖じせずに物が言えるところだ、なんていうことは分かっていますがね」

「…………アレは文句が多すぎる」

「貴方に文句が言える人間ほど貴重な存在もなかなかいませんよ」



 軽口は置いておくとして。




「他国の様子は?」

「ビエンタの山火事は無事に収束しました。ラクホールは大地震が発生して聖女を筆頭に対処中ですね。ただ、聖女の力で大方は解決していますし、同盟国からの支援も手厚いので長引くことはないかと」




 やはり、以前と比べてどの国でも災害が多く発生している傾向にある。災害発生時に聖女が不在だった我が国以外は大した被害は出ていないが。




「まるで寓話だな」




 聖女を大切にしない不届な国だけは被害が甚大になる、とでも言いたげな。



「まあ、聖女の成り立ちからしておとぎの世界の話ですがね」



 世界の造物主たる神が作り出した人間。神に全てを捧げる代わりに特別な力を与えられる聖女。



「……生贄と何が違うのだろうな」

「神の寵愛ですよ。愛」



 茶化すジェイドは無視するとしてもこの状況は少し気にかかる。反聖女派に良いように操られた先代の王。前聖女がいなくなってからの旱魃に山火事に疫病。紛い物であれ聖女擁立後は全てが上手く運び、現聖女の側には神の如き力を持つ人間がいる。




 できすぎている。




 反聖女派は旱魃後から急に姿を消した。反聖女派自体が北側諸国の陰謀との見方もあったが、あちらはあちらでこちらが旱魃等で憂いている同時期に大雪に見舞われ動きが取れなくなり、侵攻どころの話ではなかった。その間に国を立て直すことには成功したものの……全て偶然だろうか。




「誰かが何かを成し得たいとやっているものだとしても……目的が見えない以上手の打ちようがないな」

「とりあえずは現聖女様を丁重に扱っていくしかありませんね。そういえば、現聖女様から伝言を預かってきました」




 ジェイドは大きく息を吸って、





「お祭りの日くらいフィーとデートしても良いじゃないですかっ! ノア様のけちんぼ!」





 わざわざ声色を変えて再現してくれた。何かの気遣いとしても無用だ。




「聖女の立場を」

「理解した上での発言ですよ。可愛らしいじゃないですか、文句だけで済ませてくれるなんて」




 二年前まで普通の少女だった彼女は、聖女としてよくやっている方だとは思う。彼への執着を除いては。



「若い二人が上手く一緒にいられるように立ち回っている王子様のお話もこれはこれで良い寓話になりそうですね」

「なるわけがないだろう」

「なりますとも」



 部屋を出る前に、不敵な笑みを浮かべながらジェイドは言う。





「人のことばかりしていると、婚期を逃す話です」





 そうして、こちらの返事を聞くこともなく盾のように扉を閉じた。自分につく者はやたらと口達者で困ったことだ。





 ため息をついて気持ちを切り替え、別の資料を手に取る。と、封書が挟まっていたらしく、床に落ちてしまった。この印璽はリュオールからのものか。





『貴方のおかげで今があります。どうか貴方にも神の祝福があらんことを』





 かつて、自分が愛せなかった婚約者は満ち足りているらしい。

 





「使えるな」




 


 出てきた言葉に我ながら苦笑する。







 人をどう動かせば良いか。





 何が国のためになるのか。






 それを一番に考えている自分は、彼らの好きな愛とやらからは最も遠いところにあるのだろう。






 それでも。







 国を背負う立場にあるのならば、ノア・シーグヴァルト・グランフェルトならば間違ってはいない。






「私の歩む道は、常に正しい」







 正しくあるためにペンを執る。







 その先が、その未来が、正しいものであるようにと。


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