第十九話 アイヲンモール異世界店でしか食べられない、これが海鮮系の目玉商品候補だ!
「うん、うまく揚がってる。ほんとは小魚でやるんだけど……まあコレはコレで」
「美味しい、美味しいぞナオヤ! サクサクでふわふわで、魚とはこれほどのご馳走だったのだな!」
「クロエの反応もいいと。食材もかぶってるし、販売するのはやっぱりアジフライが有力かなあ」
「あじふらいと言うのか! ドロっとした黒い粘液をかけても美味しいし、ところどころダマが残る白い液体をかけても美味しいな!」
「言い方言い方ァ! ソースはトンカツでも使ってるだろ!」
「ふふ、ですが本当に美味しいですよ。コクと酸味、それに具材の食感をあえて残したこのソースはなんでしょうか?」
「今回は市販の『タルタルソース』を使いました、やっぱり調味料は日本から持ち込んだものの方がレベルが高いよなあ」
「……おかわり!」
「はいはい、ちょっと待ってなバルベラ」
俺が店長になってから26日目のアイヲンモール異世界店。
アイドルタイムにお客さまが殺到することもなく、屋上の試食会は続いている。
焼き魚や魚介の浜焼き、ブイヤベースに続いて俺が提供したのは「アジフライ」だ。
いや、アジとは明らかにサイズが違った。「アジっぽいものフライ」だ。
もちろんそれだけじゃない。
「よし、美味しくできてる。煮付けを食べるのもひさしぶりだなあ」
クロエとアンナとバルベラがアジフライに夢中になってるのをよそに、俺は尻尾に針がついたカレイっぽい魚の煮付けをつつく。
「お母さん、これわたしも手伝ったんだよ! 食べて食べて!」
「まあ、すごいわねコレット。茶色い、魚。ナオヤさんの料理ですもの、ここは私がいただきましょう」
「ビーフシチューと同じで、煮付けは見た目が問題ですか。ファンシーヌさん、無理しないでくださいね」
アジフライと違って煮付けへの反応は悪い。
コレットに促されて、ファンシーヌさんがフォークでほぐして小さな身を口に運んだ。
もごもごしたまま目を見開く。
「どう? お母さん、味はどう?」
「美味しい。これも、なんて美味しいのでしょう。身はしっとりとやわらかく口の中でほどけ、茶色い汁の旨味と合わさって極上の味わいです。すごい……やはりここは天国だったのですね。『神ではない』とおっしゃるなら、ナオヤさんは御使なのですね」
「御使じゃないです拝まないでくださいファンシーヌさん。すごいのは俺じゃなくて日本の調味料で」
褒められすぎてちょっと引く。
照れをごまかすように、俺は立ち上がってワゴンに近づく。
さっき使ってなかったエレベーターをわざわざ動かして運んできたワゴンだ。
乗ってたのはアジフライと煮付け、だけじゃない。
「港町の様子を見ると自信はないけど……これも、試食してみてほしい」
ワゴンの上に乗せた寸胴鍋から、深皿に料理をよそう。
人数分を並べたところで、俺は慎重に大皿を手に取った。
テーブルの上にそっと置く。
「アイヲンモール異世界店でしか食べられない、これが海鮮系の目玉商品候補だ!」
「ナ、ナオヤ、なんだこれは? なんだこれは!? いま目が合ったぞ!?」
「あの茶色い半固形物を溶かした汁……本当に食べ物なのでしょうか。いえ私は食べても死にません。死にませんけれど」
「……こおり?」
一つ目は味噌仕立てのあら汁。
調理してるところを見たアンナさんが引き気味だ。
溶かしちゃえばわからないけど、日本育ちじゃない人にとって味噌の見た目はたしかにアレかもしれない。
頭がついたままの煮付けは平気だったのに、クロエはあら汁に入れた頭の目玉に引いている。基準がわからない。そのままの姿は角牛や突撃イノシシの丸焼きで慣れてるからだろうか。
「店長さん、本当に、このまま食べるんですか?」
「コレット、ナオヤさんの判断に間違いはありません。港町では生のまま食べるモノもあると聞きます。これもそうなのでしょう」
けど、クロエとバルベラ、それにコレットとファンシーヌさんを釘付けにしたのはあら汁じゃない。
もう一つの料理。
刺身の盛り合わせだ。
まあバルベラは生魚より、下に敷いてある氷の方に興味があるみたいだけど。
せっかく赤身魚も白身魚もあったし、三枚におろして姿盛りにしてみた。
さすがに舟がなかったから、氷で底上げした大皿に盛っただけだけど。
鮮度の問題で、足の早い青魚はいちおう避けておいた。
「なま、なな、なまだとッ!? ナオヤは『やはりナマが一番だよなあ』などと言って! わた、わたしをっ! くっ、殺せ!」
「クロエさん、浄化をお願いします。生魚と排泄物スープ、どちらも念入りに浄化をかけてください」
「それはたしかにお願いしたい。頼むぞクロエ」
「もちろんだアンナ! 『浄化』! 『浄化』! だが私は食べなくてもいいだろう? いいだろうナオヤ?」
「『浄化』で寄生虫の問題はないわけで、できれば食べて欲しいかな。なにしろ『試食会』だから」
「……つめたい!」
「ほら、ボリボリ氷だけ食べるな。皿に盛ってあるけど食べるのは氷じゃないぞバルベラ」
「あのね、見た目は変だけどスープはおいしいんだよ! だからスープも生魚も大丈夫なんだよおかーさん!」
「ええ、そうね。ナオヤさんのすることに間違いはありません。私たちを救ってくださったナオヤさんに恩返ししましょう。さようならコレット」
「ファンシーヌさんの献身が重い! 大丈夫ですから! 食べても死にませんから!」
平気なことを証明しようと、刺身を一切れ箸でつまんで醤油につけてパクッといく。
おののく五人の目が俺に集まる。
子供用イスに座ったイグアナは、静かに俺を見つめてくる。
「うん、美味しい。ただ赤身はマグロやカツオほどじゃないかなあ。刺身なのに歯ごたえがすごい」
「だ、大丈夫かナオヤ? 舌を千切られたり腹を食い破られたりしないか?」
「平気平気。おお、白身魚の方は美味しい! ほどよい歯ごたえに濃厚な旨味、これはタイとかヒラメ以上かも。日本に持ってったら人気でそう」
「……おいしい!」
「あっダメよバルベラちゃん! いま『治癒』の魔法をかけるからね!」
「スープはいい匂いでおいしいです! けどお魚? はネトッとしててあんまり……贅沢言ってごめんなさい」
「気にするなってコレット。そういうのも含めて意見を聞きたかったんだから」
「これは好みが分かれるかもしれません。スープも、これでしたら身をほぐした方がいいかと思います。手間はかかりますが、販売されるなら私が」
「なるほど。じゃああら汁は濾して身を取るかなあ。いやそれならいっそ出汁にして、何か考えるか」
「……ばりばりしておいしい」
「ああうん、バルベラはそのままイケるのね。そりゃそうだよねドラゴンだもんね」
あら汁、刺身の盛り合わせ。
うまくいけば魚介類を使ったお惣菜の目玉にって考えてたけど、みんなの反応はイマイチだった。
……アンナさんとコレットに相談して用意した、最後の一品に期待しよう。





