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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第六章 この世界の医療ってどうなってんの? ドラッグストアはじめちゃう?』
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第一話 ……あれ? 聖騎士もアンデッドもドラゴンも病気になるイメージがないんだけど? つまり俺だけ?

前半にこれまでのまとめ要素を入れています。


 早朝に起きて、部屋として使ってるテナントスペースを出る。

 広くて清潔な洗面台で顔を洗って歯を磨いてヒゲを剃る。

 朝から、というか夜通し掃除してくれてるエプロン付きスケルトンとすれ違って挨拶する。


 一度部屋に戻って着替えたら、テナントスペースから一階に下りる。

 エスカレーターがある広場をウロウロしていたウサギの着ぐるみに挨拶する。

 スーパーの通路を通って正面入り口から外に出る。

 夜の巡回から帰ってきたスケルトン隊長とスケルトン部隊に挨拶する。


 店長として、アイヲンモール異世界店に一通り異常がないことを確認したら、今日も開店準備のはじまりだ。


「……いや異常だらけだろ! スケルトン! ウサギの着ぐるみに憑依したゴースト! そもそもアイヲンモールのテナントスペースに住むって!」


「おはようナオヤ! 朝から声出しの練習とは、さすが店長だな! むっ、まさかその調子で私にも声を出させようと!? わ、わた私のカラダのどこを触ればどんな声を出すのかと! くっ、殺せ!」


「朝から絶好調すぎるだろエロフ! はあ、おはようクロエ」


「おはようございます、ナオヤさん。みんなに確認しましたが、周辺に異常はないようです」


「あ、はい、ありがとうございますアンナさん。隊長もスケルトン部隊も、いつもご苦労様」


 出勤してきたクロエとアンナさんに挨拶する。

 スケルトン部隊を労うと、ガチャッと鎧を鳴らして敬礼を返してくれた。


「……肉、いる?」


「おはようバルベラ。尻尾はまだ生えてないんだろ? 限定商品だし今日はいらないから。だから左手を見つめるのはやめような? ほらヨダレ拭いて!」


 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから、今日で11日目。

 昨日のドラゴン肉料理は好評で、200万弱の売上を叩き出した。

 この10日間の累計は、来客数782人、売上2,735,000円だ。


 客数も売上もいままでの記録を更新してきたけど……。

 目標の月間売上一億円までにはまだ遠い。


 五ヶ月後に一億円、達成しなければアイヲンモール異世界店は潰れるかもしれなくて、それどころか差し押さえや略奪にあって〈転移ゲート〉が機能しなくなるかもしれない。

 つまり、俺は元の世界に還れなくなるかもしれないってことで。

 月間売上一億円は必達目標だ。「必ず達成しなきゃいけない」目標だ。


「というかそのへん説明してから送り込めよな伊織ィ! どうなってんだ株式会社アイヲン!」


「ナ、ナオヤ? どうした急に!?」


「そっとしておきましょう、クロエさん。さあ、クロエさんもバルベラちゃんも、開店準備をはじめましょう? 農家の方も見えたようですし」


 そりゃ確かに俺は「異世界に行って、アイヲンモールの魅力を伝えるべく商いする。ええ、おもしろそうです!」って採用面接で言ったけど! 冗談だと思うじゃん! 面接でよくある謎質問だって思うじゃん!

 まあ、転勤希望の書類にも異世界にマルをつけたわけだけど。

 手の込んだ冗談だなあ、と思って。


「それでホントに異世界、だもんなあ。しかもアイヲンモール異世界店の店長で。店長やるのも初めてなのに、従業員はエルフとリッチとドラゴンで。あとスケルトンとゴースト」


 頭を抱える。

 ウサギの着ぐるみが、心配そうに俺のまわりをウロウロする。

 クロエとアンナさんとバルベラは開店準備に向かってくれた。


「ああ、そういえばシフトも考えないとなあ。目玉商品につられてアイヲンモール異世界店の来客数が増えれば、セール以外の日も忙しくなるだろうし。採用が必要か?」


 ぼそっと呟く。

 ウサギの着ぐるみが手をあげて、ノリノリでアピールしてくる。


「いや着ぐるみは働けないからね? 昨日の交通整理は助かったけど着ぐるみじゃほかの日は働けないからね? やめてゴーストも無理だから!」


 着ぐるみから抜け出そうとした黒いモヤを止めようとして、手がスカッとすり抜ける。


 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから11日目。

 今日も、アイヲンモール異世界店は異世界感がヤバいです。当然か。




 アイヲンモール異世界店の開店時間が過ぎると、ポツポツとお客さまがやってきた。


「昨日こちらでドラゴンステーキを売っていたと聞いたのですが!」


「申し訳ありません、あちらは限定販売の商品となっておりまして」


「『とおか! はつーかさんじゅーにっちどらごーんせーるっ!』だぞ!」


「ってことは次は20日か、残念だな行商人さん。くっそ、アイツらは食ったってのに!」


「……ガマン。わたしもガマン」


「おっ、このハンバーグってヤツもビーフシチューもうめえ。持ち帰り用に三つずつ頼むわ」


 来店客は前の道を利用する人もいたけど、ドラゴン肉料理のウワサを聞きつけてやってきた商人や冒険者も多いみたいだ。

 目当てのドラゴン肉料理はなかったものの、カツとハンバーグとビーフシチュー、派生商品のカツサンドとハンバーガーを買ってくれてる。

 中食を狙ったお惣菜は、こうして地道に売上を伸ばしていけばいいだろう。


「今後はスーパーの商品を増やすか、それともテナントを入れるか……うん?」


「行商人さん、その子は熱があるようですね」


「ええ、そうなんです。軽い風邪でしょうし、治らなければ向こうの街で診せようかと。あちらにはかかりつけの薬師がいますから」


 イートインスペースで食事をしていた行商人一家に、アンナさんが話しかけていた。

 ビーフシチューを食べてる子は顔が赤く、熱があるらしい。


「あー、クロエを呼んだ方がいいかな。聖騎士ってことは回復魔法も使え——」


「二、三日といえど旅路は辛いでしょう。よろしければ私に『治癒』の魔法をかけさせていただけませんか?」


「おお、それはありがたい! もちろんお代はお支払いいたします!」


「ってアンナさんも回復魔法を使えるんでしたね! アンデッドなのに! さすがリッチ!」


 ちょっと離れた場所で、小声で悶える俺をよそにアンナさんの手がほのかに光る。

 熱っぽい子供に手を当てると、子供はラクになったかのように、ほうっと息をつく。


「あとは栄養を摂ってよく休ませてください。もし治らないようでしたら、きちんと薬師か医者にかかってくださいね」


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 子供の父親らしいでっぷりした行商人は、アンナさんの手に小袋を押し付けている。

 アンナさんが困ったように俺を見てきたので、俺は頷いて受け取るよう促した。

 この世界の相場はわからないけど、きっと治療はタダじゃないだろうし。受け取らないと、むしろほかの薬師や医者に迷惑がかかるだろう。


「回復魔法、それに薬。ちょっと調べてみるかなあ。俺や従業員の健康問題にもかかわってくる……あれ? 聖騎士もアンデッドもドラゴンも病気になるイメージがないんだけど? つまり俺だけ?」


 首を傾げる。

 ウサギの着ぐるみが覗き込んでくる。


「ああ、心配はいらないぞ、ただ考えてるだけだから。って馴染むのはやいな! まだ着ぐるみ生活二日目なのに!」


 褒められたと思ったのか、照れたアクションをする着ぐるみは放っておいて。

 とりあえず午前のピークが終わったら、クロエとアンナさんにこの世界の医療事情を聞いてみることにしよう。


「アイヲンモールにはドラッグストアと医療モールが入ってるところも多いしな。うん、アイヲンっぽい。ひょっとしたら料理目当てのお客さましかいない今よりも」



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