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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第八章 アイヲン「モール」なんだからやっぱりテナントを募集します!』
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第六話 そ、そうですよね私なんかにいきなり結婚だなんて、そんなわけないですよね、おとぎ話の王子様みたいに、私なんてお姫様じゃないのに


「その、なんというか、俺の言葉足らずで勘違いさせて申し訳なく」


「そうだぞナオヤ! いたいけな少女を弄ぶなんてどういうつもりだ! もてあそ……もてあそばれ……イヤラシイ笑みを浮かべながらナオヤが私を、私のカラダをもてあそぼうと……くっ、殺せ!」


「これは大変なことになりましたね。がんばってください、ナオヤさん」


 アイヲンモール異世界店の最寄りの街。

 ガレット売りの少女をテナントに誘ったつもりだったのに、俺の誘いは勘違いされた。

 「ウチに来てくれないか?」の「ウチ」が、「アイヲンモール異世界店」じゃなくて「俺の家」だと思ったらしい。


「まあいま俺はアイヲンモール異世界店の空きテナントに住んでるわけで、つまりアイヲンモール異世界店イコール俺の家だから、間違ってるわけじゃないんだけど」


「ナオヤさん? 混乱してますね? 落ち着いてください」


 行商人さんから水の入った皮袋を手渡される。

 おとなしくゴクッと飲み込む。


「冷静になりましたか? では、あらためて説明してあげてください。あの二人に」


 そう言って、行商人さんは少女とクロエを示した。


「本当に申し訳ない。俺は、アイヲンモール異世界店にテナントとして入りませんか?って誘いたかっただけなんだ」


「そ、そうですよね私なんかにいきなり結婚だなんて、そんなわけないですよね、おとぎ話の王子様みたいに、私なんてお姫様じゃないのに」


「あー、そんなに卑下しなくても……勘違いさせて申し訳ない……」


 ガレット売りの少女は、プロポーズじゃなくて勧誘だったってわかってくれたみたいだけど、今度はずーんと沈み込んだ。

 心が痛い。


「でも、街の外……近くにいないとお母さんが心配ですし……」


「さっきも言ったけど、そこは従業員向けの寮を作ることも考えてる。それまでは俺や行商人さん一家みたいに、空きテナントで寝泊まりしてもいいし」


 アイヲンモール異世界店は三階建てだ。

 いまは一階のスーパーのあたりと屋外ぐらいしか使ってなくて、一階から三階のテナントスペースは営業していない。

 たぶん今回の募集でも、いっぱいになることはないだろう。


「急には決められないだろうし、しばらく考えて欲しい。テナントの条件は商人ギルドにも掲示されてるから——」


「むっ、そうだ! 少女よ、三日後にアイヲンモール異世界店で『ドラゴンセール』が開催されるのだ! 街からたくさんお客様がいらっしゃるはずだからな、その時に見に来るといい!」


「ドラゴンせーる、ですか?」


「うむ! ドラゴンステーキ、ドラゴンテイルスープはこの世のものとは思えぬほどおいしいのだぞ!」


「あー、それもいいかもな。料理はちょっとお高いらしいけど、テナントに入るのを検討してくれてるなら見学者ってことで俺がごちそうして——」


「本当かナオヤ! これは腹をすかせて当日を迎えねば!」


「なんでクロエが反応してんだよ。この子と、来られるならこの子のお母さんにって話だから」


 二回も俺の言葉を遮ったクロエ。

 一回目はいい思いつきだったのに、二回目はあいかわらず肉食エルフなだけだった。頭を抱える。

 そんなやりとりがおもしろかったのか、ガレット売りの少女はクスクス笑っていた。


「ありがとうございます。さっきはビックリしましたけど……お母さんと一緒に、いろいろ考えてみますね」


「うん。じゃあ、まずは『ドラゴンセール』で待ってるから」


「はい、必ず行きます!」


 誤解も解けたしテナントの件は検討してくれるらしいし、再会を約束して今日は帰ることにした。あとセールへの来店も見込める。


「そうだ! なんなら『ドラゴンセール』に来るときにガレットを持ってきてくれてもいいのだぞ?」


「……ドラゴンセールに来てくれるなら、そこで試験販売してみるのもいいかもしれないな」


「何を言ってるんだナオヤ! それではぜんぶ買い取れないではないか! 私とバルベラとアンナで山分けするのだッ!」


「『のだッ!』って。食い意地張りすぎだろエルフ。まあ接客でいっぱいいっぱいになるし売り切れるだろうし、食べ物を確保しておくのは大事だけど」


「ふふ、ありがとうございます。用意しておきますね」


 少女は微笑んで、注文を受け付けてくれた。

 クロエと比べてどっちがオトナなのかわからない。


「ではナオヤさん、行きましょうか。そろそろ出なくては、日が暮れる前に店に帰れませんから」


「そうですね、行商人さん。じゃあ、三日後に待ってるから」


「ではな、少女よ!」


 ぶんぶんと手を振るクロエと一緒に、俺たちは帰路についた。


「ふふふ、これで『ドラゴンセール』の楽しみが増えたな、ナオヤ!」


「まあな。無料送迎馬車も、ひとまず問題なさそうだったし」



 俺が店長になってから17日目のアイヲンモール異世界店。

 街とアイヲンモール異世界店を結ぶ無料送迎馬車の試験走行は問題なく、行商人さんの行商ルート引き継ぎの手続きも終わった。

 けっきょくテナントは見つからなかったけど、商人ギルドに募集の張り紙を掲示できた。



「よし! んじゃひとまず、三日後のドラゴンセールの準備に集中しますか!」


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