第二十五話 エルフの店が無事開店できそうでよかった。ほかの店も……大丈夫そうだな
「あっ。ナオヤさん、黒鉄輸送隊が帰ってきたようですよ」
「じゃあ迎えに行きましょうか。今日の朝礼は外、正面入り口前ですしね」
アンナさんの報告を聞いて、一階テナントスペースからスーパーを通って正面入り口に出る。
黒鉄輸送隊は、複数テナントが入ると決まってから作った部隊——部門?——だ。
港町からアイヲンモール異世界店を経由して、アイヲン最寄りの街、王都、エルフの里って一定ルートを往復してる。
モンスターや盗賊がいるこの世界で、テナントさんの商品仕入れや従業員の行き来を少しでも安全にするための策だ。
猫人族のみなさんはエルフの里集合してもらってます。そこは近いし仲がいいようで。
安全で安定した流通ができたとファンシーヌさん実家の王都の商会やエルフ&猫人族の店、港町の店からも好評だった。
黒鉄輸送隊の御者は行商人さんが勤めてる。
複数体制でも走れるように、馴染みの行商人をこっちに転職しないか誘ってくれてる。
村々をまわる行商にやりがいを持つ人でも、家族ができたり怪我をしたり、いろんなきっかけで安定志向になる人もいるそうだ。
ヘッドハンティングですね。取り込めたら助かります。
輸送隊の護衛には全身甲冑スケルトンが最低4体、ゴーストが二体ついてる。
アンデッドの護衛じゃバレるんじゃないかって俺の心配を吹き飛ばしてくれたのは行商人さんだ。
街に入る時の検問が心配なら、街に入らなければいいじゃない、と。
アンデッドなんだから休憩は必要ないし、夜目が利くから見張りも問題ない。モンスターや盗賊が出ても撃退できる。
だから、アイヲンに帰ってくるまで野営を繰り返せばいいと。
運ぶ荷や人とは街の外で待ち合わせればいいと。
そうすれば入るのに税金がかかる街でも節約できますね、なんて言って。
結果、アイヲンの輸送隊は、ドワーフ謹製の馬車——一輪手押し車を再現した技術力——に全身甲冑の護衛を並べて、街から街を無補給で駆け、野外で宿泊する「鋼の部隊」になった。
全身甲冑で小走りしようがスケルトンは疲れないからね。
骨の馬体を隠すために黒い布と鎧で馬の肌を隠してるせいもある。
見た目からして鉄壁、実力も実績も盤石すぎて、いまでは黒鉄輸送隊の移動に便乗する商人や商隊もいるらしい。
輸送隊は街に入らないから、街間の移動だけ。
輸送が安定しすぎてほかの商会から「うちの荷も運んでくれないか」って問い合わせもきてる。きまくってる。
いまのところ「アイヲンのテナントのみです」って断ってるけど。
流通で世界獲れそう。異世界獲れそう。
「あっ、見えてきましたよ、ナオヤさん」
「…………今回も便乗組の数がすごいですね」
とにかく、その黒鉄輸送隊が帰ってきた。
アイヲンモール異世界店前の街道を爆走して近づいてくるのが見える。
土煙をあげて、便乗する馬車の集団も。
「今日は人もついてきてるような」
「おおっ! すごいなナオヤ! あんなにたくさんの人がアイヲンにやってくるのか!」
「クロエ? エルフの店は大丈夫なのか?」
「うむ! 竜人族とゴーストたちが帰るよう促していてくれたみたいでな、すぐ戻ってきたのだ!」
「それはよかった。ほんと頼りになる」
「そ、そんなに褒めても何も出ないぞ!? ま、まさかナオヤは『出ないかどうか体に聞かないとなあ』などと部屋に連れ込んで! くっ、殺せ!」
「頼りになるって言ったのはゴーストの方な。クロエも頼りにしてるけど」
「なななななんっ!」
元のスケルトン部隊を店内や輸送隊の警備にまわしたため、アイヲン周辺の警備は竜人族やゴーストたちにお願いした。
戦闘力はスケルトン部隊より低いけど、「森にいてもおかしくない」「人やモンスターを警戒させない」のはメリットだ。
竜人族のみなさんは見た目イグアナだし。
おかげで、あいかわらずアイヲンモール異世界店は安全です。
「とにかくまあ、エルフの店が無事開店できそうでよかった。ほかの店も……大丈夫そうだな」
クロエと話しながら振り返る。
正面入り口からは、続々と従業員が出てきていた。
横にいたアンナさん、クロエ、とことこやってきたバルベラ。
手を繋いだファンシーヌさんとコレット、行商人さんの奥さんとすっかり健康になった娘さん。
店舗担当の全身甲冑スケルトンに、元エプロン付きスケルトンが入った着ぐるみスケルトンのアンデッド組。
猫人族、港町の面々、ファンシーヌさんの実家の人たちに商人ギルド長一行、ドワーフさんたちもぞろぞろと。
馬車まわしには黒鉄輸送隊の馬車が入ってきて、御者の行商人さんがさっと下りた。
護衛の全身甲冑スケルトンはアイヲンの敷地入り口で整列してる。「開店まで少々お待ちください」の札を持って、ついてきたお客様を整理してる。並ばせるって意味でね。不要なものはなくすって意味じゃなくてね。
「じゃあ、このまま朝礼をはじめようか」
俺が店長になってから100日目のアイヲンモール異世界店。
特別な日の、開店準備は整った。





