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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十三章 テナントを集めてアイヲン「モール」異世界店、リニューアルオープンだ!』
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第十三話 どうしたカロル? なんでも聞くといい! 里を出て聖騎士となった! この私に!


 俺が店長になってから48日目のアイヲンモール異世界店。

 昼休憩とちょっとしたトラブル——オオカミ撃退——を終えた俺は、店内を歩いていた。


「里では考えられないほど大きな建物でしたが……中も本当に広いですね。お城のようです」


「ありがとうございます。フロアは三階までありますからね、もっと広いんですよ?」


「ふぅはははは! どうだカロル! 私が働く店はすごいだろう!」


「落ち着けクロエ、騎士が店で働くことを誇っていいのか。いやうれしいけども」


「ふふ、『ばっくやーど』や()()を入れるともっと広いんですよ?」


「その辺は見せませんけどね。……待ってくださいアンナさん。地下? 俺が見たところだけじゃなくて?」


 定時巡回、じゃなくてエルフの里からやってきたクロエの妹のカロルさんの案内だ。

 いいところを見せたクロエも張り切ってついてきてる。

 あとアンナさんも。


 午後遅めの時間帯だからお客さまは少ないけど、ほかの従業員は通常営業だ。

 メインの売り場を外にしてることもあって、建物内は閑散としてる。

 エプロン付きアンデッドたちも姿を見せない。カロルさんいるし。


「そうだ! ナオヤ、あとで街に行ってきてもいいか?」


「ん? どうしたクロエ、何かあったか? ひさしぶりに妹さんと会ったんだし、アレなら従業員用アパートに泊まっても」


「先ほどのオオカミを肉屋に卸さねばな! だが肉はクセが強い、分けてもらうより別の肉を買って、屋上でBBQするのだ!」


「ああ、なるほど。そうだな、だったら遅くならないうちに行ってきちゃった方がいいんじゃないか? 中抜けか早上がりでつけとくぞ」


 クロエがうれしそうに笑って、腰につけた〈アイテムポーチ〉をぽんと叩く。

 家出娘だけど、妹さんとの仲は悪くないらしい。

 けど。


「お姉ちゃん? ちょっと聞いてもいいかな?」


「どうしたカロル? なんでも聞くといい! 里を出て聖騎士となった! この私に!」


「その〈アイテムポーチ〉、どうしたの?」


「これか? これはオンディーヌの里を出る際に、あっ」


 クロエの目が泳ぐ。

 たらーっと冷や汗が落ちる。

 カロルさんは微笑みを浮かべたままクロエを見つめている。


「そういえば前に言ってたな、貴重な〈アイテムポーチ〉は里を出る時に」


「ナ、ナオヤ!」


「ほらクロエ、『なんでも聞くといい』っていま言ったろ。ちゃんと答えとけって」


「だ、だがだな」


「あてのない旅に出る時はそりゃ必要だったろうけど……クロエはもうアイヲンモール異世界店で働いてるし、いまじゃ街までの送迎馬車もある」


「私の〈アイテムポーチ〉もあります。ナオヤさんやクロエさんにならいつでもお貸ししますよ」


「ありがとうございます、アンナさん。ほら、クロエ」


「う、うむ……」


「黙って持ってきたものは、返して謝った方がいいだろ。許してもらえるかは別として」


 クロエは一度うつむいて、ぽん、と軽く〈アイテムポーチ〉を叩いた。

 顔を上げてカロルさんの目をまっすぐ見つめる。


「その、私は家から〈アイテムポーチ〉を持ち出してしまった。すまない。父様と母様に返しておいてくれないだろうか」


 びしっと頭を下げて、〈アイテムポーチ〉をカロルさんに差し出す。

 そんな家出娘、もとい、クロエを見て、妹さんはにっこり笑った。


「お父さんとお母さんは、お姉ちゃんが〈アイテムポーチ〉を持って出たことに安心してたよ」


「えっ」


「家の食料が入ってたからね。『クロエが飢えて死ぬことだけは(しばらく)ないだろう』って」


「親の愛とクロエの生活力のなさを見た。一緒に暮らしてたんだ、そりゃ見透かされてるよな。あとバレてるよな」


「だから、〈アイテムポーチ〉はお姉ちゃんにあげるって」


「そ、そうか! お父様とお母様が! ではこのオオカミ肉は贈らなくていいのだな!」


「そこ気にしてたのかよ! いい話だと思ったのに!」


 家出したクロエが勝手に持ち出した貴重品を返して謝って、けど実はご両親は最初から許してて返す必要はない。

 親の愛と娘の反省を感じるいい話かと思ったら……娘は、中身の肉を惜しんでたらしい。

 がくっと項垂れる。スケルトンなら頭骨が落ちそうなぐらい。


「ドラゴン肉やハンバーグはカロルが帰る時に用意しよう! お土産に持っていくといい!」


「それは分けるんだ。というか自分の分を確保してたんだ」


 クロエの価値観がわからない。

 カロルさんが苦笑してるあたり、エルフの価値観でもないらしい。うん。


 いやーよかったよかった、とばかりにクロエが胸を撫で下ろす。

 にっこにこで向き直って、通路を進み出したところで。


「お姉ちゃん、もう一つ聞きたいんだけど」


「ん? なんだ?」


「それ………………精霊剣だよね?」


 クロエが止まる。

 カロルさんはじっとクロエの腰の剣を見てる。

 振り返る前に、クロエはささっと剣を外して背中に隠した。


「いやバレバレだろ。さっきオオカミを仕留める時に使ってたじゃん。木剣なのに『剣の錆にしてくれる!』って」


「クロエさん……」


「う、うう……」


 往生際悪くイヤイヤと小さく首を振るクロエ。

 カロルさんは笑顔のままクロエに詰め寄る。

 この姉妹は姉より妹の方が強いっぽい。


「すまない……」


 ようやく観念したのか、クロエが剣を差し出した。

 弓が苦手なクロエにとって、たぶん、実家にあった一番の武器を。


 木剣——精霊剣エペデュポワ——はしばらく差し出されたままで。


 カロルさんが、木剣をそっと押した。


「お父さんから伝言です」


「う、うむ」


「『クロエが、自分の身を守れるいい武器を手に入れたら返してほしい』だって。それまでは持ってていいって」


「お、おお、おおおおおおお!」


「お父さんもお母さんも私も、弓の方が得意だから。行方知れずならともかく、『使われない家宝』ではなく『使える武器』として使ってほしいって」


「ありがとうカロル! ありがとうお父様お母様!」


「よかったな、クロエ。気に入ってたみたいだし、木なのに斬れる不思議名剣だもんな」


「ですがナオヤさん、『精霊に祝福された素材で作った武器』以上か同等、少し劣る程度の剣を手に入れるのは難しいですよ?」


「たぶん、無期限で貸しておくってことだと思います。それと『家宝の剣を貸している以上は行方不明にならないように』かな」


「なるほど! ふふ、愛されてるんですね、クロエさん」


「ええ。ほんと、家出娘の家族が来たって聞いた時はどうなることかと思いましたが……いい方向にいったようでなによりです」


 ほんとよかった。

 クロエが持ち出した物はともかく、連れ帰るって言われたらどうしようかと思った。

 シフト的な意味じゃなくね。クロエの意思を大事にしたいって意味でね。


 けど、落ち着いてカロルさんを見てられるのはここまでだった。


「そうだ! ナオヤさんにも聞きたいことがあるんです」



 俺が店長になってから48日目のアイヲンモール異世界店。

 家出娘クロエの妹、カロルさんの訪問は、まだひと波乱ありそうです。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 精霊剣の同等の武器…ドラゴンの牙や爪製かリッチの爪やデュラハンの剣とか…あるな!
[気になる点] 今更ですが 10年ニートの転移先と同じ世界だったり …しないかなぁw ニートは転移しなかったけどアイオン社員が転移して交流してた世界とか 幼馴染が一緒に行く場合や みんなで転移する…
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