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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』
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第二十八話 ……イグアナは喋れるけどワイバーンは喋れないのか。異世界どうなってんだ


 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから27日目。

 俺は、バルベラの故郷で、バルベラの両親と竜人族ことイグアナが暮らす「双龍島」にいた。


「これで輸送の足は手に入った。魚介類も仕入れさせてもらえるんですよね?」


「おう! そこは俺に任せとけ!」


「よし。よしよしよし。スーパーでは鮮魚や干物、乾物を売って、お惣菜、あ、一緒に販売する調味料も」


「ニンゲンよ、料理を献上することを忘れるなよ」


「まあ。アナタったら、ずいぶんあの料理が気に入ったのですね」


「わかりました。リース料と考えたら安いものです。こっちに飛ぶ時に持ってきますね。それでも安すぎるんで何か考えます」


「ほう? ならば我が娘を連れてきてもよいのだぞ?」


「それではこの子のためになりません。バルベラちゃんは独り立ちの決意をしたのですから」


「……たまに帰る。パパ、ママも来る?」


「えっ。バルベラ、さすがにそれは……『火王龍と水妃龍』が飛来したら騒ぎになるんじゃ」


「ふぅはははは! バルベラに求められたらパパがんばっちゃうぞ! ニンゲンが騒ぐなら排除すればよかろう!」


「安心しなさいナオヤ。飛行は夜間に行うわ。弱いニンゲンに挑まれてもわずらわしいだけだもの」


「はあ、ならいいんですけど。ならいいのか?」


 首をかしげる。

 つられてバルベラも首をかしげて、パパさんとママさんも揃って首をかしげる。

 足元のイグアナはふるふると首を振った。


 双龍島の浜辺を埋め尽くしたワイバーンは、「足」に指名した一匹を残してもういない。

 バルベラの両親の「散れ」の一言で、不満を言うことなくそれぞれの住処へ帰っていった。まあ不満は言えないだろうけど。喋れないんで。


「……イグアナは喋れるけどワイバーンは喋れないのか。異世界どうなってんだろ」


「なんか言ったか店長さん?」


「ああいや、なんでもないです。それじゃさっそくアイヲンモール異世界店に行ってみましょうか。あ、その前に港町に寄って仕入れを」


「おいおい店長さん、なに言ってんだ? 騒ぎになっちまうぞ?」


「え? だってワイバーンは問題ないって」


「ワイバーンだけならな。けど店長さんはコイツにゃ乗れねえ。お嬢の背に乗って飛んでったら騒ぎになンだろ」


「は? 乗れない? え、じゃあ輸送は、問題解決したなあよかったよかった、って思ったのに」


「まあ問題が解決したのは間違いねえよ。ニンゲンは重くてワイバーンにゃ乗れねえが……俺を忘れてもらっちゃ困る!」


 ビシッと片脚をあげるイグアナ。

 すすすっと走ってぴょんと飛ぶ。ありえないほどのジャンプを見せる。

 足元の砂が舞ってるあたり、風魔法だろう。


 イグアナはワイバーンの首元に着地した。

 ワイバーンはされるがままで大人しい。


「このリュックに新鮮な魚介類を詰めて、アイヲンモール異世界店と港町を往復してやるよ! 竜人族のクアーノは今日から竜騎士(ドラゴンライダー)だ!」


 ワイバーンの首の付け根で、二本の後脚で立ち上がるイグアナ。

 前脚でくいっとハットのフチをあげる。

 森と浜辺に散った同族のイグアナたちが口々に、ケキョー! と奇妙な声をあげる。

 あ、みんな鳴けるんですね喋れるぐらいですもんね。ところでそれ歓声なんでしょうか。


「そういえばお名前、クアーノっていうんですね」


「おう! これからよろしくな店長さん!」


「こちらこそよろしくお願いします。……あ。ひょっとして、アイヲンモール異世界店で会ってから二、三日しか経ってないのに港町にいたのって」


「あん時ァ先生の頼みだったかンな。あのデカい店の様子を見に行くってんでお借りできたのよ! お嬢がいるとは知らなかったけどな!」


「ばっ、貴様、いまそれは」


「アナタ? 心配でも黙って見守る約束だったのでは?」


「う、うむ、だがバルベラはこんなに小さくてだな、それに動いたのは我ではなく、見守るには必要なことで」


「へえ、そう。頼みごとをしたから港町にいたのね。そうして戦力を頼まれた、と」


「その通りだが待て! お前こそ我にナイショで愛し子とニンゲンとクローディヌの娘とアンナとともに行動していたではないか!」


「それはそれ、これはこれですよ」


「ズ、ズルいではないか! だったら我も!」


「……ケンカはダメ」


 腰を曲げてツノをゴツゴツぶつけあうバルベラパパさんとママさん。

 火と水を司るせいか、接触したツノから水蒸気が出てる。

 避難しようかなーと思ってたところでバルベラが二人の間に割って入った。

 小さな手でちまっとそれぞれの手をつまんで握手させる。


「う、うむ、ケンカは良くない。パパとママはケンカしたわけではないぞ? これは討論で」


「そうよバルベラちゃん、これは必要なことなの。このわからずやにわからせるために」


「……ダメ」


 バルベラが下から見上げると、パパママのツノが離れた。水蒸気もおさまる。

 子供に諭されてもケンカを続ける両親ではないらしい。


「あ。そういえば俺が異世界に来た最初の朝に、ワイバーンを見たけど……まさか。クアーノさん、27日前あたりにあの辺にいませんでした?」


「ん? ああ、そいつァおそらく仕入れだな。あの街じゃなきゃ買えねえもんもあるンだよ」


 俺が初日の朝に見て、ここが異世界であることを実感した、火を吹く鳥とワイバーンのドッグファイト。

 原因はこのイグアナ、もとい竜人族のクアーノさんだったらしい。


「お前かぁぁぁああああ! すぐ異世界って実感できたし感謝してるけども! あの時だってビビらなかったけども!」


「お、おう?」


「……気にしない。ナオヤはときどきこうなる」


「そ、そうか。店長さんも大変なんだなあ」



 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから27日目。

 魚介類の仕入先も見つかり、港町とアイヲンモール異世界店をつなぐ「足」も手に入れた。

 今日からスーパー部門が充実しそうです。


 …………あ。

 俺はワイバーンに乗れないわけで、またバルベラに乗って夜中にこっそり帰らなくちゃいけない。

 明日から、スーパー部門が充実しそうです。




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