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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』

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第三十七話 これはこれは、魚を入れたスープですか。安定して魚介を仕入れられるようになったという噂は真実のようですねえ


「うめえ! うめえぞ兄ちゃん!」

「これがお魚の料理かい? なんだか味がしないねえ」

「塩をこれほどふんだんに……屋敷でさえここまでは……なんという贅沢な料理でしょう」

「捨てるのですか!? 多少臭いがついていても売れますよ!?」

「なあ小さいお嬢さん、ウチのパーティに入らねえか? あの跳躍はすごかったぜ」


 俺が店長になってから30日目のアイヲンモール異世界店。

 マグロっぽいものの塩釜焼きのデモンストレーションは好評で、来店されたお客さまは無料で振る舞われた魚料理に舌鼓を打っている。

 きっと街に帰ったら「アイヲンモール異世界店で魚料理を食べた」って口コミで広げてくれることだろう。よしよし。


「……む。小さくない」


「待て。待てバルベラ、いくら『ドラゴンセール』でもそれはマズいから。あと冒険者さんいますぐ退いてくださいお願いします」


「お、おう、店員を勧誘して悪かったな」


 セールの混雑に紛れてバルベラに声をかけていた冒険者さんを引き剥がす。

 あっさり諦めてくれて助かった。

 いつもならもうちょっと従業員本人に任せるんだけど今日はマズい。


「我が愛し子を仲間にしたいとは! 我に勝ってから言ってもらおうか!」


「無理ゲーすぎる。落ち着いてくださいバルベラパパさん。ちょっと気になっただけでほらもう離れていきましたから」


「ダメよアナタ」


「あ、止めてくれるんですねありがとうございますバルベラママさん」


「まずは私に勝ってからじゃないと。さあニンゲン、覚悟はいいかしら?」


「ママさんもやる気だった。伝説のドラゴンに二連戦ってこれ認める気ないでしょ。ほら落ち着いてください二人とも」


 なにしろここには、娘ラブな親バカドラゴンがいる。

 無理な勧誘をしようものなら修羅場になる。あたり一帯が更地になるまである。

 なんとかバルベラの両親をなだめて、俺は一息ついた。


「それにしても混雑がすごい。今日は客数と売上の記録を塗り替えられそうだな」


 アイヲンモール異世界店、三度目のドラゴンセール。

 無料送迎馬車で、徒歩で、自前の馬車でお客さまがひっきりなしにやってくる。

 帰るお客さまもいるから、イートインスペースがずっと満席で食べられなかったり、行列がすごくて購入できないってことはない。

 交通整理ありがとう着ぐるみゴースト隊。


 チラッと馬車まわし(ロータリー)の方を見ると、ひときわ豪奢な馬車が目に入った。

 慌ててあたりを見まわす。


「あの馬車は……ってことはどこかに。あ、いた」


 ひらひら飾り布がついた服をまとった、でっぷり太った男。

 指にも手首にも首にもアクセサリーをつけて、金属鎧の護衛を隣に立たせている。

 商人ギルドのギルド長は、今回のドラゴンセールも見に来たらしい。


「こちらはそば粉で作った麺です。この料理はナオヤさんから教わって、私とコレットが作ったんですよ」


「それはそれは。ガレットではなく麺を。ではそれをいただきましょうかねえ」


「お買い上げありがとうございます」


 護衛の男がファンシーヌさんにお金を渡して陶器のどんぶりを受け取る。

 ギルド長は馬車の横、執事っぽい男が用意したテーブルに腰掛けた。

 さっとスプーンとフォークが用意される。


「これはこれは、魚を入れたスープですか。安定して魚介を仕入れられるようになったという噂は真実のようですねえ」


 ガマガエルっぽい喉の肉を揺らして、にちゃっと笑いながら独り言を呟くギルド長。

 独り言、じゃなくて俺に聞かせてるんだろう。


「さて、新しい料理はどのような味わいなのやら。ほうほう、これはこれは」


 どんぶりにスプーンを突っ込んで、スープをすくって一口すする。

 続けてフォークで麺をすくう。

 大口を開けてパクつく。


「ふうむ。食べづらいですが、味は及第点といったところでしょうかねえ。物珍しさでしばらくは売れることでしょう」


 もちゃもちゃ咀嚼して飲み込んで、ギルド長はそんなことをのたまった。

 食べづらいのも当然だろう。


 ニシンっぽいものそ(・)ば(・)はフォークとスプーンで食べるものじゃない。


 慣れないうちは厳しいだろうと、ニシンっぽいものそばは大々的に売り出してない。

 箸を勧めようか、それとも「すすって食べる」んだと教えようか、けどどっちもこの国の文化にはないらしいしなあ、と迷ったところで。


 冒険者たちが空を見上げた。

 騒ぎ出す。

 気になって、俺も空を見上げる。


 ワイバーンがいた。


「おいおい、こっちに向かってきてねえか?」

「アレは人間を襲わねえだろ? 平気平気」

「何言ってんだ、誰か仕掛けたヤツの反撃かもしれねえだろ!」

「くそっ、戦えねえヤツは中に逃げ込め!」


 何人かの冒険者が武器を手に立ち上がる。

 普段外壁から出ない街の人は、空を飛ぶモンスターの姿に震え上がってる。

 マズい。


「みなさん、落ち着いてください! クロエ!」


「そうだぞ、恐れることはない! ここには聖騎士であるこの私! クロエ・デュポワ・クリストフ・クローディーヌ・ヴェルトゥ・オンディーヌがいるのだ!」


「そういうことじゃねぇえええええ! 安全! みなさん安全ですから! あのワイバーンは人を襲いませんから!」


「おやおやおやあ? 首元に何かの陰が、ほうほうなるほど、安定した仕入れはそういうことですか」


 意図した方向性とは違うけど、クロエの言葉はお客さまを安心させたらしい。すごいぞ聖騎士。でもいま言って欲しかったのはそういうことじゃないぞ。


「心配する必要はありませんよ。アレはこのアイヲンモール異世界店が使役しているモンスターのようですねえ。ほら、咆哮もなく大人しく飛んでいますからねえ」


 色めき立つ冒険者と恐れる街の人をなだめたのは、商人ギルド長だった。

 知名度はあるのか、その言葉には説得力があったみたいだ。

 冒険者たちが「なんでえ、驚かせやがって」などと言いながら腰を下ろす。


 ワイバーンは、上空で羽ばたいてスピードを落として、屋上に着陸した。


「タイミング悪すぎますよクアーノさん……いや今日の輸送は営業時間を避けてほしいって言わなかった俺が悪いんですけども」


 天を仰いでボヤく。

 まあ、戦いにならなかっただけでよしとしよう。

 何事もなかっただけでOKだって考えよう。

 クロエとギルド長のおかげで静まったしトラブルってほどのトラブルじゃ——


「困りますねえ、ナオヤさん。モンスターを使役するのでしたら商人ギルドに届け出ていただきませんと。あとでゆっくりお話ししましょう」


 獲物を見つけた狩人のように、商人ギルド長がにちゃっと笑う。

 ああうん、しっかりトラブルだったみたいです。




 けっきょく、俺は午後遅くまで商人ギルド長に話を聞かれた。

 いちおうバルベラとご両親のことは隠したけど、あれは薄々気づいてるようだった。

 この辺じゃワイバーンは双龍島に棲んでるって知ってたし、そもそも竜人族のクアーノさんと顔見知りだったみたいだし。

 申請が必要だって知らなかったとはいえ、お小言と、書類を何枚か書いただけで済んだのは感謝すべきことなんだろう。

 俺の気力はごっそり削られたけど。


「いやあすまねえなあ店長さん! 売れるって聞いたらついつい、な!」


「仕方ないですよ。それに、途中で追加できたおかげで売上は伸びましたから」


「そうだぞナオヤ! 売上はどうだったんだ!? また売上の記録を作ってしまったのか!? いくら売れたんだ? 新記録の250万か!? ま、まさか260万も!?」


「だからなんで刻むんだクロエ。あと顔が近い。もうちょっと離れてほしい」


「みなさん魚介類に喜んでくれました。目玉のドラゴン肉も、魚の目玉もあったのです、今回はきっと……」


「そうですね、ドラゴン肉とお惣菜は完売でしたね。魚の目玉は目玉じゃありませんけど。魚は目玉商品でしたけど」


「……美味しかった!」


「ああうん、バルベラは食材ロス防止のまかないパエリアにがっついてたな。あれも売りに出そうかなあ」


 ちょっとしたトラブルはあったけど、三度目のドラゴンセールは好調なまま終わった。

 みんな売上が気になるらしく、クロエもアンナさんもバルベラも、コレットとファンシーヌさんもレジ閉めをじっと見守ってる。


「よし、じゃあ発表するぞ。三回目のドラゴンセールで魚介類を大々的に売り出した、今日の客数と売上は——」


 行商人さん一家も、つられたのかバルベラパパさんとママさんも、エプロン付きスケルトンも着ぐるみゴーストもじっと俺を見てる。

 あ、バルベラの両親とクアーノさんは従業員じゃないけど関係者なんで、口外法度の約束をしてもらいました。ほんとは社外秘だけど、まあなんとか、ということで。ここ異世界だし。


「客数は569人! 売上は357万6000円だ!」




 俺が店長になってから30日目のアイヲンモール異世界店。

 月間の売上目標は一億円。

 ようやく、日に均して334万円の目標額を達成することができました。

 今日はセールだったわけで、毎日超えなきゃ月間目標は達成できないけど。

 一ヶ月終わって売上1770万円ちょっとだったけど。

 ……一歩ずつ、一歩ずつだ。

 月間売上目標の17.7%だったけど店長になった初月だし本社から詰められないって信じてる。信じてるぞ株式会社アイヲン! 来月はがんばりますので! ちゃんと売上も客数も増加傾向ですので!



 * * * * * * * * * * * * * * *


業務日報

2019年5月30日

アイヲンモール異世界店

店長/谷口直也


日間売上/3,576,000円

日間客数/569人

月間累計売上/17,704,000円

月間累計客数/4,800人


報告事項/

本日の『ドラゴンセール』は過去二度に比べても大盛況でした!

魚介類の販売も好調で、初の日間334万円クリアです!スーパー部門はこのまま営業を続けて売り伸ばしたいと思います。

次の打ち手については早々に案を固めます。

あと五ヶ月以内で目標の月間売上一億円を達成したいと思います。

引き続きよろしくお願いします!


 * * * * * * * * * * * * * * *



次話は11/29(金)18時更新予定です!


【宣伝】

『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン』、2巻出ます!!!

GCノベルズさまより、12月26日発売です!!!

一部ネットストアや書店さんでは予約もはじまっているようですよ、


「コミックライド」さまにて、コミカライズ6話の無料配信はじまりました!

商人ギルド長がいいキャラすぎる……そして数少ないナオヤの活躍シーン!

なお、連載中のコミカライズは

『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 1 』として、

12月26日にライドコミックスさまから発売されます!

あわせてよろしくお願いします!!!



※なお、この物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の業務日報の日間売り上げがとんでもない数字に。
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