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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第六章 この世界の医療ってどうなってんの? ドラッグストアはじめちゃう?』
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第四話 …………ふふっ。はあ、こうして誰かと街を歩くのはひさしぶりです。なんだかデートみたいですね、ナオヤさん


「わあっ! おねーちゃんの手、冷たくて気持ちいいねっ!」


「ふふ、ありがとう。少し熱があるようですね。『治癒』。はい、これで大丈夫でしょう」


「いつもありがとうございます」


 堂々と入っていったアンナさんに続いて、俺も教会に足を踏み入れた。

 教会は祈りの場である礼拝堂のほかに、病棟や孤児院も併設されていた。いわゆる救貧院もあるらしい。

 リッチでアンデッドなアンナさんは馴染みだという女性職員の案内で、当然のように病棟と孤児院を歩きまわっている。


「気にしないでください。それとこちら、今回もいくつか薬を持ってきました」


「本当に……なんとお礼を申し上げたらいいのか……」


 アンナさんからいくつかの小袋を受け取った女性職員は、涙ぐみながら手を動かす。

 たぶん元の世界で言うところの十字を切る、宗教的な動作なんだと思う。

 アンナさんが同じ動作を返す様子はない。


「では行きましょうか、ナオヤさん。道すがらいろいろ説明しますね」


「あっはいそうですねお願いします」


「おねーちゃん、ありがとー! おじちゃんも!」


「待て待てちびっ子。俺はまだ24歳だ。つまり『おじちゃん』じゃなくて『お兄さん』だ。いいな?」


「ばいばーい、何もしなかった()()()()()!」


「おいいまのわざとだろ! よし、次会った時は覚えてろよ!」


 きゃっきゃと騒ぐ子供たちに見送られて、俺とアンナさんは教会を出た。

 なんだか、アンデッドのアンナさんより、俺の方が教会の子供たちから冷たい対応を受けた。解せん。


「今度教会に行く時は、何かオモチャでも持ってくか。在庫あったかなあ」


「ふふ。ナオヤさんは優しいんですね」


「え? 違いますよ? ほら、子供の好感情は親や親戚やその周囲、子供の友達やその親、どんどん広がっていきますから。プレゼントをきっかけにアイヲンモールのファンを増やそうかと」


「は、はあ」


 教会を出て大通りを歩く。

 アンナさんの顔が引きつってる気がするけどたぶん気のせいだ。

 アンデッドが教会に行ったわけで、きっと疲れたんだろう。


「と、とにかくですね、先ほどナオヤさんに見てもらったように、平民がケガしたり病気になった場合、通常は教会で治してもらうのです」


「入院施設もありましたもんね。やっぱり魔法と薬で治療するんですか?」


「ええ、そうですナオヤさん。ですから回復魔法の使い手が多い教会が医療施設となっているのです。もちろん、回復魔法が使える冒険者や騎士もいますから、全員が教会所属ということはありません」


「回復魔法が使える騎士……聖騎士? クロエ?」


「はい、クロエさんも回復魔法を使えますね」


「マジか……ポンコツ騎士って言われてたわりにハイスペックな……」


「それから、貴族は医者や薬師を抱えていることがほとんどですね。高位の司祭が往診することもあります」


「なるほど……。外傷は魔法で治せるし、内科系も魔力でなんとかなる。うーん、医学薬学が根本から違うし、医療モールやドラッグストアは難しいかなあ」


「あとは、軽い風邪や病気の場合には、教会まで行かずに街の薬屋で購入した薬を使うことが多いですね」


「はあ、ドラッグストアの需要はあると」


 異世界の、まあそこまで広げなくてもこの街の医療事情を聞きながら大通りを歩く。

 考え込む俺を待たせて、アンナさんは一軒のお店に入っていった。

 さっき教えてくれた「街の薬屋」に、作った薬を卸しているらしい。


「そもそもなんで魔法で治せるのか。魔力ってなんなのか。俺は『この世界の人間じゃありえない魔力ゼロ』らしいし……この世界の人間と元の世界の人間って、実は別モノなのかも」


「お待たせしました、ナオヤさん」


「あ、いえ、世界の真理を考えてたらすぐでした。ところでアンナさんって薬の調合もできたんですね」


「ふふ、とうぜんですよナオヤさん。毒と薬は表裏一体ですから……生と死も」


「はいまた聞かなきゃよかった言葉きました! アンデッドジョーク笑えないです! アンデッドジョーク、ですよね?」


「…………ふふっ。はあ、こうして誰かと街を歩くのはひさしぶりです。なんだかデートみたいですね、ナオヤさん」


「会話のそらし方が露骨すぎる! そそそそんなこと言われても動揺しませんから! 職場恋愛はだいたい職場の人間関係を悪化させますからね!」


 アンデッドジョークもデート発言もスルーして大通りを歩く。

 その後もアンナさんは何軒かの薬屋をまわり、薬を卸していった。

 薬の素になる薬草や素材は、スケルトン部隊が見まわりついでに採取しているらしい。

 睡眠不要で疲れ知らずのスケルトン部隊が有能すぎる。最高の労働力かもしれない。夜にバッタリ遭遇するとチビりそうになるけど。



「ふう、これで終わりです、ナオヤさん」


「うーん。そこそこ大きな街だと思うんですけど、薬屋の数は少ないんですねえ」


「そうかもしれません。やはり薬が間に合わないこともありますから……」


 アンナさんがわずかにうつむく。

 そこにアンデッドらしい感情はない。いやこの世界の普通のアンデッドを知らないけど。生者を憎むみたいなイメージがあったもので。


「そっかあ、アイヲンモール異世界店には回復魔法の使い手が二人もいて、調合もできるのかあ! この世界のスタイルなら医療モールもドラッグストアもやれるかなあ!」


 ごまかすように、俺は大きな声を出した。

 わざとらしい話題転換にアンナさんが乗ってくる気配はない。


「この街には回復魔法の使い手も医者もいますし、薬師もいます。平民であっても薬は買えない値段ではありませんし、教会なら寄進のみで『治癒』の魔法を受けられます。でも……」


 アンナさんはうつむいたままだ。

 立ち止まったアンナさんにあわせて俺も足を止める。


「でもナオヤさん。治せない病気もあるんです」


 アンナさんから出てきたのは、すごく当たり前の言葉だった。


「あっはい。その、俺がいた世界は医学も薬学も進んでましたけど、治せない病気はありました。研究者はいまもがんばってると思いますけど」


「……そう、ですね」


 アンナさんの顔が暗く見えるのは、俺が『幻惑』の魔法にかかってないからだろうか。


「さあアンナさん、終わったなら帰りましょうか! そろそろ帰らないと、午後遅くのピークに間に合いませんし!」


「そうですね」


 無理やり切り替えようとしたけどアンナさんのテンションは低い。

 とにかく、この街の医療事情を知るって目的はだいたい果たせたわけだし、俺たちはアイヲンモール異世界店に帰ろうとして——


「おやあ? これはこれは、アイヲンモールの新店長さんではありませんか。昨日はご盛況だったようですねえ?」


 動きを止めた。

 俺も、アンナさんも。


「ほうほう、街で評判の薬師さんもご一緒で。これはちょうどいい、少し聞きたいことがありましてねえ」


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