33.話が堅苦しい上に無駄に長いんだよぉ!
役員の中で、一瞬だけあらゆる時間が止まった。ような気がした。
つまりケィスは魔術都市を襲おうとしていることを知った上で、今回の犯人であるゴーレム技師を招き入れたというのか。
あろうことか命位を持つ魔術師が。
「ば、ばば、馬鹿な!敵だと承知した上であまつさえ開発局の職員として雇い、襲撃の機会をみすみす与えたと。ということはつまり魔術都市を管轄する我々管理局の一部門において、外患誘致が行われたということですか、冗談ではありませんよこれは!」
怒り狂った様子の役員に対し、ケィスは諭すように言う。
「いや、だってさあ」
「だってもへったくれもありません!」
「だから聞けって、メイドゴーレムが怖がってるじゃないか。
いいか?魔術師というものが世間に受け入れられて、目に見える外敵がいなくなりこの都市も安全になった。しかしそのことで逆に、脅威に対し立ち向かう機会というのが失われてしまった。魔術の叡智を守るために戦うことがなくなったのさ。そうなると、いざ大きな脅威に直面した時それに対処することができなくなるかもしれない。―――確か同じようなことを考えてる奴が開発局に一人いたなぁ。あいつは優秀な設計師になるよ。
まぁ、そういうわけだから定期的にこっちで外敵を用意して戦わせてやるべきなのさ。演習だよ、実戦形式の“演習”」
「……ま、まさか貴方は、都市に住まう魔術師達を訓練するという名目で、意図的に今回の騒動を起こしたというのですか?」
「飲み込みが早くて助かるねぇ。実際、彼らはよくやってくれた。なにせ命位が出張るまでもなく事態を収束できたんだから。演習の成績としては上々、花丸の合格点だ。まぁ、お人好しの《教皇》なんかは今も怪我人の治療に働き回ってるらしいけど。
そういうわけだから彼ら魔術師については管理局から、『今回の件は外敵の襲撃を想定した演習である』とでも声明を出しておけばいいんだよ。それでみんな収まる」
そこまで聞いても、まだ役員としては納得しきれない。
「それで収まるとは思えませんが」
「収まるんだよ。魔術都市とはそういうところだ。貴兄らお役人さんは真面目すぎていかん。まぁ、そういう人がいないとさすがに魔術都市がコミュニティーとして立ち行かなくなるだろうから管理局なんてものが必要なんだし、我輩だって貴兄らの働きには感謝はしているけどね。日々のお勤めご苦労。
けど、そういう真面目さはもっと別のところで発揮してもらいたいよ。例えば、今回の犯人の事情聴取とか。そっちもちゃんと進んでる?」
それについては言われるまでもないことだ。騒動の犯人であるゴーレム技師の素性を確認するべく、今も尋問が行われている最中である。
「貴方が、外敵と知った上で招き入れたんでしょう。それなら素性ぐらい知っているのではないですか?」
「いやぁそれが情けない話なんだけどね?魔術都市で何かしでかそうとしてるなってことまでは分かってたんだけど、どこから来たのかとかなんでそんな気になったのかとか、そういう込み入ったとこまでは把握できてないんだよね。っていうか紛いなりにもウチの職員として雇うんだからそんな込み入ったことまで聞けるわけないでしょ。
というわけで、ここから先は貴兄らお役人に丸投げさせてもらう。頼りにしてるよ。上手くいけば、我々魔術師にとっての膿を全部吐き出すチャンスになるかもしれないんだから」
最後だけは、わずかに真剣な口調だった。
そう。今もっとも重要なのはそこなのだ。この世界のどこかに魔術都市を敵視し、襲撃を画策している者達が今もいるかもしれない。まずは今回の犯人の正体を突き止めて、その背後関係を洗い出す。
ケィスが犯人を管理局に招き入れたのは、あえてこちら側に深くまで入り込ませることで逆に捕らえる機会を作るためだったのか。それならば役員としても理解できる意図ではある。
さすがに、ただの個人がこれだけ大規模な襲撃を画策できるはずがない。なんらかの後ろ盾が存在しているはずだ。早急にそれを見つけ出さねば。
でなければ、また今回のような事件が起こりかねない。そうなってしまえばそれこそ管理局の不始末になるだろう。
「ほら、大事な仕事があるんだから。こちらからはもう言うこともないから貴兄も帰った帰った。今言った通りに対応すれば、今回の件はすぐに解決するだろうさ」
「……もししばらくしてほとぼりが冷めないようなら、改めて貴方に責任を追求しに来ます」
それだけ言い残し、役員は踵を返してオフィスを出ようとする。
と、それをメイドゴーレムが引き止めた。
「あの、ご気分を損なったようで申し訳ございません。これ、ワタシが作ったクッキーなんです。どうぞお受け取りください」
そう言って、小さな包み紙を差し出してくる。
「へぇ?ク、クッキー?ゴーレムがお菓子作りを?」
「変でしょうか……」
申し訳なさそうに上目遣い(?)でそんなことを言ってくるメイドゴーレム。
こんな姿を見せられて、心無い返事ができるわけがない。
「い、いえぇそんなことはありませんよ!どうもありがとうございます。帰ったら頂きます」
役員はそれを受け取り、今度こそオフィスから出ていった。
結局その後、ケィスの言う通り『今回の件は演習である』という声明を管理局から発行すると、都市の魔術師達はすぐに納得した。復興が進むと観光客も戻り、その客足は事件が起こる以前とそう変わらないものになった。
この魔術都市はそういう場所なのだ。根本的に、倫理観がどこか狂っていた。
ちなみに、メイドゴーレムが作ったというクッキーはアホみたいに美味かった。
彼女の同型機が正式に流通した時、いの一番に購入しようと決める役員なのであった。




