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無能扱いされていた生体錬成士の俺が最強幼女ホムンクルスを生み出した。  作者: tatakiuri
五章.精霊が絵画を嗜んじゃ駄目って?いや駄目とは言ってないじゃん。
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76.火に油どころか火に酒

 魔術都市の一角にある大衆酒場。都市にあるその手の場所の中では一番規模の大きな店だ。そこでは夜毎研究に疲れた魔術師や、観光客たちがたむろしては日が昇るまで酒を飲むというのが見慣れた光景だった。

 が、今日のそれは一味―――というか砂糖と塩ぐらい二味も三味も違っていた。

 今店を占拠している者達。それは、


 蜥蜴とかげのそれを彷彿とさせる鱗の張った肌。長い尻尾。二本の後ろ足でまっすぐに立ち、ヒトのそれと同じか、あるいは少し高いほどの背丈をしている。そして、鱗の隙間からは暖炉に入った薪の山の中で燃える種火のように、炎が光を灯している。

 サラマンダーだ。

 彼らは酒場に集まって。ただひたすらに酒を飲んでいた。



 先の召喚士達の襲撃に際して判明した新しい事実。

 それは、精霊は自らの中に確固たる意思や目標を得た時、ヒトと同じように体内に魔力を発生させ、その魔力を扱うことができるようになるということ。すなわち、所詮ただの魔力の塊でしかない精霊が、まさしくひとつの生物として昇華されるということだ。そうすることで、世界を創造し維持している魔力がいたずらに消費されることを防ぐことができる。

 そして、それには精霊かれらがヒトの文化に触れ、そこに感銘を受けることが大きな一助となることが分かった。

 そのため管理局は、襲撃の首謀者達を処罰することもそっちのけで、この新しい事実を確かめるために精霊達に片っ端からヒトの文化に触れさせることにした。

 食事、工芸、娯楽、芸術、はたまた少し言えないようなことなど、本来精霊には不要とされるものを考えられる限り片っ端から教えていた。

 生きる上で不要とされるものは、言い方を変えれば命の余剰燃料だ。余った力は身体の中に溜まって脂肪になる。脂肪というのは必要になれば、肉体が活動するためのエネルギーを供給する。精霊達にとってのそれが、文化であったのだ。

 それは結果的に、街全体を駆り出す宴のようなものへと発展していった。


 そして、それだけの効果はあった。

 まず火の精であるサラマンダー達は、あるものを気に入った。

 それが酒、アルコールだったのだ。



 酒場の一角。広いテーブルの上には、魔術都市で生産されているものだけでなく、世界中から集められた酒が並べられていた。そしてその前に一人、大きな椅子に悠々と背中を預ける彼の姿はさながら王様だ。

 ティファレッテが召喚した火精の王。ドレークである。


 彼の隣に、一人の魔術師が歩み寄ってきた。その手にはボトルに注がれた水のように透明な液体が持たれている。

 魔術師はテーブルの上に小さなガラス製の器を置くと、説明するように言葉を発した。


「魔術師というのはなにも火を吹いたり岩の巨人だか人造人間だかを生み出すだけを言うのではない。()()()()()も、我々の仕事なのです」


 それに、ドレークが不遜とした態度で応える。


「ほう?ティファレッテが我を司るように、汝らは酒の精でも司るとでも言うつもりか」

「まさしくその通りです。これは、世間一般で行われている手法で製造された酒に、ある工程を加えたものです。

 私が錬成した特製の素材で()()()、それを一定の温度―――具体的に言えば水の沸点を超えない程度に熱する。

 するとどうなるか。酒の成分であるアルコールだけが蒸発するのです。そしてその蒸気を冷却すれば、再度液体に戻る。水分が飛ばされた純粋なアルコールだけがね。“濾過”と、“蒸留”です。この二つの工程を幾度となく繰り返せば、限界まで純度を高められた酒が出来上がるのです。それが、これです」


 言いながら、魔術師はボトルをくるくると揺らしてみせた。


「結局のところ、貴方がたサラマンダーが酒を気に入ったのは、アルコールの揮発性の高さからくる、いわゆる可燃性です。貴方は酒そのものというよりも、自らの身体の内にあるその煌々たる炎をより強く燃え上がらせるものを求めている。それを叶えられるヒトの文化の一旦が、これだったのです。

 そういう観点で見れば、私の用意したこれこそが、その望みを叶えられるものでしょう。そこに並べられた、ただ麦やら果物やらを潰して発酵させただけのものなど、酒の力の半分すら引き出していない。今からそれを証明してみせましょう」


 揚々と長ったらしい前置きを終わらせてから、魔術師はボトルの口に詰まっていた木製の栓を引き抜いた。


「本当の酒を知らない田舎者の観光客達などには、一杯飲んだだけで卒倒する者もいます。貴方がそうだとは思いませんが、まずはこの小さなグラスに一杯。味わってお召し上がりください」


 そう言って、テーブルに置いたグラスに酒を注ごうとする。

 が、


「何をせせこましいことをしている」


 そう吐き捨てながら、ドレークはボトルを魔術師から奪い取った。


「ちょ、ちょっと?」


 慌てる男を他所に、火精の王はそのままその長い口でボトルを飲み込まんほどの勢いで咥え、中の液体を一気に喉の奥まで流し込んだ。

 瞬間、


「ん!」


 唸り声と共に、ドレークの身体に燻っていた炎が俄に強くなり、鱗の隙間からボウボウと吹き出してくる。

 これには思わず魔術師もたじろいだ。


「熱っ!?」

「んんんっ!」


 変わらずうんうんと唸りながら、一気にボトルの中身を空にするドレーク。

 中身のなくなった瓶を口から離すと同時に、彼は酒場に集まる他のサラマンダー達にも聞こえるような大きな声で叫んだ。


「これが酒だ!貴様らももっと飲め!もっと燃え上がるのだ!」


 その宣言を皮切りに、酒場の中では盛大ならんちき騒ぎが始まった。

 集まったサラマンダー達は次々と運び込まれてくる酒をひたすらにあおり、その度にその身の炎を赤々と燃え上がらせる。その光景はさながらボヤ騒ぎだ。あわやそのまま店が炎上してしまうのではないかというほどの熱気が立ち込める。


 そんな中、立ち並ぶ人混み(?)をかき分けてドレークのもとに歩み寄り人影。

 ティファレッテだ。


 彼女は疲れ切った様子で相棒の隣に立つと、苛立ちを隠しもせず叫ぶように吐き捨てた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛!お酒がトラウマになりそう!仮にわたしが大人になってもこんならんちき騒ぎは絶対しない!」


 先の襲撃で重症を負った彼女だったが、その後のマルクスの応急処置とゲブラーの医院で治療を受けたこともあって、命に別状はなかった。

 また、襲撃の首謀者でありその上最大の被害も出した張本人でもあるわけだが、他の者達同様特別厳罰を受けることもなく、むしろ早々に釈放されることとなった。

 というのも、この魔術都市は実績主義だ。優れた実力があり結果を出せば、多少あくどいことをしたとしても許されるのがこの街なのである。

 これまでに類を見ないほどに強力なサラマンダーを召喚し、何十というゴーレムとホムンクルスをあっという間に破壊したという実績の前には、管理局を占拠しようとしたとかいう悪さなど霞んで見えるのだ。その罪を罰するより先に、称賛の声を浴びせつつ、いかにしてドレークを召喚し使役しているのかを聞く方が先決だというわけだ。


「ティファレッテか。汝も楽しんでいるか」


 遅ればせながらそばに来た召喚主に呼びかけるドレーク。


「楽しい楽しくないじゃなくて、他のサラマンダーに絡まれて大変なのよ。火精の王の召喚士だってべたべたされて、ホント疲れた」

「何ぃ?」

「しかも、魔術師達からもなんかあれこれと根掘り葉掘り聞かれてさ。どうやってあなたを召喚したかって、そんなの分からないよ」


 そんな応えを聞いた途端、ドレークはおもむろに座っていた席から立ち上がると、拳をパキパキ鳴らしながら近くにいた他の火精に歩み寄り、その頭に盛大に拳骨げんこつを浴びせた。

 火精の王と呼ばれるその力で殴られた相手は、風に吹かれた枯れ木の枝のように床の上に倒れ伏した。


「貴様かァ!我が召喚者に破廉恥な真似をしでかした阿呆は!」


 大声で怒鳴り散らすドレーク。

 殴られた相手が慌てて、

「オレはしてねえよ!」と弁明すると、そのまま返す刀でもう一人のサラマンダーを殴り飛ばした。


「じゃあ貴様か!」

「してないってェ!っていうか何の話!?」

「嘘をつけい貴様ら全員思い知らせてやるから覚悟しろ!」


 いきなり何をしでかすのかこいつは。

 酒を飲んでもアルコールがすぐに揮発しているから化学的にはありえないはずなのだが、もしや酔っ払っているとでもいうのか。あるいは精霊というのは生物ではない、彼らが目に見えない魔力を操るように、物理的には存在しない酒精というものに酔わされているのだろうか。


 なんにせよ、このまま彼に暴れられては大惨事になる。

 ティファレッテは大慌てでドレークを制止しようと声を張り上げた。


「ホントやめなさいって酒場がまる焦げになるでしょこのバカタレ!わたしに消されたいのかコラー!」


 なんだかんだと言って、ドレークは彼女の言葉はそれなりに聞く。

 渋々、首根っこを掴んでいたどこの誰かも知らない魔術師の身体をそこら辺に放り投げつつ戻ってくるドレーク。もし骨が折れたりしたら後で謝っておこう。


「いやはや、汝にはやはり覇気がなさすぎる。嫌気が指したのなら我でもなんでも使って叩きのめしてしまえばいいのだ」

「あのねぇ、そういうのは“覇気”とは言わなくてただ“野蛮”なだけなの。まったく……。こんな苦労するならあなたなんて召喚しなければよかったよ」


 呆れ顔でそう応えるティファレッテであったが、ドレークにはへこたれる様子は微塵もない。むしろ、余計に愉快そうな顔をするばかりだ。


「ハッ。人間というのはそうやって平気で心にもない嘘をつくが、そのようなところは存外嫌いではないぞ」

「これも嘘じゃなくて、冗談って言うの。ジョーク!分かった?」

「なるほど」

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