第七話 水臭えじゃねえか店長さん! 猫人族が店を出すってんのに俺には声かけてくんねえのか!?
俺が店長になってから42日目のアイヲンモール異世界店。
午前中とお昼のピークを越えて、俺はいま正面入り口のロータリー前にいた。
「現状、午前中からお昼はこんな感じです。もっともっとお客さまを増やすつもりですが」
「冒険者さんや商人さんがたくさんいらっしゃるのですね」
「みんニャ美味しそうにおさかニャ食べてたニャ! 毎日食べられるのは魅力的だニャ!」
「あニャた、好みで決めてはいけませんよ」
「そうだった! もちろんそれだけじゃニャい!」
営業時間中は、テナントに入ることを希望してる猫人族の二人に客層を見てもらった。
客数も客層もよく、二人とも前向きに検討してくれるらしい。
ただ——
「では、商品を確保できるかどうかですね」
「うう……がんばってくる……みんニャ気分屋だからニャあ」
——現状では、予想される客数に対して商品が足りないらしい。
しかも猫人族はみんな気まぐれで、里に帰って交渉が必要なんだとか。
猫っぽい。本人たちは「猫っぽい」のは幼い証で恥ずかしいみたいだけど。
「ちニャみに私たちが希望した場合、ニャオヤさんは受け入れてくださるのでしょうか?」
ロータリーに小さな荷車を停めた三毛さんが聞いてくる。
ひゅっと首だけ動かしてこっち見るの猫っぽくてかわいい、じゃなくて。
「はい。商品数を確保できるようでしたら、ぜひお願いします」
「やった!」
「ふふ、楽しみですね、あニャた。がんばってみんニャと交渉しましょう!」
ためらうことなく答えると、二人の猫はぱあっと顔を輝かせて飛び跳ねる。
昨日、アンデッドを紹介して受け入れてもらったあと、俺なりに考えてみた。
といっても、猫人族のお店だから迷ったわけじゃない。
二足歩行する猫はかわいいし、じゃなくて、それはいいとして。
アイヲンモール異世界店の客層と、二人が扱う魔法陣つきの布や服、装飾品は親和性が高いと思う。
どれにどの模様——魔法陣——を縫い込むかは猫人族の職人さんの気分次第らしいけど、一点モノと考えたら問題ないだろう。
俺がためらったのは、初めて「テナントを入れる」決断だったからだ。
けっきょく、クロエやアンナさん、ファンシーヌさん、行商人さんに相談して後押ししてもらった。
「店長としてはまだまだだなあ」
「うふふ、ナオヤさんはそれでいいと思いますよ」
「アンナさん?」
「お二人とも、お待たせしました」
俺の疑問に答えることなく、アンナさんはすっと背後を示す。
そこには、マントをまとった全身甲冑スケルトンがいた。
腰には剣を佩いて、いつもは持ってない大きな盾を背負ってる。
もちろん顔は見えない。もともとないけど。
「なんというかこう、間近で見ると迫力ありますね……」
「ふふ、ありがとうございます。間近で見ても問題ないように、ちゃんと鎧下と手袋、『らばーますく』もつけていますよ」
「わあそれなら安心ですね」
我ながら棒読みになった気がする。
兜の隙間——スリット——から中を覗き込もうとすると、ひゅっと黒いモヤが顔を出した。
「おわっ! あ、ゴースト入りなんですね」
「いざという時のために、戦力はあった方がいいですもの。それにこの子たちは疲れないし眠りませんから、夜営の見張りにも持ってこいなんですよ」
「わあすごく安心ですね」
ゴーストはすぐ引っ込んだ。
いくらお客さまが少ないとはいえ助かります。
バレても猫人族の二人みたいにみんな受け入れてくれるわけじゃないと思うんで。
「その、二人は大丈夫ですか?」
「問題ニャいニャ!」
「ええ。私たちが戦えると言っても、護衛をつけてくださるのは助かります。ニャにからニャにまでありがとうございます」
「は、はあ。二人がいいんならいいんですけど……道中ほんと気をつけてくださいね? バレないようにって意味で」
不安だ。
キジトラさんは細剣で戦うフェンサーらしい。ちなみに長靴をはいてる。
三毛さんは弓と魔法で戦えるそうだ。
二人でここまで旅してきたんだし、全身甲冑スケルトンの強さも知ってるけど不安だ。
強さよりもバレないかどうかが。
「心配いりませんよ、ナオヤさん。いざという時の手はあります」
「それ穏便な手ですよねアンナさん? せめて〈幻惑〉の魔法とかですよね?」
アンナさんは微笑むだけで答えない。
最寄りの街まで二人で来られたんだし全身甲冑スケルトンの護衛はやっぱり止めようか、と思ったところで。
「ナオヤ! お客さんだぞ!」
「クロエ? お客さんならいつも通りに接客を……」
「違う違う! ナオヤに話があるそうだ!」
クロエに呼び止められて振り返る。
が、誰もいない。
「おいクロエ? いま忙しいから遊びたいなら仕事後に」
「おうおうおう! 話は聞かせてもらったぜ店長さん!」
誰もいないのに、声がした。
クロエの背後、声が聞こえてきた足元を見る。
「水臭えじゃねえか店長さん! 猫人族が店を出すってんのに俺には声かけてくんねえのか!?」
そこには、イグアナがいた。
小さなハットをかぶってリュックを背負って、見た目イグアナなのに喋れるイグアナ、じゃなくて竜人族。
「あ、おひさしぶりですクアーノさん」
「おう、顔を合わせンのはひさしぶりだな! じゃなくてよォ!」
「はあ」
「猫人族が『てなんと』ってヤツに店を出して里のモン売るなら、港町の店を出して港町のモンを売りてえんだが!?」
イグアナが胸をそらして、キシャー!と主張する。
「あっはい」
「ウチの売りは魚だけじゃねえんだ! 海を渡ってくる珍しいモンがいっぱいあるんだぜ?」
「そういえばそうでしたね。えっと……」
「僕たちのことは気にしニャいで話を進めるといいニャ」
「ええ。では、私たちは出発します。里との交渉の結果がどうであっても、帰りはまっすぐこちらに来ますね」
「すみません、ありがとうございます。では、またのお越しをお待ちしています」
「お気をつけて。みんな、ちゃんとこの子を守るんですよ」
「……みんな? アンナさん、みんなって?」
「いいか、二人とも。ニンゲンに騙されないよう充分注意するのだぞ! 乗合馬車には乗車賃が必要なことを忘れるな! でないと『お代はカラダで払っていただきましょう』などと迫られて! くっ、殺せ!」
「二人でここまで来たんだ、大丈夫だろ。むしろよく一人で街まで無事にたどり着けたなクロエ」
キジトラさんが小さな荷車を引いて出発する。
三毛さんはその横を歩き、全身甲冑スケルトンは斜め前の位置をとった。
なんというか、甲冑の威圧感で襲ってくるヤツはいない気がする。
「っと、邪魔したみてえですまねえな店長さん!」
「いえ、ちょうど見送るところでしたから。じゃあ詳しい話をしましょうか」
「おう、頼む!」
二人と一体——あとゴースト——を見送って向き直る。
見た目イグアナのクアーノさんは、ノリノリでひょこひょこ歩き出した。
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから42日目。
さっそく二組目のテナント希望者が現れたようです。
案外こういうのは、最初の一人が出たら立て続けに来るものなのかもしれない。
ところで猫人族の里の店に続いて港町の店って、アイヲンモール異世界店はふるさと交流館になるんでしょうか。
流通網が充実してないこの世界ではそれもありだろうけどさあ……。





