第四話 テナントスペースはここです。最初は、スーパーに近い一階から開けていく予定です
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから41日目。
俺はいま、最寄りの街からアイヲンモール異世界店に続く街道の途上にいた。
もちろん一人じゃない。
「うう……父様も母様も、私を里に連れ戻すなどと言い出さないだろうか……」
「大丈夫だろ。クロエは聖騎士で、いまはアイヲンモールの従業員として立派に働いてるんだし」
「り、りっぱ……? なっ、私を褒め倒してナニをするつもりだっ!? ま、まさか、『かくまってやろうか——俺の部屋で』などと言って私を監禁するつもりでっ!?」
「あいかわらず飛躍がすごいな。褒められた程度でついていくな」
護衛兼案内役兼、商人ギルド長が面倒なことを言い出さないための監視役として、クロエに同行してもらってる。
両親への手紙の配達を冒険者ギルドで頼んで以来、ずっとこんな感じだけど。
俺まで不安になってくる。
どうかトラブルになりませんように。
街道を歩いているのは俺とクロエだけじゃない。
「そうですか、お二人ともお強いのですね」
「ふふん、それほどでもニャいニャ!」
「私はともかく、この人は里一番の使い手と言われていたんですよ」
商談に同席してくれたファンシーヌさん。
それに、アイヲンモール異世界店のテナントに興味を持ってくれた猫人族の二人もいる。
あ、二足歩行する猫のお二人は戦えるんですね。武器は見た目だけじゃないんですね。
猫人族の二人のうち、キジトラの人の方は腰に細剣を差してる。
奥さん? の三毛に褒められてうれしいのか、剣は持たずにシュッシュと素振りを見せる。戦えない俺には、強いかどうかわからない。かわいいのは確かだけども。
三毛の人の方は武器を持っていない。けど戦えないわけじゃなくて、爪と牙で戦う猫人族の伝統的なスタイルらしい。猫だもんね。
猫人族の二人は、小さな荷車を持っていた。
肩を落としたクロエが引っ張る荷車には商品が乗っているそうだ。
けっきょく俺は、商人ギルド内ではなくアイヲンモール異世界店で商品を見せてもらうことにした。
あの場には抜け目ないギルド長がいたし、なによりアイヲンモール異世界店を案内してから具体的な話をした方がいいと思って。
俺、覇気のないクロエ、街での用事を済ませたファンシーヌさん、猫人族の二人。
五人の道行きは順調だった。
モンスターが出なかったおかげで二人の戦闘力はわからない。
けどまあ、二人で旅をできるほどなんだ、きっとそれなりには強いんだろう。
戦う猫の姿を見られなくて残念です。
「ニャッ、ニャんだこれ!? ニャんておっきい建物ニャんだ!?」
「まあ、まるでお城か……砦のようですね!」
「あ、アイヲンモール異世界店を見たことなかったんですね」
「こここれがアイヲンモール!? ここの『てにゃんと』に入れてもらえるの!?」
「ほら、落ち着いてあニャた。口が半開きになってますよ」
一時間ほど街道を歩いて、俺たちはアイヲンモール異世界店にたどり着いた。
外観を見た猫人族の二人は、飛び上がらんばかりに驚いてる。というか飛び上がった。おすまししてる三毛さんもさっき飛び上がってた。
「もちろん、おたがい商売のプラスになると思えれば、テナントに入ってもらいますよ」
「ふふ、お二人とも。まだ驚くのは早いと思いますよ。ナオヤさんのすごさはこれだけではないのです」
「いやファンシーヌさん、そこは俺がすごいわけじゃないですから。この異世界に日本のアイヲンモールとほぼ同じものを建てたのはほんと驚きますけど」
「ま、まだニャにかあるのかニャ?」
「あニャた、まだ私たちはお店を出していい場所を見せてもらってませんよ」
キジトラさんはくりくり目を輝かせて、三毛さんは落ち着きを取り戻したっぽい。
けど、それも一瞬のことだった。
アイヲンモール異世界店を案内していくと、二人は何度も驚くことになる。
「ここがいま営業しているスーパー、日用品、ドラッグストアコーナーです」
「ニャッ!? 建物の中ニャのに外みたいに明るい!?」
「わあ! ふんだんに魔道具を使っているのですね!」
入り口から店舗内に入っただけで、ぽかんと口を開ける。
「イートインスペースは外ですが……今日は特別に、お惣菜をフードコートで食べましょうか」
「ウニャッ!? さ、さかニャ!? しかも海のヤツだニャ!」
「まさか、こんニャに海から離れた場所で海のさかニャを食べられるなんて……」
おもてなし兼、アイヲンモール異世界店で販売している商品を知ってもらうために振る舞ったお惣菜にヨダレを垂らす。
ちなみに魚は大好物で、出店は港町も考えたけど暑くて断念したらしい。
喜んでもらえてなによりです。ニャによりです。
「テナントスペースはここです。最初は、スーパーに近い一階から開けていく予定です。いずれテナントが増えていったら、移動していただく可能性はありますが……」
「ここを何人で使うのかニャ? 10人ぐらい?」
「あニャた、10人ということはニャいでしょう。20人程度は入れるのではニャいでしょうか」
「いえ、この一区画で一店舗です。つなげて二区画、三区画を一店舗で使うことも可能ですが……」
「ニャッ!? こ、こんニャに広い場所を、ひとつのお店で……? じゃ、じゃあ、僕たちが借りたら……」
「お、落ち着いてあニャた、そんニャにうまい話はそうそうニャいわよ」
「はい。お二人がテナントに入る場合は、この一区画に入っていただくことになりますね」
「ウニャニャッ!?」
「お、落ち着いて、落ち着くのよ。そうよ、きっとお高いお値段ニャのだわ。私たちには払えニャいぐらいの」
テナントスペースを見て、基本は一区画一店舗だと説明すると、驚きのあまり毛を逆立てる。
あ、なんか意味もなくウロウロしだした。猫っぽい。
「ご希望なら従業員用のアパートもあります。街に住む場合は、通勤に無料送迎馬車を使っていただいてもかまいませんよ。開店や閉店の時間も、異世界店ではある程度融通を効かせるつもりです」
「も、もう驚き疲れたニャ……」
「本当に……」
アイヲンモール異世界店の裏手にある従業員用アパートを見せると、二人の猫人族はちょっとだけ四足歩行になった。
猫人族なりの現実逃避らしい。ニャにこれかわいい。
「ざっとこんなところでしょうか。トイレやバックヤードはまたあとで見ていただくとして……テナントの具体的な話に入りましょうか」
「お願いしたいニャ……」
「はい、よろしくお願いします。では商品を持ってきますね」
なんだか疲れた様子のキジトラさんをよそに、三毛さんは張り切って荷車に向かった。
が、ピタッと立ち止まる。
「……持ってきた」
「おー、ありがとうバルベラ」
「ニャッ、ニャニャニャッ!? 荷車ごと!?」
「す、すごく力持ちニャのですね……ありがとうございます……」
小さな荷車を、商品ごと頭上に掲げたバルベラを見て。
これ大丈夫だろうか。
バルベラでこれだと、エプロン付きスケルトンとかスケルトン部隊とか全身甲冑スケルトンとか、ゴーストとか着ぐるみゴーストとか、リッチのアンナさんとか大丈夫だろうか。アンデッド多いな! いつもお世話になっております!
ともあれ。
ここまでの二人の反応は好感触なんだと思う。
あとは、テナントに入ってもらうことでおたがいの商売に利があるかどうかだ。
俺が店長になってから41日目のアイヲンモール異世界店。
ようやく、具体的な話に入れそうです。
クロエ? 仕事にならなそうなので休憩してもらってます。外でぼんやり空を眺めてるってさっきアンナさんから報告もらいました。
けっきょくいつも通り金曜18時更新になりました……
次話は明日5/30(土)18時に更新します!
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