第十八話 なにそのスムーズすぎる連携! 待て待て待て! あるから! 本当はダメだけど三人分取っておいたから!
「アンナちゃん! こっちは10個頼む!」
「くっ! ポーチ持ちだからって汚えぞ行商人! ええいアンナさん、こっちは20個だ!」
「落ち着いてくださいみなさん。こちらは特別な商品ですから、お一人様三個までですよ」
「うまああああああい! なんだコレ! なんだコレ!」
「うまい、うますぎる! さすが伝説の肉!」
「くふふ……ふははっ! はーっはっは! 見ろナオヤ! お客さまがたくさんだ! お買い上げありがとうございます!」
「この料理がこの値段で……買い占め……数量限定か。仕入れ先を聞き出すには」
「……秘密」
俺が店長になってから10日目のアイヲンモール異世界店。
店舗前に設けたお惣菜販売の特設ブースとイートインスペースは、これまでにないほどの人であふれていた。
ところでそこの怪しいことを企んでる商人。仕入れ先は目の前に……仕入れ先? 生産者?
「よし、これなら目玉商品になるな。ドラゴンステーキと、ドラゴンテイルスープは」
バルベラが俺に託してくれた、ドラゴンの尻尾の肉。
開店前に受け取った肉の味を確かめたところ、すぐに調理法は決まった。
肉片を焼いて味見したら、もうそれだけでおいしかった。
塩コショウを振って焼けば、やわらかな肉質と旨みたっぷりの肉汁あふれる極上ステーキの完成だ。
とはいえ、尻尾のすべてをステーキにできるわけじゃない。
骨のまわりと皮の近く、それに尻尾の先端付近はステーキにはできない。
そこで俺は「尻尾といえばこれだろ」とテイルスープを作ってみた。
香味野菜と一緒にさっと煮込んでだけなのにおいしい。
下ゆでして臭みを取り、血を押し出し、煮込んで寝かせる必要もない。
味見したら叫んでしまって、営業中なのにヨダレを垂らしたクロエとバルベラ、アンナさんに振る舞わなきゃいけなくなるほどおいしかった。ドラゴンすごい。
「おおっ、休日のアイヲンモール名物、駐車場出入り口の大渋滞。ってのんびり眺めてる場合じゃな……は?」
朝のピークの途中から販売を開始したところ、ウワサは街まで届いたらしい。
いつもは道を使う人しか立ち寄らないのに、続々と街から馬車がやってくる。
アイヲンモール異世界店の車まわしには、渋滞が発生していた。
クロエもアンナさんもバルベラも接客しているし、俺が交通整理に行こうとして。
誰か向かっているのに気がついた。
誰か、というか——
「は? 倉庫にあったウサギの着ぐるみ?」
ぴょこぴょこ歩くウサギの着ぐるみは、手に赤い誘導棒を持っている。
渋滞している場所に着くと、ブンッ! と大きな動きで誘導棒を振りまわした。ノリノリで。
大げさなアクションはわかりやすくて、馬車の御者は大人しく従っている。
「おお、助かる……あれ、でも俺はここにいて、クロエもアンナさんもバルベラも接客中で。あれ?」
振り返る。
薄暗いアイヲンモール異世界店の出入り口の影で、エプロン付きスケルトンたちが外を眺めていた。
心配そうにハラハラと。
今日は店員総出で特設ブースに詰めているから、アイヲンモール異世界店の建物内はトイレへの導線しか開けてない。
農家のおばちゃんが持ってくる野菜も今日は外に陳列してる。
だからまあ、スケルトンたちがあそこにいても見つからないだろう。それはいいとして。
「あれ? エプロン付きスケルトンの数も揃ってる? じゃああの着ぐるみの中の人は誰だ?」
中の人などいない。わけがない。
全身を使って交通整理するウサギの着ぐるみを見る。
俺と目が合うと、飛び上がって手を振ってくる。
やけに嬉しそうなアクションで、俺は気がついた。
「あの感じ。……ゴーストだ。黒いモヤの」
いつも店舗の上空をふよふよと漂い、好奇心旺盛でリアクションが大きかったゴーストは、着ぐるみに憑依したらしい。
動きだけで気がつくあたり、俺はそうとう異世界に毒されてるのかもしれない。
いやでも、あのぴゅっとした動きとか、怖がりだけど実は好奇心旺盛な感じとか、私も役に立つんだー! 的な感じは、なあ。
「……あ。つまりマジで『中の人などいない!』のか? いやいやいや」
アイヲンモール異世界店はじまって以来の大混雑。
本当の意味の従業員総出で、俺たちは多くのお客さまに対応するのだった。
猫の手どころかドラゴンの手とアンデッドの手を借りて。
「すごかったなナオヤ! 数量限定にしたのに夕方前にはすべて売り切れてしまったぞ! カツもハンバーグもビーフシチューも、おばちゃんたちの野菜まで!」
「ああ、うれしいことに『ついで買い』もおきてたな。街から離れてる分、手ぶらで帰るのはもったいないと思ったんだろう」
これまでにない来客ラッシュを乗り越えて、アイヲンモール異世界店の今日の営業は終わった。
クロエが言う通り、商品はすでにない。
目玉商品だったドラゴンステーキとドラゴンテイルスープは早々に売り切れ、次に各種お惣菜が売り切れ、家庭でお惣菜を再現するための食材も農家直送の野菜も、残り少なくなっていた園芸用品も売り切れた。
「だから言っただろうナオヤ! ステーキとスープの値段は上げるべきだと! 幻のドラゴン肉の料理がこの値段だなんて、数量限定でなければ私が買い占めていたぞ!」
「商品が店頭に並ばなくなるので止めてくれクロエ。肉じゃなくて森の恵みを求めろエルフ」
これまで販売していた商品と比べて、ドラゴンステーキとドラゴンテイルスープは高額の設定にした。
日本円に換算するとステーキが一食10,000円、スープが5,000円という、超高級レストラン並みの値段だ。
「目玉商品はこれでいいんだ。というかこれでいいことにしてくれ。その、バルベラのおかげで月間売上一億円の目標を達成するのも、なあ」
チラッとバルベラに目を向ける。
何が気になるのか、バルベラは自分の左手を眺めていた。
「ナオヤさん、予定通りドラゴン肉料理の販売は10日ごとでいいんですか? 『治癒』の魔法を使えば」
「充分ですアンナさん! 治して斬って治してってそんな拷問みたいな発想は止めてください! 優しそうに見えてやっぱりアンデッド怖い!」
「そうですか、では……『とおか! はつーかさんじゅーにっちどらごーんせーるっ!』でいいんですね?」
「いやリズムは別にそれにしなくていいんですけどまあいいです。そうですね、尻尾が自然に生えてくるタイミングで問題ありませ……いやなんかおかしい気がする。正気か俺?」
振り払うように小さく首を振る。
また左手を見つめてるバルベラが目に入った。
「うん? さっきからどうしたバルベラ?」
「……売り切れ」
ボソリと呟くバルベラ。
左手を見つめて、口からぽたりとヨダレが垂れる。
「ああなるほど、試食でおいしかったのに売り切れたからもう食べられなくて、だったらちょっと肉を用意しようかって考えてると。尻尾はまだ生えてないから、左手を」
コクリとバルベラが頷く。
クロエが精霊剣エペデュポワの柄に手をかける。
アンナさんがスケルトン部隊に視線を送ってバルベラの変身前の脱衣を助けに来させる。
「なにそのスムーズすぎる連携! 待て待て待て! あるから! 本当はダメだけど三人分取っておいたから!」
「おおおおお! 本当かナオヤ! 従業員として耐えなければと思っていたのに! はっ! まさか『これが食べたければ』などと私を脅してかわりに私の体を食べようと! くっ、仕方あるまい!」
「おい認めてどうするポンコツ騎士。脅さないけども。これは今日がんばってくれたご褒美で」
「ありがとうございますナオヤさん! では『治癒』は必要ありませんね!」
「あっはい。え、アンナさんまで本気だったんですか。そりゃドラゴンステーキもドラゴンテイルスープも美味しかったですけど」
「……はやく」
「あー、はいはい、いま準備するから。ってうれしそうだなバルベラ。自分を食べる……ま、まあ、本人がいいならいいのか。いいのか?」
バルベラに手を引かれて、レジ前から調理場へ向かう。
三人ともうれしそうで、食べていいか悩んでいるのは俺だけらしい。
まあそういう俺も試食したし調理したし販売したんだけど。慣れって怖い! 異世界ヤバい!
俺が店長になってから10日目のアイヲンモール異世界店。
来客数、312人。
売上、1,943,000円。
目玉商品のドラゴンステーキとドラゴンテイルスープの宣伝効果はすさまじく、来客数も一日の売上も、これまでの倍以上の新記録を叩き出した。
「でも正直この感じだと、お惣菜と食材だけで月間売上一億円を超えるのは難しそうなんだよなあ。そりゃドラゴン肉に頼ればイケるだろうけど……ウロコもあるし」
いまの方向性のまま売上を伸ばしても、限界が見える。
アイヲンモール異世界店。
五ヶ月後までに月間一億円を売り上げるには、まだ遠い。





