14.威厳
それからしばらくは大変だった。聖女の護衛をしつつ、第一王子から言われた無駄に多い仕事をこなしつつ、第三王子に頼まれた調べ物を合間で行う。
ある程度調べがついたところでリアンと共に第三王子の部屋を訪れ、ああでもないこうでもないと話す時間はまあ、楽しくないわけではなかったが。
「フィーに採取してきてもらった土の解析結果がこれだ」
「ムハルジアの旱魃後のものと近いですね」
土の成分はやや異なっているものの、旱魃で受けたダメージは同等と考えられる。確かムハルジアは回復までに十年はかかったはずだ。遊牧民の多い土地であったから問題はなかったものの、この国ではそうはいかない。
「土の補強は人間用の身体強化魔法を弱めたものと回復魔法に組み込んだこの術式で可能だと思うんだが」
「治癒魔法ではないのですね」
「ああ。怪我などをイメージしてもらうと良いが、治癒は完全に治すことを目的とした魔法だからな。土の様子を見ながらより良い状態に近付けるなら回復魔法を使うんだ」
魔法や魔術にそれほど詳しくはないリアンの質問にも答えてくれるので、勉強会の様相も呈している。思わぬ副産物ではあるが、知識を高めておくことはリアンにとっても悪くはないだろう。
「ただ、そこに植えるものの知識に疎くてな。何か良いものはあるか?」
旱魃後の土地でも育ちやすく、ついでに食料にもなってくれるものだと有り難いが……難しいな。
「ガラスマメなら育ちはすると思います。種子部分は食用ではありますが……」
「毒でもあるのか?」
頷いて肯定する。
「多量に食べると麻痺症状が出ますね。少量であれば問題はないかと思いますが、食糧難の対策にはなりません。茹でることで毒は抜けますが、今度は栄養分が抜け落ちます」
「逆に考えれば、生育段階でその毒さえ抜ければ問題はないのか」
ただ、土にそれほどの魔法を施した状態で解毒魔法まで追加すれば綻びが出かねない。最悪土が駄目になってしまう。
ガラスマメ自体は旱魃後にはもってこいの植物ではあるが、食べられないものを植えておくことは今の状況では難しい。王様達が同盟国に赴いているのは食料供給の依頼も含めてのことなのだから。
「あ」
と、リアンが棚を見て声を上げた。
「水はどうでしょう。魔力水にして植物にのみかけるようにして」
なるほど。それならばいけるかもしれない。
「土には布でも敷いておけばそれほどかかる心配もありませんね。確か、布等を敷くことで雑草を防いだり温度を上昇させて生育を促したりする効果もあったはずです」
「では、魔力水の調合も必要となるな。水やりを考えると早く多く作れるものでなければならないから……」
そうして、部屋の中で理論を組み上げ、都度第一王子に確認を取りながら実験を行うことのできる土地を確保し、ガラスマメの調達も依頼できたところで、いよいよ部屋から出て実践することとなった。
「……緊張するな」
理論上は上手くいくはずだ。それでも、やはり最初の一歩を踏み出すのには勇気が要る。
「アリー様、私もフィーも隣にいます」
リアンが手を差し伸べるのに倣って、俺も手を伸ばす。
「マルクス・ヒルデベルト曰く、『全てが糧』だそうですよ。ただし」
「ディーデリックとピクルスは除く、だったな」
少年らしい相応の笑みを見せて、第三王子は俺とリアンの手を取った。その双肩に乗せられた期待は重責となって未だに彼を蝕んではいるだろうに、驚くほど軽い足取りで閉ざされていた部屋から一歩を踏み出した。
「行こう」
顔を上げて言った言葉の威厳は、やはり王族のそれで。
歳もリアンより一つ上でまだ成人もしていない彼に。
俺もリアンも、自然と頭を下げていた。




