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23.帰郷



「なんと……なんと……!」



 話をするのにやけに溜めているペローナと、固唾を飲んで見守るリアン。多分大したことじゃなさそうだ。



「来月から断食日がなくなります!」

「おお!」

「やりましたねフィー!」



 案外と大したことだったのに驚いて思わず声を出してしまった。なんとなく咳払いをして誤魔化す。



「偶然聞いてしまったんですが、長かったですねぇ……。私なんてあまりにお腹が空いた時は布のひとつも食べれるんじゃないかと思案しましたよ」

「布はペローナの友達じゃなかったのか」

「緊急時に助けてくれるのも友達です」



 緊急時とはいえ友達を食べようとするな。とはいえ、一日一食に月三回の断食はかなり辛いものがあった。徐々に断食日は減っていたが、ついになくなるのか。



 ガラスマメが収穫できるようになってからはや二ヶ月。今後の食料調達の見通しも立ち、安定的な供給が見込めるだろうという話も聞いてはいたが……実際に毎日食事ができるという喜びは大きい。



「早く一日二食になると良いですね」

「私、実はお菓子作りも得意なんですよ! 前みたいに小麦が使えるようになったらリアン様にも召し上がっていただきたいです」



 お菓子の出来も、もしや刺繍と同じなのだろうか。それはそれで興味はあるが。




「そういえばフィー様。ノア様がお呼びでした。至急ですって」

「それはもう少し早く聞きたかったな」




 すぐに準備をしてノア様の元へと向かう。また嫌味を言われなければ良いが。と、割合覚悟をして部屋に入ったが、特に何も言われることはなかった。珍しい。明日にガラスマメが全て枯れていないといいが。



「至急の用件と聞きましたが」

「ああ」



 何か思案していたのか、少ししてから口を開いた。




「君の母君だが」




 心臓を握られたかのように一瞬息が止まる。




「体調があまり良くないそうだ」




 以前にノア様から城の人間が近くにいて様子を見てくれているという話は聞いていた。そのこともあって家には帰っていなかったが。



「病などではない。食事をあまり取っていないらしいから、それだけだろう。ただ、この生活が今後も続くようであれば」



 倒れるかもしれない。それもそうだ。彼女は二人の家族とともに暮らしていると思い込んでいるが、実際には一人暮らし。配給は一人分だ。それを三等分して、夫や子供に少し多めに盛り直して残りだけを食べていれば、綻びも出てくるだろう。




「君は、どうしたい?」




 会いに行くべきか、否か。




「……俺が行っても、何も変わらないと思います」

「そうか」




 そのまま、しばしの間沈黙が流れる。いつとのように、ノア様は話の終わりを急くことはしない。



「…………少しだけ、時間をください」

「公務の都合もあるからな。明日までには決めておくように」



 一礼して部屋を出る。きちんと前を見て歩いているはずなのに視界は定まらず、霞がかかったかのように頭はぼんやりとして動きが悪い。




「フィー?」




 たまたま廊下に出ていたリアンに呼び止められた。



「そちらは食堂ですよ。どうか……したんですか?」



 怪訝そうな顔でリアンはこちらを見ていたが、すぐに俺の手を取って歩き出した。足取りは早く、部屋に着くまではリアンも一言も喋らなかった。



「何があったんですか?」



 何かありましたか? ではなく、何かあったことは確定だという聞き方をされた。



「別に……なんでも」

「ない人はそんな顔はしません」



 余程ひどい顔をしていたらしい。見られたのがリアンだけで良かったのかもしれない。



 

「あの人の……体調が、あまりよくない。らしくて」




 自分は今、どんな顔で話しているんだろう。視界も暗くリアンの顔もよく見えない。




「行きましょう、フィー」




 両頬に添えられたリアンの手。小さくて温かなそれと、力強いリアンの言葉が視界を晴らす。いつの間にへたりこんでいたのか、顔を上げればリアンが優しく微笑んでくれていた。


 

「私もついていきます。どこまでも私はフィーと一緒です」



 会いたくない。会って大丈夫か確かめたい。早く目を覚ましてほしい。でも壊れるくらいならいっそこのまま。



 自分では整理をつけられないまま、決断できないままの想いをリアンが汲み取ってくれる。




「気になるなら行くべきです。何かあっても、必ず傍に私がいます」





 その言葉に、ようやく立ち上がることができた。





 そして、リアンからノア様に直接請願してそれは叶い、俺達二人は久々に村へ戻ることになる。






 俺とリアンの思い出と、思い出したくないものがたくさん詰まった、あの村へ。



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