第十話 おおおおお! 見た目10歳の女の子が炎を吐く! アイヲンモール異世界店の従業員の特技はドラゴンブレスですって! 異世界ヤバい!
「ひとまずこれぐらいでいいか」
スケルトンたちが手伝ってくれたこともあって、土をこねた器は、あっという間にそれなりの数ができた。
スケルトンたちが骨の手でこねるのを諦めて、外した骨でぐにぐに伸ばすのを見た時は引いちゃったけど。うどんかよ。麺棒かよ。突っ込まない。俺は突っ込まない。
バルベラとクロエが遊んでて戦力にならなかったことも突っ込まない。
「アンナさん、それでこれからどうするんですか? 街にでも持っていって焼いてもらうとか?」
「いえ、違いますよナオヤさん。ではバルベラちゃん、お願いします」
「……任された」
ぺしぺし作ってたナゾのオブジェを置いて、バルベラが立ち上がる。
アンナさんの指示でスケルトンたちが離れていく。俺とクロエも下がる。
土の駐車場には粘土の皿が並んでいる。
バルベラが運んできた土を形にしただけのもので、焼いたところでちゃんと皿になるとは思えない。
どうするつもりなのかと見ていると。
バルベラが、大きく息を吸い込んだ。
「…………ふぅー!」
変身のときのように気の抜けた声がして。
バルベラの口から、炎が吐き出された。
火炎放射器のように、炎の線が伸びる。
「おおっ! すごいぞバルベラ! これがレッドドラゴンのブレスか!」
「バルベラちゃん、ブレスが土の山に当たらないように気をつけてね」
粘土の皿が炎に包まれる。
バルベラが小さく首を振ると、炎が広がってすべての皿を包み込んだ。
「いやいやいや! 『レッドドラゴンのブレスか!』じゃなくて! いまバルベラは人化モードじゃん! 人間形態じゃん!」
「どうしたナオヤ? 何かおかしかったか?」
「ナオヤさん、バルベラちゃんはドラゴンです。人の形をとっていても『ドラゴンである』という本質は変わらないんですよ。力も強いままだったでしょう?」
「おおおおお! 見た目10歳の女の子が炎を吐く! アイヲンモール異世界店の従業員の特技はドラゴンブレスですって! 異世界ヤバい!」
「……おしまい」
俺が頭を抱えてる間に、バルベラのドラゴンブレスは終わったらしい。
腰に手を当てて胸を張るのは子供が得意になってる感じでかわいいんだけど、余熱なのかむふーって鼻息は煙になってる。
「突っ込まない。俺は突っ込まない。だいたい陶器は炎で焼けばいいってもんじゃない……え? はい?」
むきだしの土の駐車場に並んでいたはずの、粘土の皿。
バルベラのドラゴンブレスのあとに残されていたのは、陶器の皿だった。
「ウッソだろなんだこれ。あれで焼けてる? 一つも割れてない? 乾かしたりゴミ取ったり一回焼いたりって焼物の行程は」
「ふふ、ナオヤさん。ドラゴンのブレスは、術者であるドラゴンが望む『燃やした結果』を引き起こすんです。バルベラちゃんが慣れるまでは燃やすイメージが強すぎて対象を焼失させてましたし、地面が大変なことになったものです」
「そういえばブレスが当たったのに、土の駐車場は土のままで……なにこれ怖い。意味がわからなすぎて異世界怖い」
「さすがバルベラ! 要するにブレスで燃やしたんだな! さすがレッドドラゴン!」
「クロエもわかってないだろ。目が泳いでるぞ」
呆然とする俺、適当に話を合わせてるのがバレバレのクロエ。
褒めてほしいのか、バルベラがぐりぐり頭を押し付けてきたので撫でる。何も考えずに撫でる。
空いた手に、アンナさんが焼き上がった皿を渡してきた。
焦げ茶色でシンプルな皿。
俺が作ったフタ付きの。
「どうですナオヤさん? 使えそうですか?」
「あっはい、たぶん」
軽く叩くと、カンって高い音がする。
試してみないとはっきり言えないけど、問題なく使えそうに思える。
これにカツやハンバーグやビーフシチューを入れて、販売すると。
割らずに持ってきたら割引かお金を返す仕組みは作るとして、この皿がどれぐらい丈夫かテストは必要だろう。
ちなみにバルベラが運んできた土はまだ余ってる。
つまり時間も手間もかけずに陶器の皿を作れるわけで、ひょっとしたら材料費もいらなくて——
「……あれ? これ、お惣菜でもお弁当でもなくて、この皿をそのまま売ればいいんじゃない?」
「これで中食を売り出せるな、ナオヤ! カツもハンバーグもビーフシチューも、みんなきっと喜ぶぞ!」
「楽しみですねクロエさん。試食したみなさんは『いつ売り出すんだ?』って聞いてくれましたから」
「……おいしいがたくさん。みんなうれしい」
できあがった皿を見て、これでカツとハンバーグとビーフシチューを売り出せると喜ぶ三人をチラッと見る。
言えない。
いまさら「それよりこの皿売らない?」とか言えない。
「まあ売るんだけどな! よし、準備するぞ! 明日からカツとハンバーグとビーフシチューを売り出して、ついでにこの皿も売り出すぞ!」
ごまかすような俺の叫びに、三人は「おー!」と乗ってくれた。
俺が店長になってから七日目のアイヲンモール異世界店。
明日から、やっと商品が増えそうです。





