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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第五章 売り出せ中食! 見せろアイヲンの実力!』
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第九話 おおっ、ねちょねちょでねっとりだ!……ち、違うぞナオヤ? これはえっちな意味じゃなくてだな? わ、私は土のことを言っただけで


 アイヲンモール異世界店の敷地は広い。

 日本にあったアイヲンモールと同じように建物もデカいし、土の駐車場も広い。

 正面入り口は街まで続く道に面していて、それ以外は森だ。


 駐車場の先、木の陰からスケルトンがひょっこり頭を見せる。

 キョロキョロ周囲を見まわして、ゆっくり森から出てきた。

 問題ないことを確認したのか、そこからは鎧姿のスケルトンが続々と。


「ナオヤさん、お待たせしました! バルベラちゃんを連れ帰ってきました! ちゃんと人化形態です!」


 スケルトン部隊と骸骨馬に乗ったスケルトン隊長に続いて、森から出てきたのはアンナさんだ。

 すぐ後ろには見た目10歳の女の子のバルベラもいる。


「……んんーん」


「えーっと、バルベラ? ドラゴンじゃないのはいいけど、頬をふくらませてどうした?」


「おおっ、ただいまと言いたかったんだな! おかえりバルベラ!」


 小さな手で口を押さえて、ハムスターのようにほっぺたをふくらませたバルベラ。

 高速ダッシュで街まで往復してきたクロエは、バルベラの挨拶を聞き取れたらしい。


「それで、アンナさんとバルベラの案ってなんだったんですか? こっちは大変、まあ俺じゃなくてクロエが大変だったんですけど」


「そんなに大変じゃなかったぞ! 『あのドラゴンは魔法でできた幻だ』と伝えたら、みんなすぐに納得してくれたからな! 『クロエさんのやることですもんね』と! 日頃の実績のおかげだな!」


「胸を張るなエルフ。それ失格エルフ、ポンコツ騎士としての実績のせいだろ。おかげで助かったけど」


「申し訳ありませんでしたナオヤさん、クロエさん。では、私たちの案をお見せします。さあバルベラちゃん」


「……ぺっ」


 アンナさんに促されて、バルベラが口を開く。

 パンパンに詰まってた口から、べちゃっと何かが出てくる。


「え、ええー? バルベラ? アンナさん?」


 バルベラの口からべちゃべちゃべちゃっと、茶色い何かが出てくる。ビーフシチュー色で、でももっと固形物っぽい。


「大丈夫かバルベラ? 気持ち悪いのか? アンナさん、これは?」


「バルベラちゃん、お客さまもいないようだし、ドラゴンに戻っていいのよ?」


「……んんー!」


 いったん口を閉じて手で押さえてバルベラが飛び上がる。

 パッと光る。

 ビリッと破れる音が聞こえる。


 光が収まると、そこには赤いウロコのドラゴンがいた。

 ドラゴンの足元には、破れた服が落ちている。


「今回は脱がなかったからね。だから服が破れちゃったと。なんかこう、その辺も魔法でなんとかならないのか?」


 俺の言葉に応える声はない。

 アンナさんは「さあ、こっちへ」とバルベラを促し、クロエはドラゴンを見てキラキラと目を輝かせている。

 ドラゴン形態のバルベラは——


「グオオゴボッ! ガボガボガボ」


 いつものように叫ぼうとして、えれえれとなんか吐き出した。

 人化モードの時と同じように、ビーフシチュー色の何かを。


「おいほんと大丈夫かバルベラ? ドラゴンにビーフシチューは食べさせちゃダメだったのか?」


「ふふ、違いますよナオヤさん。ほら、ビーフシチューの匂いじゃないでしょう?」


「むっ! ではアンナ、これはなんだというのだ!? このヌルヌルした泥のような……はっ! ま、まさかコレを私に塗りたくり! 『ほらクロエさん、徹夜明けのナオヤさんをマッサージしてあげてください。その身体で』などと! くっ、殺せ!」


「あ、それ俺以外のセリフでもはじまるんだ。でもたぶん違うから黙ってようなクロエ。……泥? 粘性のある土? まさか」


 いつもの妄想がはじまったクロエを放置してバルベラを見る。

 口に溜めていた()はすべて出し終わったのか、なんだかすっきりした顔だ。

 ドラゴンの表情なんてわからないけど、たぶん。


 ドラゴンモードのバルベラに、服を手にしたエプロン付きスケルトンが駆け寄る。

 豪華な鎧を着たスケルトン隊長がバサッとマントを翻して仁王立ちする。

 今度はドラゴンが光って姿を消す。

 スケルトン隊長のうしろに回り込んだアンナさんが、「はいここに腕を通して」なんて言いながらガサゴソする音が聞こえる。


「って連携が完璧すぎる。そういえば森から人化モードで出てきたってことは一回着せたわけで」


 しばらくすると、スケルトン隊長がさっと脇にどく。

 現れたのは、むふーと自慢げに胸を張る人化モードのバルベラだ。


「……土。運んだ」


「お、おう、偉い偉い? ところでどう考えても人化モードの口の中に収まる量じゃないんだけど。さすが幻想種、身体なんて飾りかよ」


 バルベラが吐き出したべちゃっとした土は、口の中どころか人化モードのバルベラの体積を越えている。というかドラゴンモードの口の容量も越えている。


「欲しいのはカツやハンバーグ用の平皿、ビーフシチューの深皿。運び込まれたのは粘り気のある土。つまりアンナさんとバルベラの案は」


「はい、ナオヤさん。この土を使ってお皿を焼くんです!」


「おおっ! すごいぞアンナ! 運んできたバルベラも!」


「陶器かあ。割れやすいってのもあるけど……窯もないし、燃料費もかかるような」


「ふふふ。ナオヤさん、まずは作ってみましょう? きっと驚くと思いますよ?」


「はあ」


 アンナさんはさっそくべちゃっとした土の山に手を突っ込む。

 バルベラもとてとて近づいて、小さな手で土をすくい取る。

 まわりにいたスケルトン部隊も手を突っ込む。


「いやスケルトンて。手が増えるのはありがたいけど土をこねられないだろ。手というか骨だし。……ハンバーグと違って骨でもイケるか?」


 ブツブツ言いながら俺も参加する。


「おおっ、ねちょねちょでねっとりだ!……ち、違うぞナオヤ? これはえっちな意味じゃなくてだな? わ、私は土のことを言っただけで」


「はいはいわかってるわかってる。それにしても、これだけ水分多くて大丈夫なのか? 水分……いや考えるな。バルベラの口の中に入ってたとか考えるな」


 クロエの言葉を流して無心で作業する。

 陶器にする土って本来はサラサラに乾いた状態で、水を加えながら練って水分を調整する気がするけど細かいことは考えない。

 さっきまでバルベラの口の中に入ってたわけで、この水分はドラゴンのヨダレじゃないかってことも考えない。

 大量のスケルトンと一緒に作業してることも考えない。


「考えちゃいけないことが多すぎるだろ! さすが異世界!」


 器の形を作って、土がむきだしの駐車場に置いていくアンナさんとスケルトンたち。

 俺もそれにならって、いろんな深さの器を作って置いていく。

 持ち運びを考慮して、あわせてフタも作ってみる。かぶせるだけのフタだけど、ないよりマシだろう。


「……楽しい」


「これ粘土遊びじゃないから。バルベラも皿の形を作ろうな」


「ははは! 見ろナオヤ! これが土剣エペデュテールだ!」


「バルベラより遊んでるヤツがいた。いや、異世界なんだし魔法的なアレでそれも剣になるのか?」


「ならないが?」


「堂々と言うなエルフ! 遊んでないで皿を作れ皿を! くそ、ちょっと期待した俺がバカだった!」


 なんなのコイツら。


 俺が店長になってから七日目のアイヲンモール異世界店。

 カツとハンバーグとビーフシチューの持ち帰り用容器はまだ未定だ。

 つまりまだ販売できない。

 ……月間売上一億円の目標が遠すぎる。


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