26.これぞ魔術師達の底力。
マルクスは脳裏で思わず叫んでいた。
「(嫌な予感が的中した。敵は魔術師とゴーレムの二つか!)」
ゴーレムの術式を知らず知らずの内にすり替えるほどの相手だ。自身もまたゴーレムを操り、身を守るための機体を用意していてもなんらおかしくはない。
「(さすがに二対一じゃあオウルでも分が悪い、俺が居て良かったな)」
オウルがゴーレムにより引き離され、お互いに敵と一対一の状況になった。
マルクスの前方に見える黒いローブの女が、わずかに覗く口元に薄ら不気味な笑みを浮かべて言う。
「創造主を守ったか。殊勝なホムンクルスだ」
「(後の問題は、俺の方がこいつを相手にしなくちゃいけないということだが……)」
「だが。主人の身を案じるならば、そもそもここに連れてくるべきではなかった」
冷然とそう言い放ったと同時に、こちらを指差していた女の右腕に鋼鉄の外骨格が装着された。重厚な装甲をまとった腕が、元の二倍も三番も大きくなる。
ゴーレム使いならば、その技術を自らに応用して戦うことだってできる。オウルが生まれた日、あの傍若無人なヘッツもやっていたことだ。
まったく、この前もゴーレム、ついさっきもゴーレム、そして今もゴーレム。次から次と騒動が起こるのはいいが、せめてもう少しバラエティに富んだ相手が欲しいものだ。まぁ一連の騒動は全て同じ発端によるものなので仕方がないことではある。
その発端というのがあいつだ。要はすべてあの女が悪いのだ、まったくもって。
などとぼやく暇もなかった。
次の瞬間、女の右腕から光の弾が放たれた。あの外骨格は小型の魔力砲を内蔵していたのか。
「《スケイル・ディフェンス》!」
マルクスは咄嗟に魔術を発動し、鱗の盾を構える。数十、数百の鱗を重ねた防壁が光弾を受け止める。
熱量と炸裂による衝撃で相手を破壊する攻撃だ。とはいえ、さすがに人間の腕サイズの魔力砲となると威力もそれほど高くはない。鱗が何枚か引き剥がされるが、盾そのものが破られることはないようだ。
もっともそれも、一発や二発の話。立て続けに連続で攻撃されてはさすがにもたない。
「こうなったらやぶれかぶれだ!俺だって魔術師として戦えるってことを、なんとしても証明してやるからな!」
ここから先は生命のやり取りだ。ちょっとした油断、ほんのわずかな想定違いが死に繋がる。
そんな不安を押し殺して、マルクスは覚悟を決めた。
※
時はわずかばかりに遡る。
別方向へと去っていったマルクス達と別れた大(?)魔術師のテトさんとザイーネは、大通りで暴走する数体のゴーレムと対峙していた。
その光景は、一端のゴーレム設計士であるザイーネにとってはまるで地獄絵図だろう。
否が応でも、自らが設計したゴーレムが暴走したあの記憶を思い出す。
「あの時と同じ光景だ。誰かが努力と研鑽の末に作り上げたゴーレムを、外敵として壊さなければならないなんて……!
ボコボコにするとは言ったけどやっぱり気が引けます!」
動揺するザイーネの背を、テトさんが押す。
「今度はこっちも前のような不始末は起こさない。この大魔術師が手を貸してやるから、心を決めて戦いなさいよ!」
それに実力が伴うかどうかはともかくとして、テトさんの言葉はいつも基本的に自信にあふれていた。それが案外、一緒に戦うとなると心強いのだ。
「分かりました」
ザイーネも迷いを捨てる。
彼女は移動用ゴーレムの座席に増設された照準装置を右眼に押し当てる。それに呼応して、魔力砲の砲身が動いた。
網膜に映し出されるロックオンカーソルに敵ゴーレムの―――本来は敵などではないはずのゴーレムの姿をぴたりと収め、そのまま握っていた操縦桿にある引き金を引いた。
砲身から勢いよく魔力砲弾が撃ち出され、座席が僅かに揺れる。
その次の瞬間には、照準内に映っていたゴーレムはすでに人の形を成さず、砕け散った岩塊と成り果てていた。
「一機撃破です!」
「ふん、多少はやるようね。なんでそれをこの間もできなかったんだか」
褒めているのか貶してるのかも分からないテトさんの言葉に、吹っ切れた様子のザイーネが応える。
「先の暴走の時はすぐに対応できるだけの用意がありませんでしたから。それに、私のゴーレムは特別です、とても頑丈なのです。こんな即席の魔力砲では、そう簡単には壊れないでしょう」
「自分で止められないような代物を作っておいて威張るなバカァ!それに自分の身体が潰されたんだぞ!」
「まぁごもっともですけど。テトさんの方は何もしないんですか?」
「言われるまでもない!」
次はテトさんの番だ。
両手に持った杖を前方に向け、魔力を集中する。
「《ファイヤー・ボール》!
《ハイドローリック・ウォーター》!
《ランサー・ダート》!」
続けざまに放った三つの魔術。これらは全て、ザイーネ製の機体には一切通用しなかったものだ。
だが、今度は違う。命中と同時に勢いよく爆ぜた火球は一体のゴーレムの右半身を吹き飛ばし、高圧で打ち付けられた水流は別の機体を縦に真っ二つに切断し、撃ち出された槍が内部のコアごと胸を貫きそのまま地面へと縫い付けた。
そう、これが本来の大(?)魔術師の実力なのだ。
座席で仁王立ちしながら、頭の悪そうな笑い声を上げるテトさん。
「ふははははははははは!見たか、これがこのアタシの本当の実力だ!ふははははははは!」
「テトさんうるさいです!」
と、その高笑いに呼ばれたわけではないだろうが、十人ほどの人影がザイーネ達の前に躍り出た。全員が男性に見え、彼らは一様に剣や槍で武装している。
しかし、『人影』とはいってもヒトではない。その人間離れした白い頭髪と肌は、どことなくあのオウルを彷彿とさせる。
そして末恐ろしいのが、全員例外なくまったく同じ身長をしていて、顔つきも代わり映えせず、同じデザインの面白みもないただ着せているだけのような制服に身を包んでいるという点だった。
一卵性の兄弟だってこうも無個性を極めはしないだろう。
間違いない、彼らは―――
集団の先頭に立つ男が、抑揚のない声で言う。
「これより戦闘を開始する」
突如現れたこの集団に、ザイーネは思わず感嘆した。
「警備隊所属のホムンクルス?助かった……」
魔術で製造された人型機械であるゴーレムが戦闘を行えるのなら、同じく魔術で製造された人造人間だって戦えないわけがない。
彼らは戦闘用に調節されたホムンクルスの部隊だ。このような有事に備えて待機しているのだが、ようやく駆けつけてくれた。おそらくはここだけでなく、すでに街の各所で戦闘を始めているだろう。こうなればある程度安心できるというものだ。
そんなザイーネの安堵に対し、テトさん慌てた様子で言い返す。
「何言ってんのよ、あんな連中に手柄を横取りされてたまるか!いい、そこのホムンクルスども!大魔術師であるこのアタシの活躍を指を咥えて眺めているがいい」
「はあ」
この発言には鉄面皮で有名な戦闘用ホムンクルスも呆れ顔だった。




