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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第五章 売り出せ中食! 見せろアイヲンの実力!』
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第十一話 どれぐらい売れるだろうな! これだけおいしいんだ、10個? 20個? ま、まさか30個も売れてしまうのか!? どどどうしようナオヤ!


「よーし、準備OKだナオヤ! きっと飛ぶように売れるに違いない!」


「はしゃぎすぎだろクロエ。広告も出してない販売初日なんだ、そこまで売れないと思うぞ」


「ふふ、ナオヤさんは慎重なんですねえ」


「そもそもアイヲンモール異世界店に来店されるお客さまが少ないですからね。ここ七日間の平均で40.3人じゃ、全員に売れても『飛ぶように』とは」


「……食べれる?」


「あー、売れ残ったらな。お金はもらうけど」


「な、なんだとナオヤ!? では売れたら私は食べられないというのかっ! そ、それとも『食べたければ食べさせてもらおうか』などと! 肉料理を人質にとって! くっ、卑怯者め!」


「もう何から突っ込めばいいのかわからないぞエルフ。大量に作ってあるから心配しないで売れ。妄想ぶっ飛びすぎだろ。肉料理が人質になるってずいぶん安いな」


 俺が店長になってから八日目のアイヲンモール異世界店。

 8時開店よりも前、農家のおばちゃんたちが野菜を卸しにくる前に、従業員総出で店舗の入り口前に特設ブースを設置した。

 従業員総出といっても、人間は俺とクロエとアンナさんとバルベラの四人だけだ。……人間?


 ちなみに昨日、俺が店長になってから七日目のアイヲンモール異世界店の営業結果。

 来客数、43人。

 売上、28,000円。

 園芸用品が売れなくなって、客単価はどんどん落ちている。まあ園芸用品を売り出す前に戻ったとも言える。


「どれぐらい売れるだろうな! これだけおいしいんだ、10個? 20個? ま、まさか30個も売れてしまうのか!? どどどうしようナオヤ!」


「落ち着けクロエ。とりあえずクロエの『飛ぶように売れる』がぜんぜん飛んでないことはわかった」


「……飛ぶ?」


「やめてくれバルベラ。せっかくこの前ごまかしたのに、やっぱりアイヲンモール異世界店にドラゴンが出現するってウワサになったら客足が遠のいてしまう。しまうのか?」


「おそらく農家のみなさまや商人は近づかなくなるでしょう。無謀な冒険者なら、あるいはドラゴンを討伐に来るかもしれませんね。そして儚く——」


「なんでスケルトンがいる店舗の方を見たんですかアンナさん。……まさかスケルトン部隊って元の素体があるタイプで? え、アイツらひょっとしてガチの死体?」


「ふふ、ナオヤさん、冗談ですよ、冗談」


「ひさしぶりのアンデッドジョーク! いや笑えませんから!」


 店舗入り口の前に作った特設ブースで、今日からカツとハンバーグとビーフシチューを販売する。

 ロータリーと噴水の近くにテーブルとイスを並べて、ここで食べられるようにしている。

 まあ、店内にあったイートインスペースのテーブルとイスを運んできただけだ。

 食べてる人が見えた方がつられて買いやすいだろうって狙いだ。


 お惣菜として売り出す新商品。

 味見して気に入ったクロエとアンナさんとバルベラは、販売開始を前にそわそわしている。

 エプロン付きスケルトンたちとゴーストもそわそわしてたけど、みんな店内に戻した。

 アンデッドだらけだったら売れる物も売れないだろう。


「ナオヤ、見えたぞ! 農家のおばちゃんたちだ!」


「よし! アンナさん、準備をお願いします! 見た目と匂いと音で誘うんです!」


「はい、わかりました!」


「さ、誘う……だと……? ナオヤはまさか歳上好きで農家のおばちゃんたちを狙って——」


「黙れクロエ。いまアンナさんへの指示だっただろ!」


 クロエを放置して、アンナさんが魔石コンロに火をつける。

 用意していた魔石コンロは三つ。

 寸胴鍋に入ったビーフシチューを温めて、ハンバーグを焼く鉄板を(ねっ)して、油の温度を上げてカツを揚げるためのコンロだ。


「おやクロエちゃん、今日も試食かい?」


「おばちゃん、違うぞ! 今日から販売開始なんだ!」


「へえ、じゃあ後で見せてもらおうかねえ」


「ああ、では急いで野菜を片付けてしまおう! こっちだおばちゃん!」


「はいはい、張り切ってるねえクロエちゃん」


 荷車を引いた農家のおばちゃんたちが、特設ブースの横を通り過ぎていく。

 目線はばっちりカツとハンバーグに向いている。

 野菜入りの泥水に見えるビーフシチューには顔をしかめてたけど。


「まとめて作るから安いんだぞ! カツレツなんて、街の高級料理店の半値以下なんだ! で、でもだな、売り切れちゃうと私は食べられなくて」


 今日販売する野菜を持ってきたおばちゃんにお惣菜を売り込むクロエ。

 おばちゃんたちはチラチラとこっちを振り返る。

 ちょっとクロエの本音が出てたけど、興味を持ってもらえたみたいだしスルーしよう。


「よしよし、いい出だしだ。アンナさん、そのまま調理して、持ち帰り用の陶器の容器にいくつか用意しておきましょうか」


「はい、ナオヤさん」


 調理するアンナさんの手元をバルベラがじっと見つめている。口からヨダレが垂れてる。


 朝にアイヲンモール異世界店に来店するのは農家のおばちゃんたちだけじゃない。

 朝イチで街を出る行商人や冒険者たちも目の前の道を利用する。

 先を急ぎたい人たちがさっと購入できるように、調理済みを用意しておいた方がいいだろう。


 朝のアイヲンモール異世界店前に、肉が焼ける匂いと油の匂いが漂う。

 外で調理してるから、通行人も匂いを感じるはずだ。


 アンナさんが、焼き上がったハンバーグを陶器の器によそう。

 上からデミグラスソースをかけて、陶器のフタをかぶせる。

 バルベラがヨダレを拭きながら、ツタで作ったヒモをかけてフタを固定する。

 これが持ち帰り用のセットだ。


 ちなみに陶器の容器はけっこう丈夫だった。

 さすがに落としたら割れるけど、多少の衝撃じゃ割れなかった。

 あんなにシンプルな、というか本来必要な工程を省いてたのに。

 アンナさんいわく、「ドラゴンブレスで焼き上げたから、少し魔力が宿った」ためらしい。異世界ヤバい。魔法怖い。


「あっ。ナオヤさん、時間ですよ」


「ああ、開店時間の8時ですね」


 ちゃんと教えた通りに調理できているかアンナさんを見ているうちに、いつの間にか時間が経ってたらしい。

 野菜の入荷と品出しに対応しているクロエはまだ戻ってこない。

 農家のおばちゃんたちも戻ってこないから、まだお客さまはいないけど。


 自分に気合いを入れるために、大きく息を吸い込んで。


「さあ、新商品を用意したアイヲンモール異世界店、オープンだ!」


 宣言した。

 アンナさんとバルベラ、二人の拍手が響く。二人……リッチとドラゴンだけど。見た目は人間だし従業員だし人間ってことで!



 俺が店長になってから、八日目のアイヲンモール異世界店。

 月間売上一億円の目標に向けて、初めて用意した新商品の販売がはじまる。

 まあ単価が低いから、これだけじゃ日間売上334万円には届かないはずだ。

 一歩ずつ、一歩ずつ…………月間売上一億円って目標高すぎィ!


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