第十六話 「はつーかさんじゅーにっちごぱーせんとおっふっ!」とはなんだ? 人を集める呪いか?
「うーん、やっぱりこんなもんか」
「ナオヤ、どうだ今日の売上は!? お祭りのように人がたくさんいたし、ま、まさか昨日の記録をここ超えてしまったか!?」
「落ち着けクロエ。近い。顔が近いから」
「超えてるに決まってますよ、クロエさん。なにしろ私たちはあんなに恥ずかしい思いをしてまでがんばったんですから、ねえ?」
「あの、アンナさん? ひょっとして水着姿になってもらったの、根に持ってます?」
「……お腹すいた」
「あー、はいはい。片付けしたらすぐご飯にするから。ってなんで俺が用意するのが当然になってんの? 用意するけども」
俺が店長になってから九日目のアイヲンモール異世界店の営業が終わった。
昨日から売り出したお惣菜は今日も好調で、派生商品のカツサンドもハンバーガーも売れ行きはよかった。
水着姿のクロエとアンナさんとバルベラの看板で、いつもより人が来たのも確かだ。
レジでプリントした紙を見る。
「今日の来客数は107人。新記録を更新だな。午後からでも看板を出したのは効果があったみたいだ」
「おおおおお! ひゃ、ひゃくっ!? ひゃくにん以上だとっ!? すごい、すごいぞナオヤ! 三桁! アイヲンモール異世界店に三桁もお客さまが来るなんてすごすぎる! さすがナオヤ、新店長!」
「前店長の志が低すぎる。月間売上一億円の目標を達成するには、一日あたりの来客数が四桁前後じゃないと厳しいんだけど」
「ナオヤさん、売上はどうでしたか? 感触としては昨日よりも良かったと思います」
「アンナさんの読み通りですね。売上は291,000円。わずかですが、客単価も昨日より上がってます」
「ナ、ナオヤ! 何を冷静に! 売上も新記録ではないか! 二日連続の新記録更新だぞ!? あ、明日はどうなるというのだ!?」
「あれエルフってこんなにハイテンションな種族だっけ。……まあ、今日と違って明日は朝から看板が出てるわけだし、お客さまも増えるだろう。増えるはずだ。増えてくれ」
「はっ! 看板とはいえ、明日は朝から私のあんな姿を見られてしまうわけか! 道行く男たちが獣欲をたぎらせて殺到し! ナオヤとともに大勢で私を! くっ、殺せ!」
「襲わないから。だいたい、今日も道行く人は見てただろ。それで何もなかったろ」
「ええナオヤさん、何もありませんでしたね。そう、何も」
閉店後のアイヲンモール異世界店のレジの前で騒ぐのは、なんだか日課になった気がする。
でもとりあえず、薄暗い通路からスケルトン部隊とゴーストが顔を出すのは止めてほしい。
それとアンナさんは「何もなかった」を強調しないでほしい。せっかくスルーしたんだから。
「カツもハンバーグもビーフシチューも、派生のカツサンドとハンバーガーも売れ行きはいいけど……単価が低いから、売上の伸びはイマイチなんだよなあ。あとはそもそもの来客数か」
ブツブツ言いながら考え込むのも日課になった気がする。
クロエは目を輝かせて、アンナさんは微笑みながら俺の言葉を待ってる。
バルベラはお腹をさすってる。ああうん、もうちょっと待ってねすぐご飯にするから。
「集客のためには目玉がほしいよなあ」
「目玉? ナオヤ、どんなモンスターの目玉がいいんだ? なんでもいいのか?」
「グロいなおい! そういう目玉じゃなくて! リアルなヤツじゃなくて!」
「目玉、ですか……その、片方だけなら。ちょっと痛いですけど、そのうち治りますし」
「はいもっとグロいのきました! 止めてくださいアンナさん、取り出そうとしなくていいですから! アンデッド怖い!」
俺の独り言に「やることができた!」とばかりに飛びつく二人。
内容がグロい。
キョトンとしてるバルベラに癒される。
「目玉って、眼球じゃなくて目玉商品、特別な商品のことだから」
「そういうことか! ナオヤ、この肉料理じゃダメなのか? いままでにない料理で、みんな『おいしい』って言ってくれたぞ?」
「それだとクチコミで広がるのを期待するしかないからなあ。問題はわかりづらいことだ。知らない料理を宣伝しても『食べに行きたい!』とはなりにくいだろ?」
「なるほど、そうかもしれません。目玉に必要なのはわかりやすさ、ですか……」
「そうですアンナさん。売上を伸ばす、レストランでいうスペシャリテ。某タイヤメーカーが出してるグルメ本で、『訪れる価値がある』と紹介されるような」
「うん? ナオヤ、グルメと車輪屋はなんの関係があるんだ? ま、まさかナオヤの世界の車輪は食べられるのか? なんという世界だ!」
「お菓子の家かよ。その発想がすごい、というかタイヤメーカーが車輪屋って意味になって通じたのか。翻訳指輪の意訳っぷりがマジなっちゃん」
「ナオヤさん? ではどういう意味なんでしょうか?」
「あー、たしか旅をするとタイヤがすり減って買い替えることになるから、でしたかね。でも大事なのはそこじゃなくて」
うろ覚えな知識を突っ込まれる前に話を進める。
異世界にそんなグルメ本はないだろうし、そもそもここはアイヲンモール異世界店なわけで、何も料理にこだわる必要はない。
「目玉、かあ。でもまだまだ商品数は少ないわけで。やっぱりわかりやすくセールかなあ。特売品でも企画するか」
「おおっ! それは私も知ってるぞナオヤ! 客寄せのための安売りや客寄せ商品のことだな! 市場の露店がたまにやってるんだ! 掘り出し物もあるんだぞ!」
「そういうのはあるんだな。んじゃセールは受け入れられやすいだろう。ここはアイヲンモールなわけで……やっぱり火曜市か」
「歌謡? 歌うのか? では父様から『ヴェルトゥの里一番の歌い手』と呼ばれたこの私が! 美声を響かせよう!」
「その歌謡じゃないし『父様から』って言ってるあたりそれただの親バカだろ。そうじゃなくてだな」
「かよう……通う、でしょうか。街から通う市。アイヲンモール異世界店をみんなが通う市にすると」
「違いますけど結果合ってるみたいになっちゃってますアンナさん。通う市にしましょうね」
ここは異世界なわけで、火曜市、というか「火曜日」が通じないのは当然かもしれない。
そのへんは翻訳指輪も仕事しないらしい。基準がわからん。
「曜日が通じないとわかりづらいか。一ヶ月は30日だって伊織さんが言ってたし、ならお客さま感謝デーを導入するか?」
「ナオヤ、お客さま感謝デーとはなんだ? 何をするんだ?」
「日本のアイヲンモールと同じだと、はつーかさんじゅーにっちごぱーせんとおっふっ! だな」
「『はつーかさんじゅーにっちごぱーせんとおっふっ!』とはなんだ? 人を集める呪いか?」
「……おっふっ?」
「20日と30日は総額から5%割引する、ということでいいんでしょうか?」
「さすがアンナさん。クロエも一発でリズムを覚えたところはすごいぞ。人を集める呪いみたいなもんだしな」
あとひょこっと首を傾げるバルベラかわいい。
でも、5%オフはちょっとわかりづらいし額としては大きくないし、集客の目玉にはならない気がする。
俺はバルベラの頭を撫でながら、どうしたものかと考えていた。
俺が店長になってから九日目のアイヲンモール異世界店。
来客数、107人。
売上、291,000円。
看板と新商品の効果もあって客数売上ともに新記録を更新したけど、月間一億円の目標までにはまだ遠い。
※なお、この物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません。そんなセールはありません!





