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恋多き落ちこぼれ魔女の正体は、最強の愛し子です!  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第二章 留学生と魔女

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留学生と魔女⑦

「苦いな……」


 宿舎に戻り夕食を終えたケイは、自室でエイミーからもらった睡眠導入薬を喉へと流し込みながらベッドへと腰掛けた。

 王国滞在中は、植物園の敷地にある宿舎で暮らしている。

 そこに住む職員もいれば、研究のために泊まり込む職員もいる。


(やはり魔術師に対しても手厚いな、フェリーク王国は)


 ケイに与えられた部屋は簡素ながらも一番広い部屋だ。隣国の皇族として一応は丁重な扱いを受けているらしい。


(王国は平和ボケしていて帝国の策略に気づいていないのか……それとも帝国ごとき相手にもしていないのか)


 考えながらふと窓の外を見れば、キラキラと発光した物体が無数通過していくのが見えた。

 立ち上がったケイは薬の瓶をサイドテーブルへと置き、窓を開けてその光の行き先を視線で追いかける。


(この植物園は広く、奥に立ち入り禁止区域もあると聞いた)


 ケイはこの数週間で得た情報を頭の中で整理する。

 ケイはこの宿舎と研究室の間をホスト役であるエイミーを伴ってでしか行き来できない。今日の頒布会でも至る所に騎士が配置されていて、他へ侵入できる隙などなかった。


(さて、どうしたものか……)


 この植物園には職員すら立ち入りできない場所がある。それを教えてくれたのは研究チームの一人である女性魔術師だ。彼女はケイが優しく微笑むだけであっさりと情報を教えてくれる。しかし確信に迫るに至らないのは、彼女もまた秘密を知らされていない一人だからだ。


(その立ち入り禁止区域とやらに、この国の秘密が眠っているのは確かだ)


 精霊たちが向かった先を睨み、ケイはそう確信する。


(この国の発展は精霊による恩恵……精霊の数でこんなにも魔法の行使に違いが出るのか)


 魔術学園に留学中は、魔法が使いやすい理由を単純に帝国よりも精霊が多いからだと思ったいた。しかし、その数はケイが思っていた以上のようだ。もちろん、あんな数を帝国で見ることはない。むしろファルファデ帝国の精霊は枯渇しているようにみえる。植物園で目の当たりにした精霊たちを思い出し、ケイは拳を握りしめた。


『王国が帝国にいる精霊までも根こそぎ奪っていったのだ! お前はその秘密を握ってこい』


 父である皇帝から命を受けたケイは、留学でこの国を訪れている。しかし魔術学園への留学期間中は何も掴めなかった。

 言い寄ってくる女生徒たちを惑わせながら情報を得ようとしても、真実に辿り着けない。しかしある日、騎士団に就任が決まった友人のバーナードが植物園へ頻繁に出入りしていることを聞きつけ、何かあると踏んだ。


(婚約者候補の子が働いているみたいだけど、私的な理由で頻繁には行かないだろう)


 王国最大の機関である植物園にこそ秘密がある。そう思ったケイは、植物園に就職が決まっていた令嬢から大きな情報を聞き出すことに成功した。植物園で新薬が開発されていると。

 王国は医療も発展しており、その技術を他国に教授することを厭わないでいる。そこで皇帝がケイの植物園への留学を再度希望したのだ。


(今度こそ……これが最後のチャンスだろう)


 研究チームでの学びは、確かに帝国では知りえないことばかりだ。しかし、王国で最近出回っているという最新の特効薬を作るそぶりも、話題すら出てこない。ケイがそれとなく聞いても、「聖女であるセレナ様の領域なので」と言われるだけだった。


(その薬が王国や精霊の秘密に繋がると思ったんだけどな)


 しかしセレナがケイと一緒に研究をすることはない。彼女には特別に研究室を与えられ、王国からの依頼に応えているらしい。あと一歩のところまで情報を掴んだものの、確信を得られない。ケイはぎりりと奥歯を噛みしめた。


(やはり崩すならあの子からか。セレナはガードが固い)


 セレナはケイに興味がないらしく、他の女性魔術師のように近寄ってすらこない。しかも常に護衛を引き連れているものだから、うかつに色仕掛けもできない。

 ケイは幼いころから言い寄ってくる女性たちのおかげで、自身の顔の良さを自覚していた。ケイが顔を寄せて見つめれば、大抵の女性は落ちる。

 バーナードの婚約者候補であるエイミーは聞いていた通り地味な女の子だったが、可愛いと思ったのも本当だ。

 迫るケイに顔を赤らめ、ぽーっとした瞳で見つめてくる。言い寄ってくる女性たちとは違った好意の矢印に、ケイは自尊心をくすぐられる感覚がした。

 エイミーは魔力量が少なく、植物園ではお荷物扱いされているらしい。


(だったら優しくして、僕に夢中にさせてから情報を引き出そう)


 植物園では大したことをしていないらしいが、バーナードの婚約者候補だ。何か知っている可能性は高い。

 ケイは標的をエイミーに変えて、落としにかかった。しかしエイミーから好意を持たれているのは確かなはずなのに、いまいち手ごたえを感じない。そればかりか、ケイはエイミーの知識に驚かされてばかりだ。


(どこがお荷物なんだ?)


 何度その疑問を持っただろう。エイミーと議論する時間は有意義で、楽しいとすら感じる。

 ケイは帝国のために潜入しているが、薬の研究は本当に好きなのだ。


(もしかしたら、エイミーの知識が特効薬に使われていたりしないか?)


 ケイはそう考えるようになった。セレナとの接点を探るために、今日の頒布会を利用して迫った。

 キスの一つでもすれば口を割るかと考えていたケイに反し、エイミーはケイのクマに気づいて顔を青くさせた。


『ケイはいつも人のことばかりを優先しすぎです……もっと、自分も大切にしてください』


 そう告げたエイミーを思い出せば、愛しさがこみ上げる。

 ケイのために必死になって、心配してくれる女の子。

 気づけばケイはエイミーを抱きしめていた。


(攻略を考えている僕がバカみたいだ)


 サイドテーブルに置いた薬瓶を手に取り、ケイは目を瞑った。

 過ごしてきた日々が脳裏をかすめる。どれもケイをまっすぐに見つめる綺麗なエイミーの目だ。

 エイミーは前髪を長く伸ばして目を隠しているが、モスグリーンの瞳が澄んで美しい。


(それでも僕は……やらないといけない)


 脳裏に焼き付くその瞳を振り切るように、ケイは首を横に振った。


(まずはデートに連れ出して、完全に彼女の心を掌握するんだ)


 これは任務のためだと、ケイは薬瓶を握りしめていた手に力をこめる。そうこうするうちに眠気が誘い、ケイはベッドに身体を深く沈め、眠りへとついた。王国に再び来てから、初めての熟睡だった。

沢山のお話の中からお読みいただきありがとうございます!次話から第3章に入ります!

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