第三話 そしてあちらに戻り! あの世界にレイクビレッジを作るのだ!
本日、6/29は『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 4』
発売日です!
よろしくお願いします!
クロエたちと一緒に、俺が日本に還ってきてから一ヶ月。
アイヲンレイクビレッジの視察? ショッピング? を終えた俺たちは、春日野の俺の家に向けて帰宅途中だった。
一日ウロウロしたおかげで外はもう暗い。
大きな国道を逸れてるからマジで暗い。
「それで、レイクビレッジを半分ぐらい見てまわったわけだけど……どうだった?」
「……美味しかった!」
「そっかそっか、よかったなバルベラ。…………ビュッフェレストランのほかにもいろいろ行ったんだけどなあ」
「……人がいっぱいいた。楽しかった?」
「疑問形かあ。うん、まあドラゴンってバレずに堪能してくれたならヨシとしよう。騒ぎにならなかったしな。大食い以外は」
俺が感想を聞いてみると、後部座席のバルベラがばっと両手をあげて答えてくれた。
バルベラがツノと尻尾を隠して——消して?——くれたおかげで、レイクビレッジの店員さんにもお客さまにも変に騒がれることはなかった。
うん、それだけでヨシとすべきだ。日本に、この世界にドラゴンがいるって話になったらシャレにならないからね。UMA(未確認生物)どころか確認できちゃうわけだからね。
「……今度は泳ぎたい」
「泳ぎたい? レイクビレッジにプールは……ダメ! あの貯水池で泳ぐとか絶対ダメ! バレるから! 大騒ぎになるから!」
「…………ざんねん」
残念と言いながらも、バルベラはいつもの無表情じゃなくてうっすら笑ってる。
アイヲンレイクビレッジが——今日が、よっぽど楽しかったみたいだ。
「クロエはどうだった?」
「よくぞ聞いてくれたナオヤ! アイヲンレイクビレッジはスーパー、生鮮、土産モノの充実もさることながら! やはりテナントが素晴らしかった!」
「そうだな、すごいよなアレは」
「数多の専門店を集めて! どんなモノでも揃う品揃え! ああいや、『どんなモノでも揃う』は言い過ぎだったな」
「そうか? 何が足りなかった? 参考までに教えてくれ」
「あれで武器屋に防具屋、それに冒険者ギルドがあれば! 言うことナシだったのだが!」
「ここ異世界じゃなくて日本だぞ!? ……ああでも、アメリカのショッピングモールじゃ武器や防弾チョッキとか売ってるんだっけ。武器屋に防具屋と言えなくもない」
「そんなショッピングモールがあるのか!? ま、まさかナオヤは『行きたければ……わかってるよな?』と私に無体な要求をして! くっ、迷う!」
「迷うな迷うな! さすがに海外は行けないから! クロエたちはパスポート取れないだろ? 取れないよな? でもアイヲンの社員にはなれてるんだよな。行けるのかこれ?」
いやさすがに行けないはずだ。
いくら大企業の株式会社アイヲンでもそんな力はないはずだ。ないよね?
助手席に座ったクロエは鼻息も荒い。
アイヲンモール春日野店は、異世界店とあんまり規模変わらなかったからなあ。
二つのショッピングモールにアウトレットを備えた日本最大級の超巨大ショッピングモール「アイヲンレイクビレッジ」は伊達じゃない。駐車場でちょっと迷った。
「私はやっと、ナオヤが言っていたことが真に理解できたかもしれない」
「俺が言ってたこと?」
「ああ。『アイヲンモールに夢と希望を感じていただいて、お客さまをワクワクさせたいんだ』と言っていただろう? 売上は、お客さまが満足した結果だと」
「言ったな。こうして人に言われるとちょっと恥ずかしいけど」
「ナオヤが店長になったアイヲンモール異世界店はワクワクした。テナントを入れて、グランドリニューアルオープンした時は、それはもう本当に。お客さまもワクワクしてくれた、と思う」
「そうだな。だから月間売上一億円を達成できたわけだし」
「だが……今日アイヲンレイクビレッジを訪れた私ほどワクワクしてくれただろうか。満足してくれただろうか」
「クロエが……『ポンコツ騎士』『失格エルフ』とか呼ばれてた元店長がそんな、真っ当なことを…………」
「私だけではない。信じられないほどたくさんのお客さまがいて、みんな笑顔だった」
「そうだな。あそこに行くのは単なる『買い物』以上の体験を提供できてるってことだろうな」
車窓の向こう、流れていく街灯の光がクロエの顔を照らす。
クロエはニコニコと笑顔で、でもどこか悔しそうで。
「決めたぞナオヤ! 私は、日本のアイヲンですべてを学ぶ!」
「お、おう。……日本だけで学びきれるかなあ」
「そしてあちらに戻り! あの世界にレイクビレッジを作るのだ!」
「難易度高すぎるだろ!? 人口も流通も何もかも違うんだが!?」
「さいわい、私の故郷であるヴェルトゥの里には湖がある」
「湖ありきで考えるなよ!? エルフの里に超巨大ショッピングモールってイメージと違いすぎませんかねえ!?」
ぐっと拳を握りしめるクロエに俺の声は届かない。
思い込みが強すぎる。
大丈夫だ、日本でアイヲンのことを学ぶのは最低でもあと五ヶ月ある。
そのうちに、いくら湖があるからって「異世界でアイヲンレイクビレッジ」は無理だって気付いてくれるだろう。
日本でもたいていの場所じゃ無理ですし。
わかってくれるよな。わかってくれるといいなあ。
「エルフは長寿だ、百年計画で行く!」とか言い出しそうだなあ。
うしろの二人が助けてくれないかな、とチラッとバックミラーを見る。
バルベラは寝てた。
お腹いっぱいになって、みんなに楽しくて美味しかったと伝えて、満足したらしい。
よく食べよく寝てよく遊ぶ健康優良児です。ドラゴンだけど。見た目10歳とはいえ中身140歳なはずだけど。
アンナさんは——
「ええ、初めてレイクビレッジに行ってきた帰りなんです。広くて明るくて、たくさんのお店と商品があって、とても充実していましたよ」
「アンナさん?」
「はい、もちろんお買い物しました。アウトドアグッズはお仕事用ですね。個人的には本と服、それに雑貨を少々」
「あの、アンナさん? それは知ってますけど」
「楽しかったです! 食事ですか? ビュッフェのお店に行きました。なんでも食べ放題だなんて、まるで王侯貴族になった気分です、ふふ」
「いやみんな一緒でしたし、バルベラは寝てて……あの、アンナさーん?」
「わかりました。では、今度連れて行きますね!」
「アンナさん……? 誰と、話してるんですか……? その、まさかとは思いますが……」
「あっ! 失礼しました、ナオヤさん」
バックミラー越しに目が合って、アンナさんがペコっと頭を下げる。
肩のあたりの黒いモヤがひょこっと曲がる。
黒い。
モヤが。
「や、やだなあアンナさん、ゴーストは日本に連れてこなかったって言ってたのウソだったんですね。ひさしぶりー」
大丈夫。
いまさら黒いモヤ程度じゃ驚かない。
向こうじゃ半年も一緒に生活してて、警備やら着ぐるみ部隊として活躍してくれた立派な戦力だったし。
いまさら驚かない。
いまさら。
「ウソじゃありませんよ、ナオヤさん。この子は連れてきた子ではありません」
「へえ、そうなんですね。………………へえ?」
「先ほど交差点で止まった際に乗り込んできたんです」
「へえ、先ほど。交差点で。乗り込んで」
「悪しき存在になると大変ですしね、コミュニケーションしているところです。優しい子ですよ」
「へえ、そうなんですね」
またバックミラーを見ると、恥ずかしがってるのか黒いモヤはしゅっとアンナさんの背後にまわった。
首の横からチラチラ見てくる。
なんだろ、向こうで散々見てきた感じである。
向こうで。
モンスターもアンデッドもいる、異世界で。
「あああああああああ!」
「なっ、どうしたナオヤ!?」
「それ確実にゴーストじゃないですかぁ! この世界に! 日本に! アンデッドがいるって! 聞いてないんですけどぉぉぉおおおおお!?」
「落ち着いてくださいナオヤさん、この子は人に害を為すタイプじゃありませんから!」
「この子は!? じゃあ害を為すタイプもいるんですね!?」
車を止めて振り返る。
アンナさんはにこっと微笑むだけで答えない。
「おおおおおおおお! そんなの! 知りたくなかったんですけどぉぉぉおおおおお!」
頭を抱える。
モンスターがはびこる異世界から、還ってきたはずなのに。
エルフのクロエとリッチのアンナさんとドラゴンのバルベラはいるけど、ほかは人間しかいない平和な世界だなーとか思ってたのに。
クロエたちと一緒に、俺が日本に還ってきてから一ヶ月。
どうやら俺は、還ってきてもファンタジーから逃れられないようです。
俺ただのアイヲン社員なんだけどな!?
今日のレイクビレッジの感想とか視察結果とかもうぜんぶすっ飛んでった気がするな!?
日本でもファンタジーなトラブルとか起きませんよね? 起きないって信じてる!!!
いよいよコミック四巻発売日です!
みなさまよろしくお願いします!
【重大告知!】
本作のマンガ単行本第四巻
『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 4』は
6/29発売です!
マンガはこの四巻で完結です!
アンナさん回からラストまで、見どころ盛りだくさんなので
ぜひぜひこの機会にお買い求めください!
マンガ一巻から四巻までまとめ買いしてくれてもいいんですよ?
※なおこの物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません!
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