第二話 次から造る前に相談してほしい。任せっきりだったからな、報連相をよろしくお願いしたい
俺が店長になってから32日目のアイヲンモール異世界店。
夜も明けきらない早朝、従業員用出入り口から店外に出た俺は、ぽかんと立ち尽くしていた。
「たしかに、途中までしか見てなかった。魚介の仕入れと『ドラゴンセール』でバタバタして、任せっきりだった」
アンナさんやスケルトンたちが中心になって造ってくれた建物を見てボヤく。
「平屋建ての、従業員用アパートのつもりだったんだけどなあ」
歩行者用通路と車用通路——こっちでは馬車用通路——を挟んで、アパートはコの字型だ。
中庭はアイヲン側にある。
中庭の真ん中にある小さな建物は井戸だろうか。
「いえ、あれは食料庫と地下入り口です。水は、アイヲンモール異世界店から各部屋まで引きました」
「へえ、それは便利ですね。……地下入り口?」
「うむ! なにかあった時のために、逃走経路は確保しておくべきだろう! 私の意見なんだぞ! 聖騎士たる! この私の!」
「ああうん、モンスターがいる世界だとそういうのもあった方がいいのか。アパートっぽくはないけど」
「地下入り口はアイヲンモール異世界店に繋がっています。もしもの時はあそこから戦力を補充しますね」
「はあ、戦力。アンナさんが言う戦力。つまりアンデッドですね」
ぼんやり見てると、アンナさんとクロエが解説してくれた。
従業員用アパートの建築には、クロエのアドバイスを取り入れているらしい。
国から派遣されてる、現役騎士の意見を。
「まあ! 外壁がない街の外でも、これなら安心ですね。私たちに配慮してくださってありがとうございますナオヤさん」
「ありがとうございます、店長さん!」
二人の解説を聞いて、ここに暮らすことになるファンシーヌさんとコレットは嬉しそうだ。
うん、従業員満足度は大切ですよね。うん。
「地下に隠し通路ってますます要塞っぽいけどなあ!」
「さあナオヤ、中を案内しよう!……待て、中、だと? まさかナオヤは! 『じゃあ中を案内してもらわないとなあ』などと私の体をまさぐりッ! くっ、やはりニンゲンはケダモノか!」
「いや中って言い出したのクロエだろ。朝から元気だな」
いつも通りのクロエを置いて、俺は歩き出した。
石造りでコの字型の、従業員用アパートっていうか要塞っぽい建物に向けて。
食料庫と地下通路入り口の建屋の横を抜ける。
アイヲンモール異世界店から出て正面、コの字型の奥の直線部分。
左右にせり出した石壁の圧迫感を気にしないようにして、扉を見る。
分厚い木製だ。
ちょっと開いてる隙間から見ると、中から閂がかかるようになってる。
「へえ、ずいぶん頑丈そうな扉だなあ」
「当たり前だろう! すぐ破れる入り口なんて入り口の意味はないからな! 破れる……入り口……? まさかナオヤは」
「ちょっと黙っててくれるクロエ? さくさく確認しないと開店準備はじめる時間になるからな?」
木製の扉を押す。
ギギッと重そうな音を立てて扉が開いた。
中は薄暗い。
「中まで石造り……明かりを足すか? それとも壁紙でも貼るか、ポスターでなんとか……なりそうにないなあ」
「すみません、内装はまだ間に合ってないところがありまして」
「いやあ、充分ですよアンナさん。急がせたのは俺ですから」
「アイヲンの紋章入りの旗を下げたらどうだ? そうだ! 屋上にも掲げよう! この砦はアイヲンのものであると知らしめるのだ!」
「砦って言っちゃってるじゃん。認めちゃってるじゃん」
頭が痛いけど気のせいだ。気のせいってことにする。
建物に入ると、二階まで吹き抜けの玄関ホールだった。
左右に部屋につながるっぽい扉があって、奥が廊下になってる。
奥側に、らせん階段がふたつ見えた。
「一階は左右にふた部屋あるだけ、かな?」
「こちら側にふた部屋、左右の張り出しにそれぞれふた部屋ずつ、合計6部屋です」
「はあ。あれ、二階はどうなってるんですか?」
「ふふ、あのらせん階段は二階に繋がってます。けれど、あれで行けるのは二階の廊下と屋上だけなんですよ」
「……え?」
「ふぅははは! 聞いて驚けナオヤ! この砦の居住すぺーすは! めぞねっとたいぷなのだ!」
「……え?」
「その、水をいったん屋上に引き込んでまして、一階と二階のどちらの部屋にも上下水を用意するのが大変で……ダメでしたか?」
「いやそれは構いませんけども。メゾネット、かあ。コレットたちは大丈夫か?」
「はいっ! えへへ、二階とも使っていいんだって! すごいねおかーさん!」
「本当に。いいのでしょうか、このような立派な砦に住まわせていただけるなんて……いざという時はこの身を盾にしてナオヤさん、いいえ、ナオヤさまをお守りいたします」
「重い! 重いですファンシーヌさん! 俺も行商人さん一家もここに住むんで気を使わないでください!」
「くっ、うらやましいぞナオヤ! こうなれば私も騎士団の宿舎を引き払ってこっちに」
「防衛面では安心だけど、クロエとご近所さんになるのはなあ……」
「なっ! なぜだナオヤ! もしや私が近くにいるとナオヤはたぎる獣欲を抑えきれずに部屋に侵入する危険性が! 知っているぞ、『夜這い』と言うんだろう!?」
「ないから。どこで知ったそんな単語」
この世界の人たちは、メゾネットタイプでも問題ないらしい。
まあ、上の階の足音が気にならないのはメリットだろう。
作る前に聞いたら「各部屋に階段作るの大変じゃないですか?」って止めただろうけど、もうできちゃってるし。
「んじゃ部屋の中を確かめてみるか。どの部屋から見ようかな」
「位置こそ違いますけど、基本はどれも同じ造りにしています。ご家族で暮らしても問題ないぐらいの広さも確保しました」
「ありがとうございます。けどまあ、左のウイング側、奥からまわってみようかな。廊下も確認したいし、ひと通り見せてもらいます」
玄関ホールの奥に向かう。
狭い窓、というより、単なる細い隙間からは、まだ薄暗い森が見えた。
手前は切り株が並んでる。
「あ、伐採もしてくれたんですね。だいぶ見通しがよくなりました」
「当たり前だろうナオヤ! 遮蔽物が多ければ、敵の接近を許してしまうからな!」
「なるほどなるほど。何と戦うつもりなんですかねえ……まさかこの窓が狭いのも」
「うむ! それは窓ではなく矢狭間だ! そこから矢を射かけたり、魔法を放ったりするんだぞ!」
「そっかあ。あれ? けど、こうやってコの字型にせり出してたら、集中砲火を浴びるから防衛しにくいような」
「はい。けれど、ナオヤさんは『何棟か建てるつもりだ』とおっしゃっていたもので。おーけーをいただけたら左右に建てて接続しようと」
「なるほどなるほど。森に対していくつか出っ張りがある形にするってことですね」
「……強い、たくさん、もっと強い」
「その通りだバルベラ! ここから矢と魔法で殲滅してもよし、引き込んで剣と槍で撃滅してもよし! 何人も落とせぬ砦になるだろう!」
「言ったけど。月間一億円を達成するには従業員を増やさないといけないし、それには従業員用アパートがもっとあった方がいいよなあって言ったけども!」
できたばかりなのに、従業員用アパートにはさらなる増築計画があるらしい。
一棟で6世帯って、いまも空きが出るのに。
「最終的には、アイヲンモール異世界店とつなげたいと思っています。馬車道の出入り口に門を設けて、そちらから搬出入するようにすれば、さらに安全になるかと」
「おおっ、ならば落とし格子がオススメだぞ! さっと塞げるからな!」
アンナさんとクロエがノリノリだ。
ファンシーヌさんは微笑んでて、コレットは目を輝かせて尻尾をぶんぶん振ってる。
バルベラはこてんと首を傾げた。よくわかってないらしい。
「砦が強化されてく。ただでさえ戦力過剰なのにさらに強化されてく」
ボヤく。
廊下を見ると、スリットは複数あるらしい。
いちおう木の扉を閉められるみたいだ。
防寒対策かな? 敵から射込まれないようにかな?
「よし。クロエ、アンナさん。次から造る前に相談してほしい。任せっきりだったからな、報連相をよろしくお願いしたい」
俺が店長になってから32日目のアイヲンモール異世界店。
完成した従業員用アパートは、アパートじゃないようです。
各部屋は普通だよね? 普通だって信じてる。普通だといいなあ。





