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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十三章 テナントを集めてアイヲン「モール」異世界店、リニューアルオープンだ!』
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第十二話 大人しく森に帰れば見逃したものをッ! このクロエを狙ったこと、後悔するがいい!


「食事はどれも美味しかったです。姉が自信を持ってオススメするのもわかります」


「ありがとうございまぁす。じゃあ次は店舗を案内しましょうか。開いている場所だけですが」


「よろしくお願いします」


 俺が店長になってから48日目のアイヲンモール異世界店。

 クロエの妹のカロルさんは、イートインスペースで食べられるお惣菜をひと通り試食してもらった。

 好みはあるけどどれも美味しくて満足してもらえたみたいだ。

 あ、あまった分はのちほど美味しくいただきます。バルベラが。


「ん? あれ、クロエはどこ行った?」


 せっかくだからクロエが仕事してるところをもっと見てもらおうと思ったけど、そのクロエがいない。

 外に作ったイートインスペースや特設ブース、馬車まわし(ロータリー)にもいない。


「休憩か? いないなら仕方ない、店内を案内するか」


「クロエさんは周辺の見まわりに出たようです」


「おわっ! 急に後ろから話しかけるのはやめてくださいアンナさん! はーびっくりした」


「そんな……いま気配がまったく……私にも魔力を感じさせないなんてどれほど魔力遮断に手慣れているのか……」


「隊長やみんながお店を手伝ってますから、周辺の警戒が手薄になるんじゃないかと心配してくれたようですね」


「あー、なるほど。……やっぱりもっと人を雇いたいなあ。警備職に限定すれば採用のハードル下げられるか?」


「ふふ、もっと増やすという手もありますよ?」


「やめておきましょう。どうしてもヤバくなったら相談ということで」


 カロルさんはアンナさんとの会話に入ってこない。

 俺と話すアンナさんをじっと見つめてる。

 ……なにか感じるものがあるんだろうか。バレませんように、もしくはバレても問題ありませんように!


 気をそらすものはないかとキョロキョロする。

 と、使ってない土の駐車場の先、森の切れ目からクロエが飛び出してきた。


「おっ、あそこにクロエが!」


「ほんとだ。何してるんだろお姉ちゃん、なんだか急いでるような……」


「見まわりに集中して、帰ってくるのが遅くなったとか? そんなに慌てなくていいのに」


「違います、お二人とも。クロエさんは——」


 森から走り出てきたクロエが、見通しのいい土の駐車場で立ち止まる。

 ちなみに駐車してる車はない。馬車もない。

 クロエは森の方へ振り返って、腰から剣を抜いた。

 剣身が陽光を反射してギラリと光——らない。クロエの剣は木でできた木剣なので。


 クロエを追うように、森から小さな影がいくつか飛び出してきた。


「野良犬? しかも五匹、いや七匹? ヤバイ、興奮してる! 保健所に電話しないと!」


「落ち着いてくださいナオヤさん。あれは犬でもモンスターでもありません。ただのオオカミです」


「けどアンナさん! 怪我人が出たら大変です! 不可抗力とはいえアイヲンの敷地内でお客さまや従業員が野良犬に噛まれたら! 大事件ですよ新聞載っちゃうし行政指導や本部の査察が」


「ナオヤさん、ここは異世界です。それに、あそこにいるのはクロエさんで、ここにいるのは私ですよ」


「はっ! そうか、クロエは聖騎士でアンナさんはリッ——すごく強くて。じゃあ大丈夫、ですか?」


「大変! 待っててお姉ちゃん、いま私が!」


「大丈夫です。見ててあげてください。ナオヤさん、カロルさんも」


 慌てる俺を、余裕のアンナさんがなだめる。

 見れば、クロエも落ち着いてる。

 七匹のオオカミに囲まれてるのに。


 カロルさんは、背負っていた弓を取り出して構えたところで、俺と同じようにアンナさんに止められた。

 あ、カロルさんは弓を使うんですね。すごくエルフっぽいです。


「大人しく森に帰れば見逃したものをッ! このクロエを狙ったこと、後悔するがいい!」


 木剣でビシッとオオカミを指して、クロエはノリノリだ。

 なんかいつもより芝居ががってる気がする。

 というかチラチラこっち見てる。


「えーっと、いちおうお客さまを避難させた方がいいだろうか」


「心配いりませんよ、ナオヤさん。相手は単なるオオカミです。万が一クロエさんが抜かれても私がいますし、みんなもいます」


「張り切りすぎてミスっても問題ないと」


「はい。ほら、お客さまも」


 振り返ると、外のイートインスペースで食事してた冒険者さんたちの一部が前に出てた。

 オオカミがこっちに来たら、商人や戦えない街の人を守るつもりなんだろう。

 ただ臨戦態勢というより、クロエの戦いを近くで見たいって感じだけど。


 お客さまの目に入らない端の方では、全身甲冑(フルプレートメイル)スケルトンが数体スタンバイしてる。

 ちょっ、隊長の骨の馬は連れてこないでください。隠しようがないんで。そのまま隠れててください。


 あ。

 屋上から、バルベラが覗き込んでる。

 いざとなったら飛び降りるつもりでしょうか。それともそこからブレスをかますんでしょうか。


 アイヲンモール異世界店は、あいかわらず過剰戦力だ。

 モンスターでもないオオカミに、被害を受けることはないだろう。

 安心して向き直る。


「退かぬというならば! 剣の錆になるがいい! たあっ! てあっ!」


 飛びかかってきたオオカミをクロエが斬り捨てる。

 一匹、二匹、危なげなく。


「すげえ……騎士は伊達じゃねえってことか」

「やるじゃねえかクロエちゃん! いけ! そこだ!」

「獣の方が戦力差を理解しないのかねえ。モンスターなら引くだろうに」

「どうせなら一角ウサギか突撃イノシシあたりならメシになったのになあ」

「クロエちゃーん! がんばったら明日お野菜サービスするよ!」


 キレイな剣筋と体捌きに、冒険者さんから感嘆が漏れる。声援が飛ぶ。

 ところでその剣は木剣なわけで錆びないんじゃないだろうか。


 クロエはあっという間に六匹を斬り倒して、残るは体の大きな一匹だけだ。

 最後の一匹にクロエが剣先を向ける。


「勝てないとわかっただろう。退けば命は取らない。これに懲りたらアイヲンを、人を襲わないことだ」


 勝てないと悟ったんだろう。

 最後のオオカミは、くぅーんと情けない声をあげて反転した。森に逃げていく。

 クロエは満足げに剣を納めて、離れてるのにむふーっと鼻息が聞こえてきそうなほど自慢げな顔でこっちを見た。


「お姉ちゃんはあいかわらず甘いね。仕返しに来たらどうするの。悔しさを糧に、強力なモンスターになったら」


「…………え?」


 森に逃げ込もうとしたオオカミが、ぎゃんっと悲鳴をあげて倒れた。

 頭に矢が刺さってる。


「……100メートル以上はあったような。しかも走ってるオオカミの、小さな頭を」


「これだけ見通しがよければ、100回やっても外しません」


「百発百中ですか。やっぱりエルフは弓が得意なんですね。けど……」


 仕留めたのはカロルさんだった。

 弓の腕はすごい。すごいけど、オオカミは逃げようとしていたわけで。

 無用な殺生に思えてしまう。


「カロルさんが言ったように、いまはよくてもいずれ人に害を為すかもしれません。アイヲンは心配ありませんが、街道や森で人が襲われるかもしれません。殺した方がいいことは間違いないんですよ」


 俺の疑問を感じ取ったんだろう、アンナさんが解説してくれた。

 チラッと見ると、冒険者さんはうんうん頷いて、行商人や街の人はほっとしてる。


「なるほど。『かわいそう』って思うのは、平和な世界で暮らしてたせいですね」


「生かして帰そうとしたクロエさんの判断も間違いではないんです。あのオオカミが『ここは危険だ』『人は強い』と知れば、森から出ることはなくなるかもしれませんから」


「どっちが正解とも言えないと。ただまあ、また出るリスクがあるなら仕留めちゃった方がいいかなあ。お客さまに何かあったら……」


「ナオヤさんはお姉ちゃんほど甘くないんですね。安心しました!」


「はあ。ありがとうございます?」


 にっこり笑うカロルさんにお礼?を言う。


 見ると、クロエはむすっとした顔でオオカミの死体を〈アイテムポーチ〉に突っ込んでく。

 単なる片付けか、毛皮が素材にでもなるんだろうか。


 なにはともあれ被害が出なくてよかった、と胸を撫で下ろしたところで。


「……〈アイテムポーチ〉? それに、さっきの剣。やっぱりお姉ちゃんが……」


 ぼそっと呟いた、カロルさんの声が聞こえた。


 ……。

 …………。

 そういえば、家出娘さんは家出する時に家からいろいろ持ち出したって言ってませんでしたっけ。

 貴重なアイテムポーチと、精霊に祝福された木で造られた家宝の剣なんかを。



 俺が店長になってから48日目のアイヲンモール異世界店。

 家出娘クロエの妹さんは容赦ないしずいぶん目ざといみたいです。クロエと違って。



遅くなりました……

次話は7/24(金)18時更新予定ですが、

諸事情により更新遅れるかもしれません。


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