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無能扱いされていた生体錬成士の俺が最強幼女ホムンクルスを生み出した。  作者: tatakiuri
五章.精霊が絵画を嗜んじゃ駄目って?いや駄目とは言ってないじゃん。
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57.襲撃前



        ※



 館長と別れ監視塔を後にし、家路を戻るマルクス達。

 その道中、マルクスはあることに気がついた。


「なんだか、周りが変に慌ただしいな」


 通りを急ぎ足で駆けていく人々の姿は、平時のそれではない。時には移動用のゴーレムや風の魔術を使っている者もいるほどだ。

 その騒々しさはどことなく、以前起こったあの事件を彷彿とさせた。オウルがうんざりした顔で言う。


「もしかしてまたゴーレムでも暴れだしたの?」

「いや、そういう感じでもなさそうだ。どうもみんな管理局に向かっているらしい」

ジブン(自分)達も行ってみる?」

「いや、やめておこう。触らぬ神に祟りなし」



 ひとまずマルクス達は怪しいことには首を突っ込まず、大人しく我が家に戻ることにする。しかし、家の出入り口の扉の前に立ったところで、マルクスは慌ただしさの原因というものを知ることとなった。

 扉に、《コンプレス・ワード》の魔術が施されていたのだ。


「これは、管理局からの通達か?身分が登録されている魔術師達に一斉に報せているんだ」


 時々こうやって管理局からの通達が圧縮された情報として魔術師達の住居に貼り付けられることがある。それ自体は珍しいことではない。

 しかし、圧縮を解除して中にある情報を読み取った瞬間、マルクスの表情は驚愕の色に固まり、しばらく動くことさえできなくなった。


「……馬鹿な」


 短くそう吐き捨てる彼を、オウルとニルが怪訝そうに見つめる。


「どうしたの?」


 と問うたオウルの方に振り向くマルクスは、未だに管理局から報せられたその事実を信じることもできないまま、ただ淡々と応えた。


「近い内に、この魔術都市が外部から襲撃される。今度はこの前のような演習や訓練じゃない」

「また?でも、それってそんなにびっくりすることかなあ」


「いいかオウル、それにニルも、よく聞いてくれ。こちらに向かっているのは、イェソドが率いる精霊召喚士達だ。あの人達がこの街を占領しようとしているらしい」


「……え?」

「そんな……」


 これにはさすがにオウル達も目の色が変わった。マルクスがこんな顔をするのも理解できるようだった。とても信じられない。

 イェソド、あの《恋人ラバーズ》の命位アルカナ持ちが。ついこの間召喚術の講習会を開き、その原理を丁寧に説明していたあの大魔術師が、魔術都市を襲おうとしている?


「管理局が事前にそれを察知することができたらしい。街の住人は安全のために、自分の住居か、管理局が用意したシェルターに避難しておくように、って通達だ。つまりこれは戒厳令だよ。

 さっきみんなが慌てていたのは避難のためか。あるいは、襲撃に対する防衛戦力として志願している人もいるかもしれない。戦いの中で実績を上げれば、魔術師とし箔が付くってんでな」


 自分達も、管理局の通達通りにしなければならないだろう。家にいるにせよ別の場所に避難するにせよ、戦いが起こっている間は外に出歩くべきではない。

 それはいい。それは別にいいのだが。

 マルクスの脳裏に、あることが思い出された。


「ティファレッテ……!」


 そう、彼女だ。彼女は確かイェソド達の遠征キャラバンに同行していると聞いた。なら、今彼女はほぼ間違いなくイェソド達と一緒にいる。

 ティファレッテはこのことを知っているのか。昨日の今日この街にやってきた田舎娘に、魔術都市を襲おうなどという意志があるとはとてもではないが思えない。

 だとしたら、彼女は今どうなっているのか。


 あるいはもし、ティファレッテがイェソド達に同調し、彼らに協力しているとしたら……


「君は今、何をしているんだ?」


 マルクスがそんなことを聞いたところで、明確な解答が返ってくるわけもなかった。



        ※



 荷馬車の群れが行く。イェソド達のキャラバンだ。彼らは荒涼たる山岳地帯に差し掛かり、長い年月をかけて舗装された道を縫うように進んでいた。このままもうしばらく行けば、山々の間に隠れるように、堅牢な外壁に囲まれた魔術師達の楽園が見えてくることだろう。

 並び立って進む荷馬車の先頭、何も牽引していない馬に跨がりながら、イェソドは後方で進むキャラバンの御者達に呼びかけた。


「機動力が大事だ。もう少し進んだところで荷物は置いていこう。荷車には人員だけを乗せていく」


 それを受けた御者達が、荷台の中にいる召喚士達にそれを伝達する。

 今この場にいる者達は皆、前もって彼の意思に賛同しているか、あるいはハインケルの山で彼の目論見を知り、その上で協力してくれる者達だ。すでにそこに迷いはない。

 襲撃に賛同できなかった一部の者達は一時拘束した後、歩いて自力で都市に戻れるような場所で下ろしてやった。彼らが戻るころには、すでに事は全て済んだ後だろう。


 彼らの知ることではないが、召喚術士の別派閥が寄越してきた間者スパイもそれらに混じってすでにこの場を離れているところだ。


 と、馬に跨るイェソドの隣で、風の精霊 シルフであるエアリィがその姿を見せた。風を自在に操り、その流れに乗る彼女は、優雅に宙に舞いながら走る馬に悠々と追いついていた。

 しかし、その顔には不安の色が見える。


「イェソド」


 その呼びかけに、彼は落ち着いた様子で応えた。


「君の言いたいことは分かる。けど心配することはない。我々は誰も殺すことはない。多少の怪我はさせてしまうかもしれないが、占拠を成功させるにせよ失敗するにせよ、絶対に犠牲者は出さない。それは、精霊を呼び出したるヒトの身として誓う」


 しかし、その言葉にエアリィは首を横に振った。


「そうじゃない」

「……」

「君も前に言ったじゃない。君のやろうとしていることが成功したら、その先に何が待っているのか。それが分かっているのに、どうしてそんな平気な顔をしていられるの」


 『その先に何が待っているのか』。

 確かに、それをイェソドは知っている。というか、そうなるようにこれから管理局を占拠するのだ。

 精霊召喚術を禁忌とする。そうすれば、この先ヒトが精霊と接触することはなくなる。それは、今イェソド達共に行動している精霊達にしても例外ではないのだ。全てが終わった時、彼らもまた永遠に別れ、その逢瀬おうせの機会は二度となくなる。

 エアリィはそのことを言っているのだ。それを明白に聞かされてなお、イェソドの眼に迷いはなかった。


「召喚術という学問そのものをなかったことにしようとする男が、精霊と共にあるわけにはいかない。君と一緒にいるのも今日が最後となるでしょう。

 しかし寂しくはない。君は風の精霊シルフ。大地を吹きこの身を流れていく風の中に、いつだっているはずです」

「そんなことが君に分かるの?」

「分かるよ」


 はっきりとそう言いきったイェソドに、エアリィは秋の終わりに吹く北風のように冷たく言い返した。


「ヒトって、平気で嘘をつくよね」

「嘘じゃない。きっと、嘘じゃないんだ」

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