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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第九章 はあ、魔力が宿るとこんなことになるんですね。へえ』

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第五話 よしよしよし! こんな変化なら大歓迎だ! アイヲンモールは最高でーす!


「はああああああっ!? なんだこれ! なんだこれ!? どういうことだよ伊織ィィィイイイ!!」


 深夜のアイヲンモール異世界店に俺の叫びが響く。

 スケルトンが呼びに来て、アンナさんと一緒に向かった先。

 搬入口を見た俺は、思わず叫んでしまった。


「これは……どういうことでしょうか……」


 アンナさんが真剣な表情で周囲を歩きまわる。

 その後をエプロン付きスケルトンが付いてまわる。

 マントをたなびかせたスケルトン隊長とスケルトン部隊は、じっと搬入スペースの中央を見つめる。


「いやほんとなんだコレ。コレが何かってのはわかるけども」


 搬入スペースの、中央。

 俺も目が離せない。


「よくあるカ(・)ゴ(・)台(・)車(・)。それもアイヲンのロゴ入りの」


 カゴ台車は横幅1メートルちょっと、奥行きは1メートルないぐらい、高さは俺の身長と同じぐらい。

 使えない時は折り畳める大型のタイプで、ウチに限らずいろんな場所の倉庫やバックヤードで見かけるヤツだ。

 まあ、横にアイヲンのロゴが入ってるから、このカゴ台車はアイヲンのだけど。


 搬入スペースにカゴ台車がある。

 それだけなら何もおかしいことはない。

 アイヲンモールだったらいつものことだし、俺も毎日のように見てた。

 春(・)日(・)野(・)店(・)で。


「ああそっか、誰かここに持ってきたのかな? スケルトンかバルベラか、行商人さんの娘さんのイタズラとか、ああ、クロエがよくわからなくてって可能性もあるか。ハハッ誰だろ、明日注意しないとな」


 そう、何もおかしいことはない。

 アイヲンのロゴ入りカゴ台車は、アイヲンモール異世界店にもある。

 ほら実際、搬入スペースの隅に、畳んでよせておいたのがいくつも見える。

 おかしくない。ないったらない。


「ナオヤさん。コレは、そういうものではありません」


「は、ははっ、いやだなあアンナさんそんな真剣な顔して。ついつい取り乱しちゃったじゃないですか。ほら普通のカゴ台車ですよ。搬入物を載せたカゴ台車ですよ」


 なんだか真剣な眼差しのアンナさんをなだめる。

 微笑みを浮かべてカゴ台車に近づく。

 搬入スペースの中央に、ポツンと置かれたカゴ台車は三台。

 三台とも、いっぱいにダンボールが積まれてる。


「イタズラにしては手が込んでるなあ。ってことはバルベラじゃなさそう。クロエも違うかな、やるなら単純なヤツにしそうだし」


 なんだか雲の上を歩いてるみたいにふわふわしてる。

 視線も定まらない。

 浮ついた俺の肩に、ポン、と手が置かれた。


「ナオヤさん……」


「なんですかアンナさん? まさかイタズラの犯人はアンナさんですか? やだなあもう、焦っちゃったじゃないですか」


「ナオヤさん、落ち着いて、カゴ台車を見てください。貼り紙があります」


「あっほんとだありますねなんで俺気づかなかったんだろこんなにデカデカと」


「なんて書いてありますか?」


「えっ? アンナさん簡単な日本語なら読めるんですよね? こ(・)れ(・)も(・)読めるんじゃないですか?」


「読めます。けれど、自信がないのでナオヤさんが読んで、私に教えてください」


「あーはいわかりました。これはこう書いてあります」


 アンナさんと話してたら、いつの間にかカゴ台車の正面にたどり着いた。

 三つ並んだ正面、デカデカと存在する貼り紙を指差す。

 貼り紙はこれまたよくある、「送り主と宛先」を書いたものだった。

 何店舗かまわる配送車だと、これがないと間違えちゃうからね。何もおかしくない。


「『異世界店行き。人事部伊織より』。つまりアイヲン本社からの荷ってことですね」


「はい、私もそう読めました。間違っていなかったようです」


「独学で勉強して日本語読めるようになったってアンナさんほんと優秀で……あああああああっ!」


「日(・)本(・)の(・)アイヲンから、異世界店行き。私が間違っていなかったようで、安心しました」


「何もおかしくない、わけないだろここ異(・)世(・)界(・)だぞどうなってんだ伊織ィィィイイイ!」


「ナオヤさん……」


 現実逃避はやめよう。

 搬入スペースにカゴ台車があることはおかしくない。搬入物が載っててもおかしくない。


 けどここは、俺が店長になってから22日目のアイヲンモール異世界店だ。

 日本のアイヲン本社から、荷物が届くわけがない。

 配送業社が届けてくれるわけがない。ないよね?


「〈転移ゲート〉がつながるのは半年に一度って! だから還るとしても半年後って! つながらないからいまある商品とこっちの商品しか売り物がないわけで!」


「落ち着いてくださいナオヤさん」


「つながるんだったら商品を! 人材を! テナントをォォォオオオ!」


「ナ、ナオヤさん、気を、気をたしかに! みんなナオヤさんを止めるのです!」


 カゴ台車を掴んでガタガタ揺らす。

 エプロン付きスケルトンたちが俺のまわりでアワアワしてる。

 魔法でも使おうとしてるのか、アンナさんに魔力が集まる。


 揺らしたカゴ台車の上部から、ふっと封筒が落ちてきた。

 我に返る。

 アンナさんに集まってた魔力が霧散する。


 俺は黙って封筒を拾った。

 株式会社アイヲンのロゴが入った封筒。

 搬入物と同じく、宛先は俺で送り主は人事部の伊織らしい。


「これまで半年に一度しかつながらなかった〈転移ゲート〉から、少しの荷物が届いた。きっとそこに説明があるはずです。読んでもらえませんか、ナオヤさん」


 アンナさんに応えることなく、俺はビリビリと封を破った。

 A4が入るサイズの封筒の中には、三つ折りで入れるタイプの長封筒が四つ。

 俺は長封筒を一つ手に取って、残る三つをアンナさんに渡す。


「あら、こちらは私あてですね。それとクロエさん、バルベラちゃんあても」


 自分用の長封筒を開ける。

 出てきた書類に目を走らせる。


 ……。

 …………。

 もう一度目を走らせる。


 書いてあることは変わらない。


「これは調査が必要ですね……まさか、このわずかな間に、地を巡る魔力の波長が変わるなんて……」


 アンナさんに応えることなく、俺はまた書類に目を走らせる。

 書いてあることは変わらない。


「二週間から一ヶ月に一度、小規模な転移ゲートが日(・)本(・)と(・)つ(・)な(・)が(・)る(・)。これは、大きな変化ではないでしょうか」


「カゴ台車三台分、つまりこの量の荷物がせいぜいらしいですけど……デカいですね」


 アンナさんあての手紙にも、同じことが書かれていたらしい。

 書類から目を離して、日(・)本(・)か(・)ら(・)届いた荷物を見つめる。

 カゴ台車の上を漁る。


 小さなビジネスバッグを見つけた。

 チャックを開けると、理解不能な図形が描かれたノートパソコンがあった。


「それに、三日から一週間に一回、このノートパソコンでデータの送受信をできるそうです。つまり——」


 書類を見る。

 ノートパソコンを見る。

 カゴ台車を見る。


「小規模ですけど! 発注して! 届いて! 販売できるってことです!」


 手を天高く突き上げる。

 書類とノートパソコンを持ったまま。


「よっしゃあああああ! よくやった! よくやった伊織! アイヲンすごい! アイヲンさいこう! アイヲンばんざい!」


 小躍りする。

 新人研修が終わった直後の新入社員みたいに叫ぶ。

 つられたのかスケルトン部隊もカチャカチャ踊る。


「ふふ。調査は必要ですが……これで、商売の幅が広がりますね」


 手紙から視線を離し、アンナさんは踊る俺たちを見て微笑んだ。



 俺が店長になってから22日目、日付変わって23日目のアイヲンモール異世界店。

 二週間から一ヶ月に一度、カゴ台車三台分ってわずかな量だけど、アイヲンモール異世界店に荷物が届くらしい。

 発注できるらしい。


「よしよしよし! こんな変化なら大歓迎だ! アイヲンモールは最高でーす!」


 新人研修終了直後と違って、一緒に叫ぶ仲間がいないのは寂しい。

 スケルトンに声帯はつかないんだろうか。……やっぱなしで。怖くないけど。ビビってないけど。



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