第一話 むっ、なんだか失礼なことを言われた気がするぞナオヤ! はっ! まさかナオヤの聞きたいこととは私の『すりーさいず』とかいうヤツで!?
「おはようナオヤ! 今日もいい朝で労働日和だぞ!」
「おはようクロエ。朝からテンション高いな」
俺が店長になってから14日目のアイヲンモール異世界店。
昨日、クロエは街に帰ったらしい。
通いなのに、最近では屋上のバルベラの生活スペースに泊まっていることが多い。
行商人の娘さんが運び込まれてから今日まで、クロエはずっとアイヲンに泊まっていた。
回復魔法が使えるから念のためにって。
「おかしな発想の飛躍さえなければほんといいヤツなんだよなあ」
「ん? 何か言ったかナオヤ? はっ、まさか朝からえっちな妄想を! おおお男の人は朝は元気だって聞いたことがあるんだぞ! ふ、不潔なッ!」
「言ってるそばからそれかよエロフ。はいはいさあ開店準備するぞ」
ぱんぱんと手を叩いて促すと、クロエは「うむ!」と言い残してさっと入り口に向かっていった。
掃除してるバルベラとエプロン付きスケルトンもウサギの着ぐるみゴーストもいるし、あっちは任せていいだろう。
「おはようございます店長さん。昨日売れた品を補充しておきました」
「あっ、行商人さん。品出しありがとうございます」
昨日、13日目の営業から、日用品コーナーでこの世界の日用品の販売をはじめた。
売っているのは皮や布の袋、竹のような木を使った水筒、ロープ、野外で馬車が壊れた時の応急処置に使う車輪や木材、釘やコの字型の小さな金物、木の食器、小鍋や包丁といった調理器具なんかだ。
手持ちには中古の服もあるそうだけど、売るのは布だけで古着の販売は保留にしてる。
「しかし本当によいのですか? 場所代が一定ではなく、売上の割合とは。場所をお借りするこちらは助かるのですが」
「今月、そうですね、来月まではそれで行きましょう。現状、アイヲンモールとしての売上は微々たるものですし、一定金額にすると厳しいかなあって」
「なるほど、そういうことですか」
「どうでしょう、このスタイルなら他にもアイヲンモールに入ってくれるお店はありますかね?」
「ふむ……それでもいまの集客では難しいかもしれません。大店は街で商売できているわけですし、小規模なお店は売上を計算できるかどうか」
「え、ええ……? その、税金を払うわけですしそれぐらい計算できるのでは? 利益からの割合なら計算できないっていうのもまだわかりますけど」
「そのあたり、商人ギルドに丸投げな店主もいますから。屋台ですと、商人ギルドに場所代を払えばそこから税金が引かれます。我々行商人は自分で計算して、商人ギルドを通して支払いますが……」
「行商人さんがいますから、業種がかぶっちゃいますね。んんー、特定の商品を扱ってルート販売してる商人さんならウチにも卸してもらえるかな」
娘を治してくれたアンナさんに恩を感じて、行商人さんはウチのテナント第一号として販売スペースを持つことになった。
農村をまわって日用品を売ってたから、そのまま日用品の販売をはじめている。
娘さんが治ったらアイヲンモール内の販売スペースは奥さんと娘さんに任せて、自分は行商を再開するつもりらしい。
ちなみにでっぷりした行商人のおっさんも奥さんも、若い頃は冒険者だったそうだ。
行商人なのに一角ウサギもゴブリンも楽勝で護衛も必要ないらしくて異世界こわい。
「どうでしょうか、そうした商人は大口の販売先を持っているものですから」
「ですよねえ。はあ、まあとりあえずいろいろ当たってみるしかないか」
アイヲンモール異世界店でいま販売しているのは、周辺の農地で採れた産直野菜、カツとハンバーグとビーフシチューといったお惣菜とその材料、アンナさんが作った薬を扱うドラッグストアコーナー、この世界の雑貨を並べた日用品コーナーだけだ。
とても「モール」とは呼べない。
「あー、その前に、月間売上一億円の目標って、テナントの数字はどうなるか確認しなきゃな」
「ナオヤ、清掃が終わったぞ! スケルトンたちがカギも開けてくれるそうだ!」
「ちょうどいいところに。クロエに聞いて……いやクロエがわかるか?」
「ん? どうしたナオヤ? 聞きたいことがあるなら聞いてみるといい! 前店長で! 聖騎士のこの私に!」
クロエは従業員として働いてるけど、国から派遣された騎士でもある。
月間売上一億円の目標は国からのオーダーなわけで、従業員で知ってるとしたらクロエなんだけど。
「クロエだからなあ……」
「むっ、なんだか失礼なことを言われた気がするぞナオヤ! はっ! まさかナオヤの聞きたいこととは私の『すりーさいず』とかいうヤツで!?」
「違うから落ち着けポンコツ騎士。俺が聞きたいのは、月間売上一億円の目標って、アイヲンモールのテナントに入った店舗の数字はどうカウントするかだ」
「…………うん?」
「首を傾げるな首を。前店長だろ。国から派遣された騎士だろ」
やっぱりわからないらしい。
美人なだけに、首を傾げる姿がかわいいのもなんか腹立つ。
あと後ろでウサギの着ぐるみゴーストも首を傾げてた。かわいい。
「『アイヲンモールとしての価値を示せ』って意味なら、テナントの売上と合算していいと思うんだよなあ。『アイヲンが納税に貢献できるか』ってことなら、アイヲンの売上+テナント料なんだろうけど」
「……何を言ってるんだナオヤ? 私の知らない魔法の話か?」
「クロエが何を言ってるんだ。これどこに確認すればいいんだろ。答えを知ってるのは目標を与えた国と株式会社アイヲンだけな気がする。ちゃんと説明しとけ伊織ィ!」
ここにはいない人事部の伊織にグチる。
答え次第では、テナントを探すより直売に力を入れた方がいいだろう。
大事なことなのに早めに確認しておかなかった自分に腹が立つ。
「この国の担当者に聞くしかないか。って言っても窓口はクロエなんだよなあ」
きょとんとした顔で俺を見つめるクロエ。
俺はがっくりと肩を落とす。
「あー、クロエ。とりあえず俺が確認したい内容を整理して、資料を作るから。今度、国の人に渡して聞いてみてほしいんだ」
「ああ、わかったぞナオヤ! 渡せばいいんだな、任せてくれ!」
やることがわかって安心したのか、クロエが満面の笑みを浮かべる。
やる気はあるらしい。能力が高いのも間違いないんだけど。
「はあ、昼前のピークが終わったら資料作るか。棒グラフと説明で理解してもらえ……パソコンでこの世界の文字を入力できないわ」
「ナオヤさん、ドラッグストアコーナーの品出し終わりました。ナオヤさん?」
「アンナさん、あとで手伝ってほしいことがあるんです。午後に声かけていいですか?」
「ええ、かまいませんよ」
「むっ! どうしてだナオヤ! 私に頼めばいいんじゃないのか!?」
「あー、はいはい、落ち着いたらクロエにも声かけるから。ほら開店準備するぞ」
「……終わった」
「ありがとうバルベラ。ほんとバルベラは癒しだなあ」
詰め寄るクロエを流して報告に来たバルベラの頭を撫でる。
バルベラはくすぐったそうに目を細めた。
ついでに頭を向けてぐいぐいアピールしてきた着ぐるみゴーストの頭も撫でる。もふもふだ。着ぐるみだから。
「よし。14日目のアイヲンモール異世界店、今日も営業がんばりますか!」
「あっ、おばちゃんたちが来たぞ! ナオヤ、私は手伝いに行ってくるからな!」
「あら、もうそんな時間なんですね。では私は配下のみんなに指示を出してきます」
「……がんばる」
資料作成はともかく、国の担当者に伝わるか、クロエがちゃんと答えを持って帰ってこられるかじゃっかん不安だけど。
とりあえず。
もうすぐ、俺が店長になってから14日目のアイヲンモール異世界店の営業がはじまります。





