第十五話 カリスマ実演販売士かな? 案外、クロエにはこういうの向いてるのかもな。愛されキャラ的な
俺が店長になってから40日目のアイヲンモール異世界店。
4回目のドラゴンセールは出だしから好調だ。
「くうっ、これこれ! 気軽に魚が食べられるってのはいいねえ!」
「はっ、これだから新参は。ここは肉喰うとこなんだよ、なんたって『ドラゴンセール』だかんな!」
「お待たせしました! 今日届いたばかりの新鮮なお魚ですよ!」
「これさかな、か……?」
「待て待て待て。これはいまから焼くんだよな? そうだよなコレットちゃん?」
「くふふっ、わかってませんねえ。これはこのまま食べるのがツウなのです。ああ、懐かしい」
「おまえ正気か!? 魚を生で食ったら腹壊すぞ!? 腹破られるぞ!?」
「心配いりませんよみなさま。そのままでも食べられるところを、開店前に騎士さまと薬師さまに『浄化』していただきましたから」
ファンシーヌさんが説明すると、魔法使いっぽい冒険者さんは「それは感心」とばかりに頷いた。
まあ、説明されてもまわりの冒険者さんたちはドン引きだ。
港町直送の、生で食べられる例の魚?は受け入れられないらしい。
今度イグアナ、もとい、竜人族のクアーノさんに言って仕入れはやめてもらおう。もともと頼んでないけど。
4回目のドラゴンセール。
前回よりテーブルもイスも増やしたイートインスペースは、午前中なのにほぼ満席だ。
今日はファンシーヌさんとコレットがお惣菜の調理販売にまわってる。
混雑するイートインスペースの隙間を、イヌやネコやウサギの着ぐるみが歩く。
着ぐるみゴーストはバッシング——テーブルの後片付け——担当だ。
やたら楽しそうなのは、新しい仕事で張り切ってるんだろう。
「よしよし。あそこは、例の『生で食べる魚?』以外は問題なさそうだな」
頷いてうろうろ動きまわる。
なにしろ今回のドラゴンセールは人手が足りない。
俺だけは一人浮いた配置で、混雑が見られればすぐサポートに入る予定だ。
イートインスペースを出て、街道から続く正面入り口の馬車まわしを見る。
無料送迎馬車のほかに、最寄りの街から馬車に乗り合わせてくる人も多い。
まだ午前中なのに馬車まわし周辺は混雑してた。
けど、混乱はない。
怒号もない。
みんな大人しく、従業員の指示に協力してくれてる。
なにしろ——
「おう、降ろし終わったらさっさと退け!」
「バカ、いま退くから大人しく待ってろ!」
「んだ? なに焦ってんだ、んなヒマあったら早く馬車動かせ!」
「やめろ揉めるな!」
「はあ? なんだってんだいちいち……ヒエッ」
——ちょっと騒がしくすると、全身甲冑の人たちが飛んできて無言のプレッシャーをかけてくれるから。
馬車の御者さんと冒険者さんの大きな声が聞こえたんだろう。
六人一組の全身甲冑が馬車に近づいて、「ご協力お願いします」の札を掲げる。
「わ、わかってる、いまのはケンカじゃねえ、ちょっと友達とじゃれあってただけだ、な、なあ?」
「おう! なにしろ街には馬車を待ってる人も多くてな! わりいわりい!」
御者さんと冒険者さんの言葉を聞いて、全身甲冑の六人がガシャっと鎧を鳴らして離れていく。
冒険者さんでも、揃いの全身甲冑には無言の圧力を感じるらしい。
中身はスケルトンだけど、やっぱスケルトン部隊もただのスケルトンじゃないんだろうなあ……。
とにかく、布の服と手袋とラバーマスクの上に全身甲冑を着込んだスケルトン部隊のおかげで、馬車まわし周辺は混雑してるけど揉めごとはない。
ありがとうございます。
プレッシャーかけるのはいいけどバレないように気をつけてください。
「こっちも問題なし、と。じゃあ新商品の様子を——」
またふらふら歩き出す。
と、アンナさんの声が聞こえてきた。
「防水薄布は売り切れました。申し訳ありません」
「くあー、マジか! 小せえのに雨を弾くって噂聞いて買いに来たのによ!」
「仕方ありませんね……あの品質で、この値段なのですから。次回の販売はいつでしょうか?」
「ちっ、じゃあイス買ってくかなー」
「は? んなもん地べたに座りゃいいだろ。お貴族様気取りか?」
「やめてやれ。地面に座るのがツラいヤツもいんだよ。なあ?」
今日のアンナさんは薬のほかに、行商人さんたちと一緒に日用品を販売してる。
既存商品は行商人さん、新商品はアンナさんが売り込んでたみたいだ。
「レジャーシートはさっそく売り切れか。もっと用意できればいんだけど、なあ」
元の世界と〈小規模転移ゲート〉がつながるのは二週間から一ヶ月に一度だ。
それも、カゴ台車三台分。
仕入れられる量はたかが知れてる。
「そう考えると、月間売上一億円の目標を達成するには、こっちの商品を売るべきなんだよなあ。ドラゴン肉や海鮮みたいに」
アンナさんの売り切れ報告を聞いても、お客さまは無茶な要望を出すことなく引き下がった。
こっちの世界では、「売切御免」は普通のことらしい。
「反応がいいだけ良しとしよう。さて、今回の目玉は——」
4回目のドラゴンセールで売り出す新商品はレジャーシートをはじめとしたピクニック用品だけじゃない。
今回の目玉は、クロエやアンナさん、事前販売の反応がよかった商品だ。
「……持ってきた」
「うむ、ありがとうバルベラ! でははじめるとしよう!」
クロエに頼まれて、バルベラはバックヤードから段ボールを運んできたらしい。
重ねた段ボールは、見た目10歳のバルベラの体より大きい。
中身は軽いって知ってる俺はともかく、お客さまがギョッとして特設ステージに注目する。
うしろに全身甲冑スケルトンの一隊を引き連れて、クロエが特設ステージに上がる。
「さあみな、注目してほしい! 今回も驚くような商品があるんだ!」
「よっ、待ってましたクロエちゃーん!」
「配下もいるなんて出世してんじゃねえか聖騎士さま!」
「誰だあの美人? エルフか?」
「はっ、知らねえとはモグリかよ。街でも有名なポンコツ騎士様だぞ?」
「ほらほら、クロエちゃんを応援するんでしょ?」
「くろえおねえちゃーん! がんばえー!」
左右に三体ずつ全身甲冑スケルトンを侍らせてクロエが声を張り上げると、特設ステージ前のお客さまが沸いた。
登壇しただけで。
「カリスマ実演販売士かな? 案外、クロエにはこういうの向いてるのかもな。愛されキャラ的な。あとやっぱり『ポンコツ騎士』って街で有名なのか」
「くっ、みなそんなに褒めて私をどうする気なのだ!? ま、まさかナオヤのように、褒めて喜ばせて私を弄ぼうと!? くっ、殺せ!」
「まるで俺が弄んだみたいに聞こえるだろポンコツ騎士ィ! ちょっとでも感心した俺の気持ちを返せください!」
ついつい突っ込むと、集まったお客さまがドッと沸いた。
あ、うん、そういうショーじゃないんで。
いまのは台本じゃなくて素なんで。
…………まあ、うまいことツカミになったってことで。
俺が店長になってから40日目のアイヲンモール異世界店。
エルフの聖騎士にして「失格エルフ」「ポンコツ騎士」、クロエの実演販売がはじまる。
どうか「カリスマ実演販売士」でありますように。
せめてまともに商品説明できますように。





