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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第七章 従業員感謝デーって大事だよなあ。次の商売の手がかりも見つかったし!』

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第十話 そうだなバルベラ。たまにはこんな日もいいか。従業員感謝デーだし。元の世界のアイヲンの従業員感謝デーとは内容が違いすぎるけど


 俺が店長になってから15日目のアイヲンモール異世界店。

 夕方前のピークはいつものことだけど、今日はいつもと様子が違う。


「うめえ、うめえよこれ! 俺こんなんはじめて食ったよ!」

「ふははははッ! そうだろうそうだろう! なにしろこれは我の」

「コカトリスの肉を揚げた、だと……? 俺にもくれ!」

「こっちはバジリスクの燻製風だってよ。いいのか店長さん?」


「あー、はい。えーっと、今日は従業員感謝デーで、従業員からお客さまに振る舞ってるんです。そういうことにします」


「おお、そうだったのかナオヤ! みんな、遠慮しないで食べるといい!」


「そこはスルーしてくれクロエ。バルベラのご両親のせいでモンスターの被害が出たかもしれなくて精神的にごまかしてるだけだから。マッチポンプみたいなもんだからこれ」


 アイヲンモール異世界店の正面入り口前。

 そこで、冒険者や農家のおじちゃんおばちゃんたちが料理を味わっている。


 肉は入ってないけど残り物のエンシェントドラゴンテイルスープ。

 一角ウサギのシチュー、雷角シカのロースト、殺人熊の(てのひら)蒸し、コカトリスの唐揚げ、バジリスクのスモーク風炙り焼き。

 どれも、さっきバルベラパパが仕留めたモンスターを調理したものだ。

 そもそもモンスターたちが住処から出てきたのもバルベラパパとママのせいなんだけど。


「みんな喜んでくれてますねナオヤさん。美味しい料理が食べられると評判になって、集客に繋がるといいんですけど」


「まあ今回はそこまで考えてません。原因は『身内』なわけで、ほんと『おすそ分け』と『罪滅ぼし』が目的で」


「ふふ、ナオヤさんはマジメですね。気にしなくてもいいことなのに」


「ま、待て! まさかナオヤは私に料理を食べさせて! 『食べたからには、わかってるだろうなあ?』などと私に迫り! くっ、こ」


「短絡的だぞクロエ。ほら、冒険者さんに唐揚げ持っていけ。あの人たちが知らせてくれたから余裕を持って迎撃できたわけで」


 野外調理スペースで揚げたばかりの唐揚げを陶器の皿に盛ってクロエに手渡す。


「うむ、任せろナオヤ! あちちっ!」


「おいなんで食った。タダだからって従業員が食べてどうする。持っていけって言っただろ」


 ポンコツ騎士は、持っていくついでに一つつまみ食いしたらしい。

 最近クロエのポンコツ度が増してきた気がする。

 まあ今日はモンスターを撃退したあとの宴会で、テンションが上がってるのかもしれない。

 バルベラパパとママがいなければクロエが主戦力になるところだったわけで、今日だけは大目に見るつもりだ。今日だけは。


 俺はまた別の皿に、揚げたての唐揚げをよそう。


「陶器の皿、かあ。これはバルベラの『ブレス』で焼いたんだよな。親子揃って非常識なことで」


「……そういうもの」


「ナオヤさん、『ドラゴンのブレス』は、術者であるドラゴンが望む『燃やした結果』を引き起こすんです」


「ああ、そう言えばお皿を焼く時にそんなこと言ってましたねえ。つまり今回は、バルベラパパが『当たった箇所だけを焼失させた』んですかね?」


「さあ」


「あ、そこまではわからないんですね。『知っているのか、アンナ?』って言いそうになっちゃいました」


「まあナオヤさん、呼び捨てだなんて」


「あれちょっとアンナさんまで面倒になってきたぞ? マジメに考えてたのがバカみたいだな俺」


「うふふ。ニンゲンさん、ドラゴンのブレスは『燃える』という概念なのですよ。過程はなく結果だけが起こるのです」


「解説ありがとうございますバルベラママさん。まったく意味がわかりませんけどね」


 空いたお皿を持ってきたバルベラママの言葉はよくわからなかった。

 それっぽいこと言ってるだけで適当に思えるぐらいだ。


「ほらアナタ、せっかくですからとびっきりを振る舞ったらどうです?」


「むっ! 待て、なぜそれを! 我が隠していたお気に入りの——」


「そ、その酒樽の刻印はまさか! 海を越えた島国の小さな酒蔵で造られている蒸留酒では!? ひと樽で屋敷が買えるというあの!」


「さあニンゲンさんたち、どうぞ飲んでください。この人ったら独り占めするつもりだったんですもの、おいしいものはみなさんでね」


「くっ! ここまできては仕方あるまい! ともに飲むぞ、ニンゲンよ!」


「おおおおおお! マジか!」

「ゴチになりまーす!」

「あっそんな一気に飲むなんてもったいない! ええい、こうなったら私も遠慮せずいただきます!」


 宴会は、ついにお酒が投入されたみたいだ。

 秘蔵の酒が奥様に見つかって開けられるのは世界が変わっても変わらないのかもしれない。

 ところでどこから酒樽を出したかは気にしなくていいのか。高いとはいえ保管の魔道具が存在する異世界らしい。

 実際、バルベラママは保管の魔道具から出してたし。


「店長さん、なんかこうさっぱりした物ねえかな?」

「むっ、そうだな! ナオヤ、そろそろ果物を頼む!」

「おお、いいねえクロエちゃん!」


「肉料理だけじゃさすがに飽きたか。クロエがエルフっぽいこと言い出した。でもウチに果物はないってわかってるだろ従業員」


「ふははははっ! お前、アレを出してくれ」


「はい、アナタ」


 バルベラママが保管の魔道具らしいカバンから布の袋をドサッと取り出す。


 中に入っていたのはオレンジだった。オレンジっぽい果物だった。

 最寄りの街の青空市場にはなかった果物だ。

 もちろん、ご近所の農家さんでは採れない種類の果物だ。


「そ、その果物はまさか! はるか南の国で採れる柑橘!」


「知っているのか行商人さん? はあ、もうなんでもいいや。自由すぎだろバルベラパパとママ」


 ため息を吐いて空を見上げる。

 陽はすっかり落ちて、空には星が輝いていた。


「……楽しい」


「あー、そうだなバルベラ、たまにはこんな日もいいか。従業員感謝デーだし。元の世界のアイヲンの従業員感謝デーとは内容が違いすぎるけど」


 盛り上がるお客さまとバルベラパパとママ、クロエに水をさす気はない。

 俺は言い訳にもならない言い訳をして、ニコニコと笑顔のバルベラの頭を撫でた。



 遅くまで続いた宴会が終わって、オレが店長になってから15日目のアイヲンモール異世界店の営業も終わった。

 来客数、138人。

 売上、296,000円。

 客数が伸びなかったのは「モンスターが予想外の動きをしている」ことが街に伝わっていて、冒険者や商人が外出を控えたんだろうか。

 異世界では「外的」要因じゃなくて「外敵」要因で客数と売上が落ちることがあるらしい。

 とりあえず、モンスターはお客さまにカウントしません。

 ……日本のモンスターと違って、この世界のモンスターはモンスターなことがわかりやすくて対処しやすいのは秘密だ。

 お客さまじゃないモンスターは()ってよし! なにこれすごく気がラクです!



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