15.笑顔
俺とリアン、そして第三王子とその護衛は、実験を行うための荒れた土地へと歩みを進めていた。途中、変わり果てた街の様子に驚き悲しんでいる様子も見られたが、立ち止まることなくここまで辿り着くことができた。
リアンと同じく案外肝が据わっているのかとも思ったが顔を盗み見れば、いつも以上に色が白くなっていた。それでも耐えて、やるべきことを全うしようとするその姿勢には年下ながら頭が下がる。
「アルフレッド様、こちらです」
たかだか近衛騎士が外で愛称を呼ぶわけにはいかない。もし友人であれば肩でも叩いて鼓舞するところなのだろうが、そうもいかないので頭を下げて黙って後方へ。
顔色はあまり変わらないが実際の土地の様子を見、土を手に取るうちに部屋の様子に近いものとなってきた。不安以上に探究心が上回ってきたのだろう。
できれば、なんだなんだと集まってきた野次馬にも気づかないでいてくれると良いが。
「始める」
一言告げて、魔法をかけ始める。
人に備わっている超常的な力を魔法、それを解析し理論付けたものが魔術と呼ばれているが、これは大まかな位置付けで使用する魔法によって解釈が違うこともあれば、最悪人によって主張が異なるものもある。
まあ、人によって使える魔法やその威力に差があるからある程度仕方のないことではあるのだが、第三王子が魔法を解析して治癒魔法と強化魔法を組み合わせて使っているこの魔術は、正直、奇跡的な魔法としか言いようがない。
一般人の使うそれとは格が違いすぎる。
一つ間違えばすぐに土地を破壊しかねないような繊細な術式を集中力を途切れさせないように扱い、一方で同時に使用している解析魔法で土の様子を絶えず確認している。さらに、それ以外に二、三追加で何らかの魔術を展開している様子が見て取れる。生半可な実力の持ち主では一分と持たないだろう。
第一王子が早く部屋から出せと急かすわけだ。この才能を遊ばせておくことは国の損失に直結するといっても過言ではない。
「回復レベルは問題ないが補強レベルが理論上の数値をかなり下回っているな……。一度解いて二段階引き上げたものに変えて、となるとその間の維持は空間魔法で行って、ん。これも使えるか……」
多展開されていく魔術式には圧倒される他ない。そうしているうちに、いつの間にか隣に来ていたリアンが小声で話しかけてきた。
「聖女の力と変わりなくないですか」
「それはさすがに言い過ぎですが……規格外であることは間違いないかと」
そうこうしているうちに終わったらしい。目視でも今すぐ作物を植えても問題ないのではないかと思えるほど、あのひび割れた土が元の姿に近い状態になったことが分かる。
「アリー様、お疲れ様でした」
「お加減はいかがですか?」
「二人とも……」
大仕事を成し遂げたというのに、その顔は失意の色に染まっている。
「すまない……失敗してしまった」
「え?」
この土地のどこをそう見て、そんな言葉が出てくるのか。
「理論上では、完璧に元の状態を取り戻す様に計算できていたのに……2/3程度しか回復していない。二人にあれほど協力してもらったのに、本当にすまない……っ」
これを2/3程度と言ってしまうのか。この完璧主義者め。
「アルフレッド様」
「やはり途中で魔術式を変更せずに.……いや、使用する順をもっと考えておくべきだった。回復魔法をかける前にもっと別の」
「あちらが目に入りませんか?」
差した先には、集まっていた民が皆一様に晴れやかな顔をしている。もう駄目かと思われていた土地が、作物を今すぐにでも植えられる程度にまで回復したのだ。その奇跡を前にして、浮き立たずにはいられまい。
「ありがとうございます! 私達の畑を……ありがとうございます!」
「素晴らしかったです! アルフレッド様!」
「王子様ありがとうー!」
初めて。
多分これが、初めてだ。
長く病で臥せって、兄達の活躍を傍で見ながらも自分だけは何もできず、歯痒い思いをしてきた第三王子が、初めて。
たった一人でやり遂げて、受けた称賛だった。
俺もリアンも手伝いはしたものの、そんなのは今日の第三王子の働きに比べれば霞のように軽いものだ。
「アルフレッド様、お言葉を」
側近に言われ、何かを言おうとして。何から言えば良いのかが分からず、側近の進言を受けてようやく重たい口を開いた。
「アルフレッド・ホーカン・グランフェルトだ。その……兄上達と違い、体も弱くて……なかなか、すぐに結果を出すことはできないかもしれない」
迷いながら、慣れない言葉を紡ぐ。
「だが、皆の生活を守り……暮らしを豊かにするために、私の持てる全ての力を使っていきたいと思う! だから……共に、歩ませて欲しい」
ただ、その言葉は力強く。
自然と広がった拍手が、敬愛の念を示しながら彼を包み込んでいた。
「……ありがとう」
そう呟いて、第三王子は崩れ落ちた。
久々に外へ出て規格外の魔法を使用し国民に言葉を紡いでと、部屋の中では考えられないくらいに動いた彼の体は、随分と負荷がかかっていたらしい。
それでも。
「結局、情けないところを見せてしまったな」
後日、本当のお見舞いで訪れた際、俺とリアンに語りかける彼は。
「ただ、誰かの期待に応えられることは……とても、とても嬉しいものだな」
熱のことなど感じさせないほど、晴れやかな笑顔を見せていた。




