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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第九章 はあ、魔力が宿るとこんなことになるんですね。へえ』

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第四話 夜中に見まわりしてるはずのスケルトンたちが俺を呼びにきて……まさか侵入者!?


 俺が店長になってから22日目のアイヲンモール異世界店。

 営業を終えて、俺は生活場所にしているテナントスペースにいた。


「ではナオヤさん、まずは体の中に流れる魔力を感じてください」


「えっ、いきなりハードル高くないですか?」


「魔法を使うには必要なことです。血肉とは違うエネルギーを感じられませんか?」


「ちょっとわからないです。あとアンナさん血肉ありましたっけ。肉はあるか」


「ニホンには『気力』『氣』という考えがあると本で読んだのですが……」


「ちょっとわからないです。気力はわかりますけど」


 アイヲンモール異世界店の裏側に建築中の従業員用アパートはまだ完成していない。

 アンナさんいわく、「もう二、三日かかる」らしい。……早すぎない? 魔法が存在する異世界の建設業ヤバい。

 そんな魔法を使えるようになるべく、俺は今日からアンナさんに個人レッスンをしてもらうことにした。エロい意味はない。


「魔力の流れ……なんだろ、座禅とか組んだら感じるんだろうか」


 俺が暮らしていた離れから持ち込んだ——株式会社アイヲンに勝手に送り込まれた——じゅうたんの上に座る。

 やっぱりクッションも敷く。

 あぐらをかいてみたけど股関節が固すぎてしんどい。

 クッションの上に正座してみる。

 目をつぶった。


 そういえば昼間に見かけたイグアナさんはバルベラを知ってたらしいけど、バルベラは覚えてなかった。

 なんでもバルベラがまだ幼竜の頃に助けた亀、もといイグアナらしい。

 ここから馬車で二週間ほど離れた港町と、その近くの島を拠点にしてるとか。


「港町か。……ひさしぶりに魚が食べたいなあ」


「ナオヤさん? 雑念が出てますよ?」


「あっ、すみませんついつい。魔力。体の中の魔力の流れ」


 魚。

 刺身、塩焼き、煮付け、干物もいい。

 なめろうにしてみたり、つみれで汁物に入れるのもいい。


「買い付けるのは難しくない。ただ販売するなら仕入れの量と……一番の問題は輸送手段か」


 クロエとアンナさんは、見た目の容量以上に中身が入る『アイテムポーチ』を持っている。

 けど内部の時間は止まらないらしい。

 氷を入れて冷やせば多少の日持ちはする謎仕様だけど、魚介は厳しいだろう。

 さすがに運ぶのに二週間もかけたら腐る。


「車もバイクもないし……『アイテムポーチ』を複数持って、馬を走らせる? いっそバルベラか、バルベラパパママに頼んで空路なら……」


「ナオヤさん?」


 ゾクッとして目を開ける。

 アンナさんがいた。

 なんか黒いオーラをまとって、微笑んでるけど笑ってないアンナさんがいた。


「ひっ」


「雑念が浮かばないようにしましょうか? いろんな方法がありますが……」


「ちゃんと集中しますがんばります、ところでその黒いオーラって魔力ですかね? 俺に魔力が宿ったから見られるようになった、みたいな」


 微笑んだままアンナさんが一歩近づいてくる。

 体が勝手に震えだした。


「ナオヤさん?」


「はいがんばります。無だ。無になるんだ俺。無心だ」


 目をつぶる。

 アンナさんは親切心で教えてくれてるのに、俺がこんなんじゃ申し訳ない。

 そうだ、魔法が使えるようになれば港町まで早く行けるようになるかもしれないし。風魔法で空を飛んじゃったりなんかして。

 もしくはクロエみたいに『身体強化』できるようになって走り倒すとか。


 ……雑念が消えない。

 そもそも目的は無心になることじゃなくて、体の中に流れる魔力を感じることだった。

 集中する。

 体の中を探る。

 どくどく流れる血、呼吸のたびに動くお腹、正座でクッションに触れるすねと足、あ、なんだか足が痺れてきた気がする。じゃなくて。


「魔力。体の中に流れる魔力。ダメだわからん」


「焦る必要はありません。最初に感じることが難しいんです。これができれば、あとは理論と実践だけですから」


「はあ。いやそれもハードル高い気がしますけど」


 時計を見る。

 いつの間にか時間はそこそこ経っていたらしい。

 けっきょく「体の中の魔力の流れ」はわからなかったけど。


「一度で感じ取れる人は少ないものです」


「はあ。それ聞いてちょっと安心しました」


「時間がある時に何度でも試してください。私と違ってナオヤさんはそろそろ寝る時間でしょうし」


「そう考えると24時間活動できるアンデッドってすごいですよね。いやなりたいわけじゃないですよ?」


「ふふ、わかってますよ。……あら?」


 アンナさんが首をかしげる。

 俺から視線を外して、通路側を振り返る。

 つられて俺も目を向ける。


 カチャカチャ音がした。

 いまさら驚きはない。


「スケルトンが近づいてきますね。掃除かな?」


「いえ、掃除であればこれほど急ぐことはありません。それに数が」


「あーたしかに、いつもより音が大きいし多いかも」


 半分すぎまで下ろした、格子状のシャッターの向こうを見る。

 カチャカチャ、ガチャガチャ騒がしい音が近づいてくる。

 骨が当たる音のほかに、金属がぶつかる音も。


「あれ? じゃあスケルトン部隊も一緒か」


 やがて、通路にスケルトンたちが姿を現した。

 いつものエプロン付きスケルトンのほかに、夜は森を見まわってるはずの鎧付きスケルトン部隊も、兜飾りとマント付きのスケルトン隊長も。


「みんな勢ぞろいでどうしたんだろ。なんか慌ててるような」


 シャッターの向こうで、スケルトンたちはガチャガチャとアピールしてくる。

 思い思いのほねほねダンス、じゃなくて。

 何かを伝えたいらしい。


「なんでしょうねコレ。何かあったのかな」


 骨の気持ちがわからない俺には伝わらない。

 俺の隣で、アンナさんは息を呑んで目を丸くした。あ、息するんですね。驚いた時のクセが残ってるだけかな。


「た、大変ですナオヤさん!」


「はい? どうしたんですかアンナさん?」


「すぐ行きましょう! ついてきてください!」


「夜中に見まわりしてるはずのスケルトンたちが俺を呼びにきて……まさか侵入者!?」


「いいえ違います! とにかく行きましょう!」


「あっ違うんですね。だったら武器は持ってかなくていいか。スケルトンもいるし」


 普通スケルトンがモンスターなんだけどいまさらだ。

 いつの間にか俺はスケルトンたちを信頼していたらしい。いつもお世話になっております。


 とにかく俺は、スケルトン部隊とアンナさんのあとを追ってテナントスペースを出た。

 バックヤードに入る。

 階段を降りる。


 たどり着いたのはアイヲンモール異世界店の搬入口。

 スケルトンたちは動揺を表すようにカチャカチャ動きまわり、アンナさんは目を見開く。


 そして、俺は————



「はああああああっ!? なんだこれ! なんだこれ!?」



 驚きのあまり、叫ぶことしかできなかった。



「どういうことだよ伊織ィィィイイイ!!」



 俺が店長になってから22日目のアイヲンモール異世界店。

 株式会社アイヲンは、またやらかしてくれたみたいです。



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