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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第五章 売り出せ中食! 見せろアイヲンの実力!』
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第十四話 遠くの人を呼び込むより、道を素通りする人を狙う方が簡単だろうと思ったんです。この時間の通行人は男ばかりですしね


「はーい! じゃあ撮りまーす! 三人とも、この()()()を見るように!」


「ナオヤ? 何するつもりだ? この()()()()は、食べていいのか?」


「クロエさん、待ってください。私に渡されたハンバーグは、陶器が温かくありません」


「……ビーフシチュー、飲んでいい?」


「待って! 終わったら食べていいけどちょっと待って!」


 俺が渡した陶器の容器の中、お惣菜を覗き込む三人を止める。

 せっかくここまで準備したのに、いま食べられたら台無しだ。


「まあちょうどいい、集合写真が終わったら食べるシーンも撮っておくか」


 水着姿から、お惣菜に興味が移った隙に撮影する。

 撮影しまくる。

 集合の撮影が終わったら、次は個別撮影だ。


「よし。んじゃクロエ、次はコレを持って」


「ナオヤ、なんだコレは?」


「さっき言ったろ、『プロダクト、商品については俺に考えがある』って。コレはその一つ、というか派生系の新商品だな」


「ハンバーグをパンで挟んだだけだぞ? 私だってハンバーグをパンの上に乗せたり、ビーフシチューをパンにつけて食べたんだが……新商品?」


「よく見ろクロエ。パンで挟んだだけじゃなくて、おばちゃんたちが持ってくる葉物野菜が入ってるだろ? それにピクルスと、デミグラスソースを調整した特製ソースが、まあいいや、ちょっと食べてみろ」


「そうだな、新しい肉料理を前に私は何をためらっていたのか! ではさっそく!」


 俺が渡した新商品を両手で持って、クロエがかぶりつく。


 大きめの()()()()()()に。


 この世界のパンと野菜、おばちゃんたちの野菜から俺が試作した自家製ピクルス、特製ソース、それにお惣菜として販売をはじめたハンバーグ。

 だいぶ怪しい材料はあるけど、まあハンバーガーと言ってもいいだろう。

 この世界にハンブルグはないけど。翻訳指輪どうなってんだろ。


「な、なな、なんだコレは! なんだコレは! ただ挟んだだけなのに! おいしい、おいしいぞナオヤ!」


「期待通りのリアクションありがとうクロエ。おかげでいい感じの写真が撮れそうだ」


 顔立ちは美人で上品なのに、クロエは大口を開けてハンバーガーにかぶりつく。

 夢中になってる感じが出てるし、水着なこともカメラのことも忘れてる。

 近寄って撮影する。

 撮影しまくる。


「ナ、ナオヤさん? ちょっと近づきすぎじゃないですか? あっ、クロエさん! ソースが垂れて胸元に——」


「ほんとクロエはモデルとしては優秀だな! 写真じゃリアクションは写らないし」


「ん? どうしたアンナ? ああ、こぼしていたのを拭いてくれたのか。ありが……ナオヤ? なんでこんな近くに」


 ハンバーガーを食べ終わって、ようやくクロエは周囲が見えるようになったらしい。


「こここんな薄着の私に近づいてきて何をするつもりだッ! 下着と変わらないような水着を着せて! やはり私を襲うつもりなんだろう! くっ、殺せ!」


「いまさらかよ。そもそもクロエの方が強いんだから『殺せ』って諦める必要ないだろ。殺されるの俺の方だろ」


「なっ! ではやはりナオヤは私を襲う気でッ!」


「はいはい言葉のアヤね。えーっと、次の撮影はアンナさんで。アンナさんはコレをお願いします」


「ナオヤさん、コレは?」


「聞いているのかナオヤ! もしナオヤの方が強ければ私を襲うつもりだったんだろう! このケダモノめッ!」


「こっちはカツの派生系の新商品ですね。カツサンドって言うんです。そのまんまですけど」


「なるほど、カツレツをパンで挟んで……汚れさえ気にしなければ、コレもハンバーガーも片手で食べられる……すごいですナオヤさん!」


「ナ、ナオヤ? なあ、聞いているのか? アンナまで私を無視するなんてちょっとヒドくないか?」


「すごいのは俺じゃないんですけどね。じゃあ、食べてるところを撮りますから」


 早朝、開店前のアイヲンモール異世界店で撮影を続ける。

 着替えもあるし、三人を撮るのはこれで終わりにした方がいいだろう。

 あとは午前中のピークを乗り切ってから、各商品を撮影するつもりだ。


 撮影が終わったら、撮った写真を活用する準備にかかる。

 午後遅くのピークの前には、プロモーションにも手を打てるだろう。


「聞いてくれバルベラ、ナオヤとアンナがヒドいんだ」


「……大丈夫? ビーフシチュー飲む?」


 バルベラ、皿の中身が空になってるぞ。いつ食べた。

 あとビーフシチューは飲み物じゃないから。気に入ってくれてるのはうれしいけど。




「おっ、()()のねーちゃん。なんでえ、服着てんじゃねえか」


「んなわきゃねえと思ったんだよなー。まあいい、あのかぶりついてたヤツを一つくれ!」


「了解した! 持ち帰りか? それともここで食べていくか?」


「これなら御者をしながら食べられますねえ。手が汚れるのが難点ですか」


「お買い上げありがとうございます。ハンバーガー3個、カツサンド3個、お待たせしました」


「はっ、シロートめ。おうバルベラちゃん、新商品を一個ずつ、それからビーフシチューを頼む!」


「……おじさんわかってる」


 15時すぎ。

 アイヲンモール異世界店、店舗前の特設ブースは人で賑わっていた。

 俺の狙い通り、街に向かう通行人を呼び込めたみたいだ。


「ところで、まるで現実のように精緻なあの絵はどなたが描いたのですか? 食欲をそそられました」


「行商人のおっさんよ、そんなこと言って薄着のねーちゃんに惹かれたんだろ? 俺らみたいによ!」


「あの看板はナオヤの手作りだ! でも描いたんじゃないらしいぞ?」


 アイヲンモール異世界店は、街と街を結ぶ道に面している。

 これまで来店されてたお客さまはその道を使う人たちだった。


 もちろん、道を使うのにアイヲンモール異世界店に立ち寄らない人もいる。

 なにしろ街まであとわずかの立地だし。


 俺が打ったプロモーションの策は、道に向けた()()だ。

 それも、水着でお惣菜やハンバーガーを見せる三人の。


「いつもよりお客さまがたくさんいらっしゃってます。ナオヤさんの狙い通りですね」


「ええアンナさん、うまくいきました。遠くの人を呼び込むより、道を素通りする人を狙う方が簡単だろうと思ったんです。この時間の通行人は男ばかりですしね」


「なるほど、そういうことですか。でもその、あの水着は、すごく恥ずかしかったですけど……」


「おい、どういうことだこりゃ!」


 アンナさんと話していると、大きな声が聞こえてきた。


「お客さま、どうされましたか?」


「下着の女がいるのかと思ったらいねえじゃねえか! あの服の女たちを出せや!」


 俺が店長になってから九日目のアイヲンモール異世界店。

 打ち手がすんなり成功! とはいかないらしい。


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