第一話 ほ、ほんとうだ……アイヲンモールの隣にアイヲンモール……? ニホン人はずいぶん変わっているのだな……?
6/29『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 4』発売記念!
後日談を三話投稿します!
俺が日本に還ってきてから一ヶ月。
俺はいま、ひさしぶりの道を走っていた。
ひとりドライブ、じゃない。
「ほら、見えてきたぞ」
「おおっ! ここのアイヲンモールも大きいのだな!」
「ああ。いまのところ全国で一番大きいアイヲンなんだ」
助手席のクロエはあいかわらずテンションが高い。
さすがに一ヶ月もいれば「あの鉄の馬車はなんだ!?」とか「森が、ない?」とか「モンスターはどこにいるのだ?」とか言い出すことはなくなった。
まあ、いまだにたいていのものに驚いてるけど。
ちなみに、今日のクロエは頭にスカーフを巻いてる。
なんかおでこのちょい上で結ぶオシャレ女子っぽい感じだけど、目的は耳の上の方を隠すためだ。
エルフの長い耳は「コスプレです」って言い張ればいいんだけどね、今日は人が多いから。
「……いちばん大きい……。いちばん美味しい?」
「テナントも多いからなー、美味しい店はいっぱいあるぞ」
後部座席の左側に座ってるのはバルベラだ。
ぼんやり窓の外を見てゆったり尻尾を振ってたんだけど、飲食店が気になったらしい。
アイヲンモール春日野店は、こっちに来て早々に全店全メニュー制覇してたからなあ。
フードコートも入れたらけっこうな数だったんですけど。
「ん……? 尻尾……? バルベラ、尻尾! 尻尾出てる!」
「……消す」
見た目は10歳の女の子なバルベラは普通のワンピースだ。
人化した時にあるツノも尻尾も、意識すれば消せるそうなので。さすが幻想種。ドラゴンすごい。
「全国で一番、ですか? ここから見ると、大きさは春日野店とあまり変わらないような気がします」
「そうですね、俺たちが見てるあの建物——『Mizu』は、春日野店と同じぐらいだと思います」
エルフ耳のクロエ、油断すると尻尾が出ちゃうバルベラと違って、アンナさんは隠すところはない。
服だけこっちのものにすれば、単なる外国人の女の子に見える。
……正体がバレた時に一番怖いのはアンナさんだけど。いやバルベラもか。
「どういうことだナオヤ? 一番大きいのに春日野店と変わらない、だと?」
「もうちょっと行けば……ああ、見えてきたな」
「む? た、大変だぞナオヤ! アイヲンの横に大きな店がある! あれはなんだ!? ライバル店か!?」
「あれもアイヲンモールだ」
「は!? アイヲンモールの隣にアイヲンモールがあるだと!? そんなわけないだろう! 私はそんな嘘に引っかかるような安いエルフじゃないぞ?」
「ほら、外壁にロゴも入ってるだろ? あっちは『Sora』だな」
「ほ、ほんとうだ……アイヲンモールの隣にアイヲンモール……? ニホン人はずいぶん変わっているのだな……?」
「あの、ナオヤさん。左手前にアイヲンモール、右奥もアイヲンモール。では、右手前の、大規模バザールのようなものは」
「あれもアイヲンです」
「は、はあ!? ふたつでもおかしいのにみっつだと!? そんなに店を集めて大丈夫なのか!? お客さまが足りなくないか!?」
「まあ、あれは『アイヲン』でも、アウトレットモールだからな。ちょっと毛色が違うんだ」
俺が住んでる春日野から車で一時間弱。
『Mizu』『Sora』って二つのアイヲンモールにアウトレットまで備えた、日本最大級、『アイヲン』では最大のショッピングモール。
「ナ、ナオヤ、では右にも左にもある駐車場は、まさか……?」
「ああ、どれもアイヲンモールの駐車場だ」
「これは……王城より広いかもしれません……」
「何と比べてるんですかアンナさん。というか行ったことあるんですか? さすが聖女」
「……すごい。広い。……戻っていい?」
「やめてバルベラ! 広いからってドラゴンに戻ろうとしないで!」
今日の目的地は、アイヲンレイクビレッジだ!
「わあ! すごくたくさん本が並んでいます! まさか、これがすべて売り物、なんてことは……?」
「とうぜん売り物ですよ、アンナさん」
「まあ! 本当ですか!? すごい、すごい!」
「お目当ての本が見つかるといいんですけど……ゆっくり探してください」
アイヲンレイクビレッジ『Mizu』の三階にある本屋の前で、アンナさんがめずらしくはしゃぐ。
では私は失礼します、と言い残すと、ささーっと書棚の間に消えていった。
「さて、俺たちはどうするかなー」
「……ご飯食べる?」
「それはもうちょいあとでな。バルベラはそうだなあ、絵本でも見るか?」
「……えほん」
「ああ。日本語の勉強にもちょうどいいだろうし」
あっちにいた頃に独学で日本語をマスターしたアンナさんと違って、バルベラとクロエはまだ日本語を勉強中だ。
会話は「翻訳指輪」でなんとかなるんだけど、読み書きは別モノらしい。なんでかはわからない。魔法すごい。
「べ、べんきょう……」
「おいなんで怯えてるんだクロエ。勉強も仕事のうちだぞ? 俺だって向こうの文字覚えたんだぞ?」
「うっ。そ、そうだな……」
「あー、だったらあれだ、クロエはマンガかアニメで勉強した方がいいかもな」
「う、うむ! それで頼む! ではマンガコーナーに行こう! 案内してくれナオヤ!」
「マンガだったら、ここより隣の方がいいな」
「となり?」
首をかしげるエルフとドラゴンを連れて本屋から出る。
目的地はすぐ目の前だ。
「ほら。マンガならこっちの方が充実してるぞ」
「本屋の隣に、本屋があるのか?」
「ああ。って言っても、こっちは専門書店でマンガやアニメのグッズなんかも売ってるんでちょっと毛色が違うけどな」
「マンガの、せんもん? はっ! わ、私は知ってるぞ! え、えっちなマンガが置いてあるんだろう? そしてナオヤは『こういうのが好みなのか。んじゃ今度……』などと言いながら! 私を襲う作戦を立てて! くっ、このケダモノめ!」
「ないから。ここにはえっちなマンガは置いてないから。……ないよな?」
謎知識からの妄想でクロエが身悶える。
人聞きが悪いのでやめてほしい。人が少ない平日に来てよかった。
……カフェの店員さんと目が合っちゃったけど。ほんとすみません。日本を勘違いした外国人なんです。俺もケダモノじゃないんです。
「ないのか……」
「いやなんで残念そうなんだよ! 読みたかったのか!?」
「それにしても、日本のアイヲンは変わっているのだな! 本屋の隣にマンガの本屋を作るなど!」
「……まあそこは住み分けってことで。あれ? アンナさん? 買い物はもう終わったんですか?」
「その、医学書はあまり置いてなくてですね」
「あー、なるほど。じゃあもう一つの本屋に行きましょうか」
「え? ナオヤさん?」
「何を言っているんだナオヤ? こっちの本屋はマンガとかの専門書店なんだろう?」
「ここじゃなくて、『Sora』の本屋にな」
「はあ!? ここに二店舗もあるのにまだ本屋があるだと!? 日本のアイヲンは何を考えてるのだ!?」
「ほんと、なに考えてるんだろうなあ。まああっちはあっちでいろいろ工夫してるから、住み分け、的な?」
「……絵本、ある?」
「ああ、あるぞ。あっちの方が多いんじゃなかったかなー」
「……やった」
むふっとうれしそうなバルベラと、手を繋いで歩き出す。
ここからだと……エスカレーターで二階に下りて、『Sora』との連絡通路を使うのが早いかな。
「ほ、ほらクロエさん、行ってみましょう? 見れば違いがわかるかもしれませんから」
「う、うむ、そうだなアンナ。私たちはアイヲンの社員なんだ。アイヲンの考えを理解しないとな。一見おかしなことでも何か深い意味があるのかもしれない。きっとそうだ」
「おーい、クロエ、置いてくぞー」
「いま行く!」
俺が日本に還ってきてから——俺たちが日本で生活するようになってから一ヶ月。
超巨大ショッピングモール『アイヲンレイクビレッジ』見学は、まだまだ終わらない。
本屋に行っただけだしね。それも、片方だけの。
……あ。駐車場、どこ停めたか忘れないようにしないとな。きっちり覚えておかないとダンジョンより迷うから。いやほんとに。
コミック四巻発売まであと三日!
ということで、後日談です。
全三話予定!
【重大告知!】
本作のマンガ単行本第四巻
『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 4』は
6/29発売です!
マンガはこの四巻で完結です!
アンナさん回からラストまで、見どころ盛りだくさんなので
ぜひぜひこの機会にお買い求めください!
マンガ一巻から四巻までまとめ買いしてくれてもいいんですよ?
※なおこの物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません!
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